第三十八話 時に、妥協は必要か?

その日は丁度、初雪がチラホラと降った日だった。


「ネェネェ、聞いてるー?」


僕は全てが無惨にもぶち壊され、途方に暮れていた。そんな時に彼女、レイトリーはこんなことを言い放ったのだ。


「ふーん、じゃあボクがどうにかしてあげる!」


「どうにかっって! 冷やかしなら帰ってくれ。」


今、思えばその時の印象は最悪だっただろう。なのに、彼女は


「――ありがとう、きっと彼女も喜ぶよ。」


などと訳が分からないことを言うのでつい僕は懇願するように震える声で


「頼むから、帰ってくれ。」


「ホントに良いのかい? 助けられると言っているのに。」


「⋯良いんだ。もう。」


そう俯き言った瞬間に彼女は僕を担ぎ上げた。



そこから、僕は何故か衣食住を与えられ、何故かあちこち連れ回され、夜。何故かそこら辺にある木の下にいた。


「この木は違うけど、木を見たら彼女を思い出すなぁ。彼女はね、元々なんだ。でも自覚が無い。よく木で眠りこけている姿と言ったら、もう。――だから、彼女は寂しかった。仲良くなっては死んでいく。


会えるから良い。それだけ言って彼女はいつも笑っていた。


でも、そんな日。何故か会えないし消えてしまった、そんな人が居てね? それで彼女は思ったんだ。

私が戻す。と。


でも結局無理だった。ソレは周期的なモノだったから。


そんな彼女は次第に作り笑いをしていった。そしてこう言うんだ。つまらない、と。」


それって――ミアのことか?


「またまたある日、アレは事故だった。その日、胸糞悪い出来事が起きてね。

彼女の友達が居る価値も無いと言われ無惨に殺されたんだ。


「ッ!」


「それに彼女は怒りに怒って制御が効かなくなった。

ボクらも何処かでソレでも良いんじゃないか? と、止めなかった。


そんな彼女は一瞬で辺りを凍り漬けにしてしまった。でも、彼女の力には良い方向に進化するというものがあった。


そのお陰で凍らせられた者はとてもとても改心して、一方で凍らせられなかった者はそのままだった。


つまり、良い人もいれば悪い人もいる。そのままだ。


でも、やってしまったことには変わり無い。そのことが原因で彼女は自分の力が恐く、そして嫌いになった。


彼女は氷以外も扱えた。ソレでも凍らせたのはきっと誰にも傷付かず眠って欲しかったから。氷は優しいからね。

その証拠に死人は零だよ。」


そう木を撫でながら木を見て言ったレイトリー。遥か昔、世界の半分が氷に埋め尽くされた。


その話にそんな事実があったとは⋯。何とも言えないな。その氷の件は感謝している人が大勢だ。

――でもミアからすれば散々だった。


僕は、ホントに何も知らないんだ。そう、その時自覚した。


「彼女はね、消えたいみたいだ。でもボクらからすれば彼女は消えて良い存在じゃあない。


一番の問題はあの手枷と足枷が壊れていないことだ。彼女でも壊せないのか、ソレとも恐がっているのか。」


ソレなら恐さを克服すれば!


「はぁー、彼女の想いを無駄にしたいのか? 確かに前は人は死ななかった。でも、あそこまでやられて制御が効くと思うか?


今、感情を安定させなければ多分人類は滅ぶ。」


え、人類が⋯⋯?


この話は本当だった。だって実際にソレから数年後、世界が凍りに包まれ滅んだからだ。


だから、僕らの目的はミアの感情を安定させたまま助ける。これしかないのだ。


でも、ことごとく失敗した。そりゃそうだ、助けに行けてもミアに拒絶されてしまったらおしまいである。


だからメンタルを一瞬で維持したまま助けなければいけない。

その為に、僕は死んだ定で生きる。これで動揺させ、尚且つ僕の頑張りによりここに来た人がいる。


これが今の所、一番である。唯、問題はその後のメンタルケアが重要、とだけ。


後、これだと僕の願いは叶わない。だって僕の願いはただ一つ。


もう一度、みんなで賑やかに冒険がしたい。そして平穏に死ぬ。それだけだ。


――でも、諦めはしない。妥協も一切しない。その為に⋯演るか。レイトリーの、いや消えてしまった零ノ二の願いの為にも!


そう想い、僕は王の試験の場まで駆け出した。丁度僕らが受けた年、あの波乱万丈な王が誕生する。それにこれは王にとっても良い話。


そこでその王と知り合い、協力関係を築く。――ソレが最善策だ。


僕は腕輪を嵌めた。行こう、再びあの時の王の試験へ!


「え、何処行くの?!」



――時は進み、王都にて。


「試験受け付け中です。受ける方は此方に並んで下さい。」


「ハイハイハイ、受けます。」


「速っ! 近っ!」


「早く! コインを!」


「あ、ええとはい。」


あれ? そういえばフィくんはどうなるんだろう?


