第16話 女王と龍王の剣
ロイド王子はアルベルト王子に挨拶をした。
「アルベルト王子、ご挨拶が遅くなりました。シーパウル王国第二王子のロイドです」
ロイド王子がソフィア姫に恋心があるならアルベルト王子は軽く牽制する。
「エターナル王国第二王子のアルベルトです。僕の妻になるソフィアの誕生祭にお越し頂きありがとうございます。お友達のロイド王子に祝ってもらえる妻は幸せ者だ。ロイド王子、是非今後は僕とも仲良くして頂きたい。よろしく」
ロイド王子にとって妻と言うワードは攻撃として威力があった。
その攻撃はまるで岩で頭を殴られたようなダメージだった。
ロイド王子は一瞬だけ固まったが正気を取り戻し話した。
「こちらこそよろしく」
妻と言われてソフィア姫は毅然とした態度で訂正する。
「妻と呼ぶのは、まだ早いですわ」
アルベルト王子は微笑みながら言う。
「ダメかな? 僕なりの愛情表現なんだけど」
殺される相手に甘い言葉を言われてもソフィア姫は恋心を抱かないと思っていたがアルベルト王子が好意が本気だと感じてソフィア姫は甘い言葉を無視できなくなっていた。
ソフィア姫はどう対処していいか分からなくて言葉が見つからない。
自分の胸の高鳴りばかり聞こえる。
ソフィア姫は手に負えなくて急に話題を変えるしかない。
咳払いのようなものをしてからソフィア姫は言う。
「ゔっゔんっ! 今日はロイド王子にお話があります」
その時レイブルがバサバサと羽音をたて話した。
「そうそう! 龍王の剣の話!」
ロイド王子が驚く。
「鷹が喋った!」
ソフィア姫はクスクス笑いながら話す。
「鷹の姿をしていますが彼は魔剣のレイブルよ」
レイブルが話す。
「よろしくな! 誕生祭がもう終わるぞ! 早く話を聞かせてくれ!」
ソフィア姫は真剣な顔をしながら言う。
「ロイド王子、竜王の剣が山賊に盗まれてからどうなったか教えて下さい」
ロイド王子は反省した顔で言う。
「はい……まずはお詫びを申し上げます。お祝い品を山賊に盗まれて本当に申し訳ない」
ソフィア姫が言う。
「気に病まないで、悪いのは山賊です」
少し気がらくになった顔色でロイド王子が話す。
「ソフィア……お気遣い、ありがとうございます……調べでは龍王の剣はまだ山賊が持っています。しかし山賊の頭は妖術使いで取り返すには難しくて……」
ソフィア姫は申し出た。
「それなら私に取り返すお手伝いをさせて!」
ロイド王子は少し驚いた表情をしてから助けてもらうか悩んだ。
ソフィア姫はロイド王子の顔色を伺いながら言う。
「どう……かしら?」
ロイド王子は困った顔で言う。
「気持ちは嬉しいけど……俺の失態だから自分で解決したい……でも……そう言ってもソフィアは首を突っ込むんだろ?」
ソフィア姫は勇ましい顔で答えた。
「ええ!」
ロイド王子は呆れた顔で話す。
「はあ……何でも自分でやらないと気が済まない奴だな。仕方ない許可するよ」
ソフィア姫はクスクス笑いながら言う。
「ありがとう。それでは出陣させてもらうわ」
アルベルト王子も話に入る。
「僕も手伝います!」
レイブルが口を挟む。
「お前たち! シーパウルの山賊を舐めてないか? 俺は妖術使いとやり合った事があるから分かるが、ひよっこのお前らじゃ全然ダメだぜ!」
ソフィア姫は答えた。
「レイブルがいるから大丈夫よ」
レイブルは照れた。
「参ったな」
ロイド王子がソフィア姫の目を見て言う。
「ソフィア! 俺は……レオナルド王から剣を受け継いだのは姫を迎えると決意したからなんだ……だから剣は俺が絶対に取り返す!」
ソフィア姫は自分に向けた言葉だと思わなくて目を輝かせて感想を言う。
「父の贈り物がそのような重要な役目で光栄ですわ」
ロイド王子は気づいてもらえなくて白目になって魂が抜けそうだ。
レイブルはソフィア姫の鈍感な性格で呆れた顔をする。
