第三十九話 敵は強し。

それより王に話さなければ⋯。いや、でも何て説明を!


「なぁ、試験はまだ終わってないからな。油断するなよ。」


「えーと⋯。」


王に訳を話して協力出来るなら、もう試験に用はないんだけど⋯。どうした――いや、もし僕が途中でリタイアしようものなら王が王になれないッ。


それに、作戦の為にも試験で上り詰めた方が良いかもしれない。例え王が王になってもそれを気に食わない連中はいる。


その為にも、今までを無駄にしない為にもあのみんなでまた冒険は叶わなくても。


僕は試験を受け、上り詰める!


「どうした? 急に百面相をし――」

「王! 僕、やり遂げてみせます!」


「ん? おう?」


あ、ヤバい。今言うべきじゃなかった。


「あ、おうー! と気合いを入れていただけですよー。アハは。」


「随分変わった気合いの入れ方だな。」


と、僕のことなど眼中にないようだ。だって、倒したモイサの残骸というか膜を執心に眺めているし。


にしても、この試験の合格条件は相手から奪わなければいけない。はぁ、何て試験だ。


「今ので私達に近付こうとする者がいると思うか?」


「え? ⋯⋯あー、数名いるくらいでしょうか?」


「うん? 何故そう思った?」


そう言った王の目付きは鋭く笑っているようだった。う、この王は、いつだって僕を試したいらしい。まぁ、答えた方が良いだろう。


「戦力として近付こうとする者、まぁ何ていうか要はあわよくば協力関係を。といった所でしょうか?」


「それから?」


「うぅ⋯。腕に自信のある者なら先に潰しておこうと企むでしょう。」


「それから?」


「え、他にありますか?」


「はぁ。ここが何処か忘れたのか?」


ここが、何処か? んー。


そう思いながら周りのもう日が落ちて暗い自然豊かな木々や草花を、陣地を見渡してふと僕の頭に試験の全容が蘇る。


そうだ、食料問題。ここでは食料の問題もある。だから、答えは――

「食料を求めて協力を求める者、食料だけを狙う者、または協力関係にありつき騙す者、食料と土地の範囲全て根こそぎ奪おうと企む者。」


「馬鹿。もっと簡潔に言え。」


ひ、酷い。せっかく固まっていた頭を振り絞り考えたのに!


「なぁ、少しは正気に戻ったか?」


え。もしかして僕の為に――

「全く。こんな所ではおちおち寝られもしない。しかも生死は問わなさそうだよな。」


「え、生死⋯。」


って! この身体的に生死はどういう判定なんだ?!


「今日合わせて試験は3日間。最終日の3日目の終わりまでに、

要は4日になる前までに土地を800リリーまで広げ、且つ最初に与えられたこの地は死守。これは分かるよな?」


えーと、色々あって忘れてたなんて言えない。にしても3日か。800リリーを3日って! かなり無茶だ。それに加えきっと心理戦をしている所もあるだろう。


そう考えていると、王の視線がキツくなった。う、頷けってこと?


慌てて首をブンブン縦に振る。別に王の圧に負けたとか、あの異遺儡にビビったとかそういう訳じゃない。ただ、その――

「なら、お前はどうすれば良いと思う?」


と、八重歯を覗かせて王が不敵な笑みで言った。へ? あ、えーと⋯


「僕なんかの案を聞いても大した成果にはならな――」

「先程の答えはまとまりこそなかったがそれ以外はマトモな答えだった。」


げっ! これ、絶対話すまで動いてくれないやつだ。


「それに、あの見たことがない魔法といいお前は変な奴だ。だからこそ、その変わった者の意見も聞きたい。私は色んな意見が聞きたいのでな。」


そう、僕に詰め寄りながら言った王。


あー、王らしい。ホント、王らしい。そうだよな。早く試験に合格して助けたい人がいる。その為にも作戦を考えよう。


「分かりました、考えましょう。ですが、一つだけ言いますね。」


「何だ? どうした?」


「見て下さい。このモイサだったモノを!」


「うん、見えるな。」


「やり過ぎです! これが人間に当たったら死にますよ?!」と僕が詰め寄って言うと


「いやしかし、お前はあの時掠りかけた瞬間にちゃんと避けたじゃないか!」


そう、僕はあの時ただでさえ閃危のせいで疲れていたのに更に死にかけそうになったというわけだ。


因みにアレは当たったら死んでた自信がある。


「あの時、殺されるかと思いましたよ!」


「アレくらいで死ぬようでは王になど到底なれん。」


そう言った王の目は真っ直ぐで思わず息を呑んだ。いや、言っていることはめちゃくちゃ野蛮ですけどね?!