「おーい! リイラ何処だー!」


あ、いた。でも今フィくんは後。先に王を見つけ――


「あ! いた! って! 先に受け付け済ませてやがる! さっきの落ち込み具合は何処いったんだよぉ!」


あ、マズい。早く王を見つけなくては!


えーと、金髪に猫耳、紅い目。甘い顔! 何処だ、何処だ? 人が多すぎて分からない!


「おい、ちゃんと前見て歩けよ!」


あ、ぶつかってしまった。急いで謝って早く探さなくては。


「すみません! 急いでいて!」


「あ? ごめんで済むわけねぇだろ! どうすんだ! お前がぶつかったせいで髪が乱れただろうが!」


え、そんなことで? こんなに怒鳴る?


「金出せや!」


何故⋯? 確かにぶつかりましたが、ここまでする? そうポカーンとしていると


「早く金寄こせや! 慰謝料だ!」


「えぇ⋯⋯。」


心做しか周りもドン引きである。髪が乱れただけで慰謝料? 意味がわからないのですが。


「良いからとっとと寄こせや!」


そう言って右ストレートを繰り出してくる。遅すぎる。花の奴の方が数億倍――いや、アレをあいつが強すぎただけか。


普通に首根っこを掴む。で、下にドーンと、な。


「す、すげー! 何が起きたのか分からなかったけど!」


と、辺りがざわつき始めた。

ん? 少々目立ってしまったようだ。さっさと見つけよう。


ウーン、出来ればブロックが別になる前に見つけたい。何せ、最初のブロックは別でしたからね!


「り、り、り、リイラ! いつの間にあんなことがで、出来るように?!」と振動しながら言うフィくんの姿が。


あー、えと退散!


あ、でもこれでフィくんの受け付け時間は遅らせられたし、膜にやられて死ぬことは無いだろう。


しかし、ペアがいないという事態になってしまった。マズいな、これは。


「あ。メガネクソだ。」


「だ、誰が! クソですか!」


そう喚くのは僕からすれば馴染みのあるメガネクソだ。そうか、メガネクソもいたのか。――ん? てことは


「あ、どうした? メガネ。知り合いでもいたかァ?」


オォ! 八もいる! ⋯⋯って! 僕が今するのは、王探し!


「だから! 私はメガネではなく! エンエです! 何度言ったら分かるんですか! この野蛮人!」


「はァ? オレだってちゃんと名前があるんだよ! イーヴァだッつうの!」


あ、うーん。どうしましょう、ペア⋯。


「あ! お前も一人か? だったら私と組んでくれないか?」


そう後ろからコロンと弾むけど落ち着きのある声が聞こえ、振り向くと。

フードを突き破る金色の猫耳。フードから覗く甘い顔立ち、赤い目―――お、王?! でも何故ここに? ⋯まさか僕が絡まれたことでイレギュラーが生じたと?


「おーい、聞いているのか?」


「あ、あー、えと――」

「ペアは決まったようだな。これより試験を開始する。ソレでは。」


え、いやまだ?! って着いた⋯。――ん? でも真っ暗にならなかった。もしかしなくても、レイトリーのお陰ですね?


「よし、私が囮になる。だから後は宜しくなっ! 首根っこ掴み君」


そう言って彼女は僕に一枚の紙を投げ颯爽と姿を消した。

見てたのか。でも、代表は王じゃ――あ、ソレでわざと! あ、頭良い⋯。


何か待とう。でも――ここってホントならフィくんが襲われる場所の筈。なら、結構危ないのか? でも、レイトリーがやってくれたなら僕に事は有利に運ぶ。


つまり、来る筈が無――


「グアガァ!」


あ、いや来るんかい! 来ないと思ったんだど?! 普通に来るじゃん⋯、ちょっとは遠慮しよ?


そう思いながら奴の膜攻撃を躱す。花より弱いけども、結構危ないな。


僕と同等だ、でも――イケる!


奴は膜に入れた相手の脳を吸い取る生き物だ。しかも膜に入れられたら、意識は飛ぶ。だからホントは二人がかりが良いんだけど⋯。王、いないよ――


「なるほど、モイサか。これはもしや、やっかみかな? 上流階級の。」


え、いつの間に? というかこれがやっかみ? 死ぬだろ、こんなの! 殺す気か!?


「モイサの弱点は何か、勿論分かるよな?」


そう試すように言って来る王。ハァー、こういうところがあるからこの人が王にふさわしく、同時に勿体無いと思ったんだ。


「モイサの弱点、ソレは脳みそです。奴は吸った脳みそで強くなりますから、皮肉なことにその脳みそが弱点なのです。」


「そこで、私が囮になる。っと、危ない。その間にお前は脳みそを切れ。そしたらっ! 動きも鈍り瞬殺出来るだろっ!」


そう避けながら言う王。お、王が?! え、王に死なれちゃ困るんだが――


「そんな顔をしても、試験場では囮道具の持ち込みは出来ないから無い。だから誰かが囮になるしかないっ!