アルベルト王子はソフィア姫とロイド王子が恋仲にはならなくて良かったと安心している。
ソフィア姫は拳を振り上げて、やる気に満ちた顔で言う。
「レイブル、私たちに特訓をお願い!」
レイブルはビックリしながら言う。
「俺が!?」
ソフィア姫は目をキラキラさせて言う。
「師匠! 稽古をどうか! お願いします!」
レイブルはソフィア姫に頼りにされて気分が良くなり承諾した。
「師匠……おう! 任せておけ!」
ソフィア姫は笑顔になる。
数日後にシーパウルの城に集まり山賊対策の訓練をした。
山賊の縄張りで戦うのはソフィア姫たちに勝ち目はないのはよく分かっている。
相手のペースにもっていかれないように自分たちの戦いを模索する。
ロイド王子が相手の戦い方を教えてくれた。
「相手は妖怪を従えて戦ってきます。鳥の妖怪もいるので空からの攻撃には特に気をつけて下さい。あと山賊は木から木へと飛んで移動するので、こちらも同じような動きができないと対戦はかなり不利です」
ソフィア姫は木に登る。
「木登りはできるけど……ジャンプして飛び乗るのは無理だわ」
アルベルト王子はジャンプをして木の枝に飛び乗る。
アルベルト王子はすでに必要な筋力を持って いた。
ソフィア姫は目を丸くして驚く。
リアム先生もジャンプをして木の枝に飛び乗る。
ソフィア姫口を尖らせて言う。
「2人とも……簡単に……なんだか……」(悔しい!)
ソフィア姫は木を睨みつけて叫ぶ。
「私だって!」
ソフィア姫は木から降りて木の根元で二度軽くジャンプをしてから強く地面を蹴り高くジャンプした。
しかし木の枝には乗れない。
ロイド王子も同じように試しにジャンプしたが木の枝には乗れなかった。
何度か二人は繰り返したが結果は変わらない。
それを見てアルベルト王子が違う方法を提案する。
「木に駆け上がって枝に向かって飛びつくのはどうでしょう?」
ロイド王子はライバルに助言を受けるのは情け無いと思ったが自分のプライドより成長が大切だと冷静に判断して素直にアドバイスを受け入れて挑戦する。
アルベルト王子に言われたように木に駆け上り木を素早く蹴って飛んで枝を掴んだ。
ぶら下がった状態で足を前後に揺らしてから空に向かって足を上げる。
すると鉄棒の逆上がりのようにクルッと回り木の枝に乗れた。
それから1番近い木に飛び乗ると成功した。
ロイド王子を見ていたソフィア姫は拍手して興奮した。
「凄いわ! 私もやってみる!」
ソフィア姫は同じように木を駆け上り素早く飛び枝を掴もうとした。
しかし手を滑らせてしまう。
アルベルト王子が下で受け取る体制をしたがリアム先生が飛び込んでソフィア姫を空中でキャッチした。
アルベルト王子はソフィア姫が助かりホッと安心したがリアム先生にソフィア姫が抱きしめられているのを見てモヤついた。
リアム先生はソフィア姫を抱きしめたまま言う。
「自分をもっと大切にして下さい」
ソフィア姫は落ちた驚きで胸がドキドキしているのかリアム先生にドキドキしているのか分からない。
ソフィア姫は助けてくれたリアム先生の顔をまともに見ずに俯いてお礼を言う。
「ありがとう」
ロイド王子が駆けつけて心配そいな顔で言う。
「どこも怪我はない?」
ソフィア姫は顔を上げて平気な顔を見せて答えた。
「大丈夫です」
そんな四人をレイブルは見ながら思った。
(ソフィアの取り合いで揉めそーだー)
複雑な人間関係の中で修行が定期的に行われてソフィア姫たちは一歩一歩だが成長した。
月日が流れて二年後。
修行のお陰で山賊の頭に対抗できる見込みが見えてきた。
ついに龍王の剣を奪還する日を決めた。
この戦力に執事のフォルトも参加した。
フォルトには友人の為に山賊退治に手をかすことを伝えた。
山賊が潜伏している湖を目指して三隊に分かれて攻める事にした。
