第三十七話 想いは、重い。

―――???視点―――


これは⋯ちょっとマズいかな? そう思いながら??は辺りを見回す。はは、ボクを誘導するなんて⋯本当に良い度胸だね?

そう思いながらも??は撃ち続ける。すると―――ッ?!


あれは、時計被り?! き、キミ、も誘導され、たのかい? あぁでも、良かった。ボロボロなようだけど、キミが生きていて⋯。


だって時計被りは―――ッ、ボクは時計被りに死なれちゃ困、いや死んで欲しくない⋯。ボクが初めて長年死ななかった友であり―――いや、何でもない⋯。


そう思いながら大事に大事に??は時計被りを見つめる。ボロボロなのも本当! キミらしいよね! 少しからかってみよう。


「どうしたんだい? ふふっ、時計被りったら随分とボロボロじゃないか!」


「え、何でお前がここに⋯?」


「何でってここはいつもの花畑じゃないか! ほら、キミがいつも見ている―――」

「あ、本当だ。」


全く、いつも見ている花畑にも気付かないなんて⋯、マァそれほど余裕が無いからなんだろうね⋯⋯。


「うぉっ! 危なっ!」


そう言いながら避ける姿は格好良いと言えたものじゃないのだが、??はそれを見て


愛おしそうに見ていた。


「なぁ、これ本当にどうすん―――」


う、何で? 予定より早くないか? そう思い??は焦る。そう、花が起因して今??は回ったものにやられていた。


く、クソ。こんなに早いとは、流石のボクでも知らなかったな⋯。


そう思っていると横に時計被りも倒れてきた。あ、あぁ本当に起きてしまった。⋯⋯ここまできたならもうやるしかないよ、ね?


そんな思いで時計被りを見つめる。そうしていると??に様々な想いが込み上がってきた。


キミは、ボクがどんな想いで手伝っていたのか⋯全く知らなかった、だろうけどね⋯。


でも、それで良いんだ。キミはキミで居てこそ、ボクの大好きなキミなのだから。


一億年⋯、貯めたんだ。ふふっ、無駄にしてくれるなよ? 時計被り。


そう思いながら??は手に血が滲む中、涙が溢れかえる中忘れられない呪い、いや想いを込めた紙をポケットから出す。


そして、力を振り絞って時計被りの手に押し付けた。


あぁきっとボクがキミの名前を呼ぶことは最後まで出来ないんだろうね。いや、したくないなぁ。


「ごめんね。でも⋯知ってから決めていたんだ。許してよ?」


そう頬に手を当てながら??は時計被りに笑いかけた。それに最初は不審な顔をしていた時計被りだが直ぐに何かに気付いた顔をして


「ま、待て。辞め、辞めろ!」


「笑って。」


そう笑って言った??は頬をひと撫で―――瞬間。


??の身体は蒼の花に成っていき時計被りの目の前で散った。


その瞬間、時計被りの姿は消え、残ったのは乱雑にき乱された蒼と紅の破片が舞う花畑。それから


「あ、あぁああ!」


と、雫をボタボタと垂らして漂うナニカと


(可哀想に、最後まで想いを伝えれないまま消えるなんて。ハッ、本当にお可哀想に。)


と見下す姿があった。




ハ、ここは―――ッ! 七がいる⋯、関節の七が。

あ、あぁやっぱり⋯。何故だ、お前が、??が一番よく知って、いただろう? 僕がもう―――何かを失うのは御免だと。


そう床に座り込む時計被りは俯いて思わず拳を握り締めてる。すると、何かの感触と音がした。


な、何だ? そう思い時計被りは手を開く。すると―――


紙? 思わず紙の中身を見ようと開く。そして時計被りは絶句した。だってそこには


時計被りへ


ごめんね、許してとは言わないけど。でも、覚えていて⋯とは思ってしまう。


キミはきっとボクのしたことが許せないだろう。だってボクのやったことは自殺同然、いや下手したらそれ以上のことだ。


それから、このことは本体であるミアには当然ナイショだ。⋯というか言っても覚えてなどいないだろう。だってこれはボク自身が消えるものだから。


それに本体は、分体に意志が存在することにすら気付いていない。いや、ボクらは気付いて欲しくなかったから当然の結果なんだろうけどね。

ボクらは本体が大好きだから、困らせたくないんだよ。


あぁ、でも誰にも覚えられていないという事実は⋯やっぱりちょっと辛いかな?


ねぇ、一億年待ってようやく出来たんだ。決して諦めないでね。だってボクは輝くキミが―――、いや何でもないよ。ねぇ、ボクの想いも無駄にしないでね。


ボクにキミの名前は呼ぶことが出来ないけど、それでも―――キミは生きるべき存在だ。


それと⋯せめて忘れないでね、ボクのこと、笑い方もキミの目的も本体への想いも、全部。


ほらほら、迷わず進むんだ! 時計被り、いや何でもない。



――――と、随分と乱雑な文字で書かれた文はここで終わっている。ッ、僕は、僕は。


失って初めて―――この一億年の思い出を振り返る。いや、振り返ざるを得なかった。⋯⋯書くんだ。??との思い出を!


