弘法大師を追いかけて 四国お遍路旅エッセイ
【レビュー】
四国八十八ヶ所の霊場を巡る「お遍路」にチャレンジした土橋俊寛さんの約一年をかけた道程を綴る旅行記です。
普段から歩くのが好きという土橋さん。最初のうちは一日で数ヶ所を巡れて簡単かに思えたが、お遍路はそんな甘い旅ではなかった。
天気が荒れて全身ずぶ濡れになったり、道標を見失って道に迷ったり、三百三十三段もの石段に息を切らしたり、『遍路ころがし』と呼ばれる難所では一日中山道を歩き通し、生まれて初めて疲労で動けなくなるという壮絶な体験をする。
そんな過酷な旅だからこそ、地元の人の「お接待」の優しさが胸に染みるんです。宿坊で居合わせた初対面のお遍路仲間と一緒に道を歩いたり、飲みに出かけたりといった交流も心温まります。
霊場ごとにも特色があって面白いです。湯治で有名で温泉寺の二つ名のある安楽寺、仁王像の代わりに鶴の像が立つ鶴林寺、捕鯨の街だからクジラの供養塔がある金剛頂寺など、実際にひと目見たくなる旅情緒あふれる描写が素晴らしい。
やがて季節は絢爛の春から猛暑の夏へ、次第に険しさを増していく四国のお遍路旅。土橋さんは無事に歩き切ることができるのか?
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=愛咲優詩)