湖の裏には山があってロイド王子たちは山の方から攻める。
ソフィア姫は左側の森からアルベルト王子は右側の森から攻める。
ソフィア姫は11歳になって初めての大きな実戦経験になるが本人は恐れる事なく堂々としていた。
ソフィア姫はリアム先生とハルト副隊長、それから10人の騎士を連れて森の中を静かに進む。
昼間なのに森は薄暗くて気味が悪い。
周りを注意して進んでいたら木の枝に狐の姿が見えてソフィア姫と狐の目が合う。
ソフィア姫は呟いた。
「変な感じ……本当に狐?」
リアム先生も狐を見た。
すると狐の体が炎で燃えてソフィア姫に襲いかかる。
ソフィア姫が叫んだ。
「やっぱり……全員! 戦闘開始!」
ソフィア姫は燃える狐を避けた。
ソフィア姫が魔剣のレイブルを掴むと剣が青い炎をまとう。
レイブルが言う。
「火力ならこっちも負けてねぇぜ!」
ソフィア姫が一振りするとレイブルの炎が刃のような形で真っ直ぐ狐に向かって飛ぶ。
狐は避ける事なく真っ直ぐ突進してレイブルの刃の炎と衝突すると爆発して狐の姿は消し飛んだ。
ソフィア姫は剣を地面に突き刺さして爆風に耐えた。
「みんなは大丈夫!?」
リアム先生が盾を下げて答えた。
「無事です!」
ソフィア姫はホッとした後にレイブルに怒鳴る。
「レイブル爆発するなんて聞いてないわよ!」
レイブルは陽気に答えた。
「思ったより爆発したな」
ソフィア姫は力の凄まじさに信じられない顔をしていた。
「どうして爆発したの?」
レイブルは言う。
「ソフィアの体質が火と相性がいいんだよ」
ソフィア姫は驚きながら言う。
「体質?」
レイブルは簡単に説明する。
「ソフィアは火の属性の魔道具と相性がいい。使いこなせば強いパワーが出る。でも力が出せる代わりに体力が奪われるからな! 戦い過ぎでぶっ倒れるなよ!」
ハルト副隊長が言う。
「今のうちにできるだけ前に進みましょう!」
アルベルト王子の右側では妖怪の鳥たちに襲われていた。
アルベルト王子は木に飛び乗り舞うように剣を振る。
フォルトは下から援護するようにダガーナイフを投げて鳥を仕留めていた。
山の方ではロイド王子が飼っている虎に跨り妖怪の猿と戦っている。
ロイド王子は槍を振り回して妖怪の猿を仕留めていく。
それぞれ湖に少しずつ近づいて行く。
一番に到着したのはソフィア姫だった。
「山賊はどこにいるの?」
その時、湖の真ん中から薄黄緑の鯨が飛び出てきた。
あまりの大きさにみんな驚いた。
ソフィア姫が叫ぶ。
「鯨の妖怪!?」
ソフィア姫は剣を構えた。
その時ロイド王子も到着した。
ソフィア姫にロイド王子は気遣う言葉をかけた。
「ソフィアご無事でしたか!?」
「ロイド王子! 私は大丈夫です。そちらも大丈夫でしたか?」
「はい! 大丈夫です!」
ロイド王子は戦いの興奮状態のせいか気持ちが高まりソフィア姫にカッコイイところを見せたくて妖怪の鯨を倒そうと湖にそのまま入って行く。
シーパウル王国の兵士も追いかけるように湖に入って行く。
レイブルが忠告する。
「おい! 湖に入るのは危険だ!」
ソフィア姫は心配して叫ぶ。
「ロイド王子! 危ないわ! 引き返して!」
兵士たちは止まったがロイド王子は猪突猛進する。
「絶対に倒す!」
すると穏やかな湖がグルグルと渦を巻き始めて流れが荒くなる。
強い波に耐えきれずにロイド王子は流されて湖に沈んでしまった。
ソフィア姫は魔剣を地面に刺し走り出した。
ロイド王子を助けようとソフィア姫は湖に飛び込んだ。
リアム先生はソフィア姫を追いかけて一緒に湖に飛び込む。
魔剣のレイブルは人間の姿になり叫ぶ。
「ソフィア!」
アルベルト王子が到着してレイブルがソフィア姫の名前を叫んで湖に飛び込むのを見た。
アルベルト王子はソフィア姫が湖に沈んだのだと思い自分も湖に飛び込む。
湖の中はクジラがぐるぐる泳ぎ回して渦を作っていた。