「で、作戦は?」


あ。えーと「先ず、ビビられていなければ間違いなく人が来るでしょう。いや、今は暗いので来ないでしょうが。明るくなれば必ず!」


「そうか? 私なら警戒して様子見だが。」


ぐっ。その可能性もかなりある。ウーン⋯あ! 僕からしてあの人の知り合いだと言えば絶対に裏切らない人がいた!


「その顔、何か思いついたな?」


そう真剣な表情で言う王に


「はい! 僕に考えがあります!」


――数分後、作戦説明後――


「その考えなら奴らは来る側の人間だな。」


「え? それってどういう――」

「おい! あの化け物倒したのはお前ら、かって! お前は!」


「私をメガネ呼ばわりした失礼極まりない人!」


「え、メガネじゃないのか?」と不思議そうな顔でメガネに向かって言う七の弟さん。


「いや! エンエだと何度言えば分かるのですか!」


「あ、今はメガネの相手をしている場合じゃない!」


そう僕がメガネを眼中に入れずに言うと


「あなた! わざとですか?! わざとなんですか!」


メガネより今は「八! 協力してくれ! その、僕はトウアさんと知り合いで! それで――」

「てめェ、何で兄貴の本名を! それに番号もッ! お前は何だ?」


七のトウアさんは良い人だ。弟の八にも見習って欲しいまである。


「聞いてんのか!」


まぁ、弟がこう振る舞うのも目的の為だと今になっては分かるがそれでも人を騙しては駄目だろ――

「おい! 無視すんな!」


そう言って僕の肩に手を当て揺さぶってきた。


うわ、うわ、わ。脳がグワングワンするー! 今にも頭が変な方向に外れると錯覚しそうだ!


そんな僕に対して八は更に揺さぶりながら「何とか喋れよ! おい、何故兄貴の名前を――」

「事情は分からないが落ち着いてくれ。このままではこいつの頭が取れる。」


という王の言葉を聞いた瞬間、僕の脳裏にはスポンッと抜けて何処かへ飛んで行く自分の頭を想像してしまった。


うぅ、考えただけでも恐ろしい。ショックで死にそう⋯。


「それと! こうしている間にも他の受験者の中には既に合格に来している者もいるだろう。」と王。


え――。それは不味い。


「そうですよ! こんなメガネ呼ばわりする輩と乳繰り合っている暇なんてありません! さっさと戻りますよ! 僕らはもう合格ラインに到達しているのですから!」


「いや! オレはここに残る!」


へ? 残る? 今、残ると言ったか? この八は。


「何言ってるんで――」

「ホントは試験なんざどうでも良かったんだが⋯。あの魔法のことといい気にならないか? エン――メガネ。」


「そこは言い直す必要無いですよ! 確かに、気にはなりますが⋯。」


え、何で魔法のことを知って? もしかして何処かで見てたんでしょうか?


「おぉ、やはりあれ程派手にやったら映るのか。」と王。


え、映るってもしかして――。


「あァ。丁度紙で試験の状況を見ていたらお前らがモイサを一方的にやッてる姿が映ってな。気になるから来た訳よ。」


あ、あの紙ってそんなことまで分かるんですか?!


「因みに見直しも効く。ほら、見るかァ?」


「け、結構です!」と慌てて言った。


妙にニヤニヤしているのが腹立たしいが、協力してくれるなら結果オーライだ。その怪しさも長年ループを繰り返した僕からすればお見通しである。フフン!


「⋯あ、心理戦を繰り広げている所申し訳無いんだが、モイサが今度は十匹現れた。」と、何だか頭を抑えながらやつれた様子の王が告げた。


「「も、モイ――いや十匹?!」」思わず僕が叫ぶと、八と声が揃った。


あ、え。揃っ――

「あのモイサが十⋯。無理だ⋯⋯あ。きっと僕はここで死ぬんですね。さようなら、僕の輝かしい未来。」と膝を付き涙ぐみながらメガネが言った。


いや、でも先程のように膜を避けながら頑張れば――あ、十匹から放出される素早い膜の攻撃を避け、る? 無理過ぎる⋯。


「先に言わせてくれ。先程の魔法は1日1度しか使えない。それに反動も大きい。今日はもう暗いから安心して使った⋯。でもそれが仇に。すまない。」そう言って王はヨロヨロと倒れた。


お、王! ――ッ! 王に向かって膜が少し離れた所から! 不味い!


