与那国ドゥタティ
自分の研究室がないキャンパスで講義がある時は、授業開始まで教員控室という大部屋で過ごすことが多い。小中高にある職員室のような部屋である。
ある日そこで準備作業をしていると、私よりもいくつか年長と見える女性の先生に声を掛けられた。
「ひょっとして、それ、ドゥタティですか」
「ええ、そうです」突然、そう尋ねられて私は驚いたが、驚いた理由は唐突に声を掛けられたからではなく、私が着ていた着物がドゥタティだと分かったことに驚いたのである。
「よくお分かりになりましたね。初めて言われました」
私がそう答えると、「実は、以前調査で与那国を長く訪れていたことがあるんです」とのこと。「あまりにも懐かしくて、ついお声がけしてしまいました」
ドゥタティは与那国島の伝統的な織物である「与那国織」のひとつである。綿麻(木綿と苧麻)素材の織物で、柄は白、青、黒の小ぶりのギンガムチェック柄。伝統工芸品に指定されているが、伝統的な織物と思えないような現代風な柄だ。
正確に言うと、ドゥタティはこのギンガムチェックの布を4枚使って仕立てた黒衿付きの浴衣のような服のことで、名前の由来も当地の言葉で「4つの仕立て」(ドゥ=4つ、タティ=仕立て)を意味する。だから私が着ていたのは「ドゥタティを仕立てるための反物で仕立てた着物」ということになる。
私に声を掛けてきた女性が「なつかしい」と言ったように、ドゥタティは与那国の生活に今でも残っている。元々は日常着や作業着として用いられてきたが、現在は祭事の際に着用する。本来は島から持ち出すことが禁止されていたそうで、島民にとっては神聖な布だったのかもしれない。
「このドゥタティの着物を着て与那国のお祭りを観に行ってみたいですね」
私が軽い気持ちでそう言うと、女性が笑いながら答えた。
「ドゥタティを着ていたら島の人と一緒に踊らなくちゃいけませんよ」
まずは踊りの練習から始めなくてはならないようだ。
参照文献
沖縄総合事務局『群星』2009年5月・6月号
八重山教育旅行誘致委員会「沖縄八重山学習ガイド」
着物生活、始めました 土橋俊寛 @toshi_torimakashi
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