第3章 垣間見エル悪意

「忙しいところ悪いね」

 四方が申し訳なさそうに頭を下げた。

「いいってことよ。ここに来ればつぐみちゃんの入れた珈琲がただで呑めるし」

 星乃陽花里はそう答えると、嬉しそうに珈琲を口に運んだ。部分的にピンクに染めたショートヘヤーの黒髪が、雪のように白い肌に映える。丸顔に猫の様な大きな瞳には、パープルのカラーコンタクトが入っており、人の視線を釘付けにする神秘的な魅力を湛えている。

 紫が好きなのか、長袖のシャツと襟元から覗くアンダーシャツも濃淡はあれど同色系。パンツと靴は黒だが、靴下は濃い紫。一見、怪しげともとれる風貌だが、これには訳がある。

 彼女は雑誌やメディアでも引っ張りだこの人気占い師で、探偵事務所の上の階に店舗を構えている。よって、格好もそれなりにミステリアスなイメージを演出しているのだ。因みに、いかにもタロットカードを使いそうな雰囲気を醸しているものの、彼女の占いは手相がメインだ。

「肝心の画像が消えたってんで、やむなく前後の画像を送ってもらった」

 四方は、タブレットで受信した画像を陽花里に見せた。

 画像には清流を背景に笑顔で映る姉妹の姿があった。

「うわっ! ヤバっ! 」

 画像を覗き込んだ途端、陽花里は顔を顰めて目線を逸らした。

「でしょ? だからここに来て貰った。上の仕事場に持って行ったら、絶対中に入れてもらえないと思って」

 四方がそう陽花里に話し掛ける。

「勿論、絶対に入れなかった。ドアの鍵閉めて照明を落として居留守使ってたわ」

 陽花里は画像を忌まわしげに見ながら、吐き捨てる様に言い放った。

「多重の結界を張っても禍々しい瘴気が染み出て来るからな」

 四方が苦笑を浮かべた。

「でも、これはヤバいって・・・」

 陽花里は眉を顰めた。

「うーん、俺には何も見えんのだけど」

「え? 」

 四方が驚きの声を上げる。

「宇古陀さん、いつの間に来たの? ていうか、どうしてここにいるの? 」

 四方が困惑顔でいつの間にか話に加わっている宇古陀を凝視する。

「いつの間にって・・・さっきだよ? 」

 宇古陀は悪びれる感じも無く、とぼけた口調で答えた。

「宇古陀、気配を消して忍び寄るとは。なかなか腕を上げたな」

 つぐみが妙に感心した目線を宇古陀に送る。

「あり難きお言葉でござる」

 宇古陀は御調子のりでござる。

「時に宇古陀。お前、確か仕事で沖縄に行ったのではないのか? 」

 つぐみが首を傾げた。

「うん、行って帰って来た。これお土産。定番のちんすこうね。星乃ちゃんの分もあるよ。はい泡盛」

 宇古陀はテーブルの上にどんと菓子折りの山と酒瓶を積み上げた。

「ありがとうございますう! 」

 陽花里は上機嫌で手を擦り合わせると泡盛を抱き締めた。。

「これって桧山さんの娘さんだよね。彼はいつ来たの? 」

 宇古陀は画像を覗き込みながら四方に声を掛けた。

「宇古陀さん、何故それを? 」

 四方が怪訝そうに宇古陀を見た。

「桧山さんに四方ちゃんを紹介したの、俺だもん」

 宇古陀は得意げにニヤリと笑った。

 

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