ソフィア姫たちは水の中では無力で流されしまう。
すると鯨がソフィア姫たちを飲み込もうと口を開ける。
ソフィア姫たちは吸い込まれるように口の中に入ってしまった。
クジラの中は暗くて何も見えない。
不安になり少しパニックになったソフィア姫は叫んでしまう。
「鯨に食べられたー!」
リアム先生とレイブルは思った。
(さっきまでロイド王子を助け出そうとする勇気はどこに? 強い子なのか弱い子なのか分からない……でも優しい子なのは分かる)
レイブルが手の平の上に火の玉を出すと中が明るくなり皆んなの顔が見えてソフィア姫は一安心した。
しかし上を見上げると赤い肉の壁で鯨の腹の中だと実感した。
鯨の中は歩けるが自分たちの膝あたりまで水が溜まっていた。
濡れて体は冷えてしまっている。
ソフィア姫が寒そうな顔をするとアルベルト王子が上着を脱いでソフィア姫の肩にかけて抱き寄せながら言う。
「寒いから僕の体温で温まるといい」
濡れた服ごしにアルベルト王子の体温がつたわる。
(子供のくせに……いつも大人っぽい事を……何でアルはいつも余裕でいられるの?)
優しくされてソフィア姫の胸がドキドキした。
アルベルト王子を見ると体は水に濡れて服が体型にそってピッタリくっついて肌の色が透けていた。
(私も服が透けてる!?)
自分の胸元を見るとアルベルト王子の大きな黒い上着のおかげで隠せていた。
(もしかして隠してくれた? でもでもアルには下着は見られたんじゃ?)
ソフィア姫は恥ずかしくて顔を赤くしていた。
大胆な行動をするアルベルト王子にロイド王子は嫉妬したが、こうなったのは自分のせいで何も言えない。
ロイド王子は頭を冷やして謝った。
「俺のせいで……申し訳ありません」
ソフィア姫は我に返り言う。
「いいのよ!」
リアム先生は気に入らない顔をしながら言う。
「出口に行きましょう」
レイブルが困った顔で言う。
「出口ってどこだ? 出れるのか? まさかケツの穴か!? ケツは嫌だぜ!」
ソフィア姫とアルベルト王子とロイド王子と青ざめた顔になる。
リアム先生が呆れた顔で言う。
「口から入ったから口に決まってる」
レイブルがホッとした顔で言う。
「フーッ……口で良かった」
照らしていた火の火力を強くして遠くを見渡す。
すると白い歯が見えたのでそちらに向かう。
歩いて歯の所にたどり着いたが、どうやって歯を開けるのかが問題だ。
レイブルが試しに火を口に近づけたがクジラは全く熱く感じていない様だ。
「開くのを待つだなんて待ってられないわ! レイブルやるわよ!」
レイブルは頷いて言う。
「どうせ倒すつもりだったし……そうだな!」
レイブルはソフィア姫に近づいて剣の姿になる。
青い炎に燃えた剣をソフィア姫が掴むと火力がもっと強くなった。
ソフィア姫が剣を縦に一振りするとスパンッとクジラが綺麗に二枚におろされた。
切り口から水が入ってきて急いで皆んな泳ぎ切り口から脱出して上に向かって泳ぎ地上に顔を出す。
岸に上がるとソフィア姫の顔の前に男が現れ急に剣を振り下ろしてきたのでレイブルの剣で受け止める。
周りを見ると山賊たちに囲まれていた。
ソフィア姫に剣を向ける男は日に焼けた肌で深緑の髪に獣のような黄色い瞳をしていた。
相手の剣は稲妻を帯びて凄まじい力を感じた。
ソフィア姫は剣を強く押して振りはらう。
レイブルがソフィア姫に言う。
「アイツが持ってるのが龍王の剣だ!」
ソフィア姫は男を睨む。
男は偉そうに言う。
「何だあ! ガキの女じゃねぇかよ! んーっ顔は悪くない……俺は山賊頭のサムだ……男は殺せ……女は俺の嫁になれ」
平和を愛する女王とサイコパスな婚約者 みづほ @ebetennmusube
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