そう思い時計被りは椅子に座り紙と筆を用意した。


毎日、??は起こしに来る。

理由は、時間感覚を大事にして欲しい。キミは人間らしく生きて欲しい。と。


毎日、??は「ご飯食べないと!」と言ってくる。

理由は、食事は素晴らしいんだよ。えーと、味がするし、生きているって感じがするし? らしい。


毎日、??は「楽しみが合った方が良いだろう?」と言って僕に色んなものを見せてくる。

「自分が見たいだけでしょ?」と言ったら「ち、違ーう!」と顔を真っ赤にして怒っていた。


毎日、1時間だけ??はボーッとしている。何を思っているのか聞いてみたことがある。

そしたら「ボクにも思うことはあるんだ。⋯そう、例えばキミがどうやったらご飯を食べてくれるのか、とかね。」と、途中から僕をジト目で見て言ってきた。


毎回、記念日の日。??はミアと違って不器用ながら、一生懸命縫ったり、編んだりして僕に贈り物をする。

怪我をするなら辞めれば良いのに。


??は、僕が不成功で落ち込むといつも代わりに全てこなしてくれた。そして落ち込む僕にこう言っていた。「絶対、成功するよ! このボクが保証しよう!」と。


今、思えばあれは⋯⋯。


そう思った時計被りは筆を止める。すると―――朝日が出てることに気付いた。もう朝か。そう思うも時計被りは憂鬱な気持ちになる。


僕のせいで、??は。


「おは、⋯⋯どうしたの?」


そう言って起きて来た七が目を見開き、時計被りに言う。それに思わず不思議に思っていると


「目、泣いてるよ。」


え、? そう思う時計被りは涙は溢れに溢れ、鼻水は出かかり、お世辞でも綺麗とは言えないものだった。そんな不恰好に泣いている時計被りは思わず見られたくなくて俯く。


「え、あぁ大丈夫だよ。⋯⋯誰も見ていないから。それにしてもリイラくん、泣くのを隠したがる時の弟そっくりだ。」


そう言う七の人の視線、いや目線が余りにこそばゆく感じ時計被りはソッポを向く。


ッ、僕の方が年上なのに。


などとまるで駄々っ子のようだ。そんな時計被りを見て笑う七。


「な! 何がおかしいんだ!」


「いやー、別に! 唯、何かもうその膨れっ面がおかしくておかしくて! はは、笑いが止まらないよ!」


と、言う七に思わず時計被りは??の姿を重ねる。⋯全く姿は似ていないのに、笑い方は似ている。


「で? 聞いて良いのか分からないけど、俺で良かったら聞こうか?」


「いや、別に言っても何も―――」

「それは話してくれなきゃ分からないじゃない?」


「う、いやでも―――」

「わーっと吐き出してわーっと忘れる。」


「忘れちゃ駄目だ!」


「あ、そう?」


と、いう問いに対して時計被りは全力で頷く。


「そっか。でもそんなに大事なら人に相談してみるのも良いんじゃない?

だってほらぁ、どうにもならないことでも複数人の力ならどうにかなるかもしれないじゃない?」


「いや、でも⋯⋯。」


「あーあ、このままだと気になって気になって、俺リイラくんにウザ絡みしまくるなー。」


と、急に暴れて言う七に時計被りは思わず


「わ、分かったから! 話すから!」


「わーい、やったぁ! ウザ絡みしてみるものだね!」


と、酷いことを言う七。それに時計被りはジト目で見つつも


まぁ、話してみるのも良いだろう。⋯確認の為にも。そう思い口を開けた。


「先ず、僕と??の出会いから。」


「ちょ、ちょっと待って? 今、なんて言った?」


「え、僕と??の出会いからって。」


「そ、そこの僕と―――の後が聞き取れ無いんだけども。」


き、聞き取れない? え? 何でですか? そう思っていると時計被りはふと思い出した。


「ボクの名前は、普通に聞いたら発音もされない奇声のように聞こえるのさ。―――マァ、成っちゃったキミには問題ないだろうけど。


あ、もしボクの名前を聞かれたらこう答えると良い。マァ、そんなことあるわけ無いだろうけど、一応。


レイトリーと。異世界では、過去のある時点から現在にかけての期間を表すらしいじゃないか! ボクにピッタリだとは思わないかい?」


とか、言っていたっけ。そう思って言う。


「すみません、レイトリーって言うんだ。」


「そ、そうなの? あ、ええと続きをドウゾ。」


そう凄く困惑しながら言う七。


「それじゃあ遠慮なく。あれは、僕がn回目のループを繰り返していた頃。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る