ソレに上に立ちたいのなら、自ら率先して動くべきだ。」


あぁもう、そうですね! 王はそういう人でした!


「やれば良いんでしょう! でも、何故僕が逃げる可能性を考えなかったんですか?」


「あぁ、それは――お前の絡まれた時の態度だ。逃げもせず、気絶させたからな。」


あー、なるほど。


「こっちだ! ついて来い――ッ!」


そう大声で言う王。よし、今の内に視界から外れてぇー、の! 潰す!


狙って、狙って⋯⋯。ッ、G2・秘。閃危せんき


閃危、体力が削れる代わりに必ず命中してバラバラに欠けさせる技。帰郷一族特有の鏡と蒼い花弁が主な攻撃となる。


ソレにこの場で外そうものならヤバい事態になる。これが最善だろう。

案の定、脳の部分が撃たれてデカい膜のような身体もウネウネうずくまってる。⋯う、ちょっと気持ち悪い。


「A7・改。異遺いぃらい!」


うわっ、流石王。というか、王ってこの時点で会得していたのか⋯、自己流に改造した魔法。


異遺儡、凄ッ! モイサが理由もわからず倒れてるし!


「あの、異遺儡って何ですか?」


「え。あ、あー。異遺儡は体内にある性質を異なるモノに変化させ、意のままにするつもりだったんだけど⋯。

何か、欠けている箇所があれば死をもたらすモノに成っちゃったらしいんだ⋯⋯、あはは。」


恐ッ! え、ソレで脳を欠けさせたの! 僕に?! 恐すぎる、こわすぎる!


思わずそうやってチキンな僕は震えていると


「サティア・リイラペアはトラブル対応が評価され二十点追加です! 引き続き頑張って下さい!」


「ふむ、あくまで試験の一貫と通すか。」


そう言った王の顔は、凄い般若だった。恐すぎ、る⋯。う、思えばレイトリーの怒った時の恐さは普通だったんですね⋯。

あ、現実逃避してる場合じゃない!


「お、お――じゃなくてサティアさん! これ、映っているんですからもうちょっと笑って下さい!」


「嫌だが?」


と、更に般若と化す王。いや、そんな顔されたら王になれないかもしれないじゃないですか!



一方、魔道具で映し出される映像を見た国民の反応。


「うお、顔がすんげぇことになってるのに美しいとか! ⋯決めた! 僕はこの人を推す!」


「は? おま、顔だけで選ぶなよな! 俺はエンエ・イーヴァペアの奴らも見所あると思うぜ? なんたってカッケェじゃん? 戦略の為に欺く所とかさぁ。あそことか、俺感動シチャッタ!」


「少しふざけすぎだ。」


「どの口が言うんだよ⋯。」


「――でも、確かにエンエ・イーヴァペアも凄かったな。まぁ、サティアさん・リイラペアの方が凄いけどな!」


「 は? エンエの馬鹿さ加減が良い仕事をしているのとかも見所の一つだろ!

つまりエンエ・イーヴァペアの方が断然良いね!」


「なぁ、あんたら二人とも! Aブロックも良いけど、Bブロックのフィムス? とかいう奴も戦略が凄いって噂や!」


「へぇー、今年は久しぶりにフンゾリ王サマが変わるかもな! あ、そういえばお前リイラって奴を知ってるってさっき⋯。」


「あぁ。実はジッちゃんの話に出て来る人にそっくりでな! 特にあの攻撃の仕方とか。」


「へぇー、放浪するサーカスの団長サマと知り合いねぇ。じゃあ、お前の恩人の子供ってわけか。」


「あぁそうなんだ。だからこそ僕はこのペアに勝って欲しいんだ!」


「あ、じゃあ俺らも他国の王になれば良くね?」


「は、いやソレは無理だろう。」


「今なら! 推しがサポート出来まーす!」


「よし、やろう。」


「チョロくね? 俺心配だわ、この生真面目アホ。」


「な、自分の話は無視なん? フィムスって奴も凄いんやって! 後、ソレ自分も乗らせてぇや!」


「僕は良いが。」


「はぁ? 見知らぬ奴だぜ?」


「金銭面でサポート出来ると思うんやけど――」

「ヨシ! 一緒にやろうじゃん! ていうか俺もフィムスとリイラのことキイアばあちゃんから聞いたことあるんだけど。


珍しく悲しげでさ、印象に残ってるんだよ⋯。それにしても同名なんてスゲー奇跡じゃん?」


「フィムスのこと? よし、聞かせいや!」


「後でな。ソレよか、Cブロックは今年も上流階級サマの溜まり場かよ。」


「な! 聞こえるだろ! 静かにしろ!!」


「いや、お前の方がうるせーんだって!」


「なぁなぁ! 自分の語りも聞いてぇや!」


??「ちっ。アレを倒すだなんて。死ねば良かったモノの。⋯だが、かなり消耗しただろう。

第2試験ではブロックは関係無くなる。頼んだぞ、Cブロックの奴ら。」

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