本当は

かこ

✶ ✶ ✶

 学者見習いとして城に上がったディムは名だたる錬金術師の弟子・・に師事をあおぐことになった。挨拶をしても、挨拶を返さない、最年少で王家公認の得た天才様だ。本人が固辞したので『弟子』という形をとらざる終えなかったという。

 麦穂色の髪はのびっぱなしで、目の色さえわからない。十五の歳だと聞いていたが、不健康そのものを体現した四肢は叩くだけで折れそうだ。

 今日も今日とて、研究室の一室で一日が終わると思っていたら、外に出る気になったらしい。

 先を読んで扉をあけたディムを天才様は呆然と見ていた。


「誰だ」

「あなたの弟子・・です」

「は?」

「……初日に挨拶をさせていただきました」


 考える素振りを見せた天才様は思い出すのを諦めたのか、ディムの脇をすり抜けていった。

 歩いてついた先は隣接している天文台だ。無断で入っていく天才様を追い、ディムも足を踏み入れた。屋上の物置の影に回り込む。

 口笛を吹いた天才様はどこに隠していたのか、小袋を出した。音を拾った鳥たちが群がる。


「鳥を飼われているのですか」

「飼うつもりはない」


 ディムの問いの返事は素っ気ない。

 眉間にしわをよせたディムは苦言を入れる。


「餌をやっていたら、居つかれるのでは」


 餌を取り出す手が止まり、せっかちな鳥にひっぱられ小袋が落ちた。拾うように膝を折った体は小さい。


「秘密だ」

「秘密、ですか。何故です」

「女官長が怒ると恐いから」


 ディムは吹きそうになった。相手は至極真剣だが、いたずらを隠す子供と一緒だ。笑いを耐えて、鷹揚に頷く。


「善処しましょう」


 ん、と応えた天才様は惜しむように餌を撒いていた。




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本当は かこ @kac0

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