焦りを感じながら僕は王の元へ走った。でも、速さ的に間に合わないッ。なら――!


そう思いながら腕輪を嵌めた。


「危ねェ!」


瞬間、僕は大きな鏡で身を固めた。このモイサには防壁が効かない。挙げ句、脳天を撃ち抜かないと攻撃も入らない。

それに、その入る攻撃も内から膜の上の部分を正確にでないと意味がない。


「もう無理で、す。」


「おい、しっかりしろ!」


非常に厄介だ。王は寝ているし、内から攻撃となるとかなり高度な魔法技術が求められる。


それに加えて脳天も正確な位置を貫かなければ効果なしと来た。しかも相手は暴れている状態だ。膜に当たれば一発アウト。


それが十匹。どうすれば⋯。


「おい、お前! あの撃ち抜く奴って、――ッ! 内からでも出来るか!」と、いつの間にか気絶しているメガネを背負って膜を避けている最中の八が大声で言った。


撃ち抜く。閃危のことだろうか? 確かにアレなら高度な技術もいらずに確実に内から攻撃出来るが⋯。でも、アレは体力の消耗が激しい。


この素早い膜攻撃の中プラス王を背負いながらの体力消耗はかなりキツイ。


でも、これは出来る出来ないじゃない。今の状況では殺られるか殺るかのどちらかだ。


「内からは出来る。でもそっちこそ暴れるモイサに正確な位置で出来るのか!?」


「あァ。狙うのは得意だァ。」


そう不敵に笑う八を見て、僕はふと思った。


こいつこそ王に相応しいのでは?


「どうしたんだ? 目を丸くして。」


避けながらもしっかりと僕の状況が分かるんだな。一見、馬鹿に見えて八は賢い。環境がそうさせたのだ。もう誰が王になってもおかしくないな。


「いや、なんでもない。」


「そうか。あ、今から一気に十匹、脳天仕留めるから宜しくな。その方がお前の体力的にも良いだろ。」


まぁ、器用な八なら可能なのか?


そう思ってると一斉に八の周りに水の弾丸が現れた。数は丁度、十だ。いや見えていない後ろの敵にはどう――

「オレの奥の手。A2・改。棄丸きがん。」


静かに、呟くように言ったかと思えばモイサ達が苦しみ始めた。この暴れ具合、やったのか? それに改、使えたのか!?


「早く!」と物凄い面相で八が言った。


あ、急がなくては。


「連続で。G2・秘。閃危!」


ま、不味い。7体が限界だ。まだ3体も残っているというのに⋯それにモイサは脳天を貫いたら急いで倒さないと不味。う、視界が揺ら、ぐ。


僕の意識はプツンと途絶えた。



ここは――花びら? そう手に乗ってきた蒼い花びらを見て思っていると


「帰郷一族はかえる。かえる。」と、何処からか声がした。


「不純物はかえる。かえる。かえらない?」と、僕の口が勝手に動いた。


え、え。一体何が起きて――

「かえる為に奪わせない。」


そう聞こえた瞬間、僕は目を開けた。


「まだ3体もいるッ! もしかして体力の限か――目を開けてる? あ、いや戦闘中に少しでも目を瞑る奴がいるか!」


あ、さっきのは一体? え、倦怠感が無い。それに身体も動くような⋯。膜も、遅く感じる。そう思いながら身体を横にして躱す。


よく分からないけどこれなら閃危が撃てる。先程のも気になるけど今は命優先!


「連続で3回。G2・秘。閃危!」


そう言って撃った閃危は鏡が蒼色の光を放ち、撃った部分を蒼の花弁に変えた。


「すげェ。」


なんか凄い変わってるような⋯。あ、眠い。もう無理。そう思いながら、僕は倒れた。薄れゆく意識の中「お、おい! しっかりしろォ!」という大きな声を後に。


気絶癖でもついた、か、な。

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「僕はあの娘を幸せにしなければなりません。それがケジメというものです⋯!」 明日いう @Ss2s_yu0U50O5te7k_z

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