第三十六話 あい、笑え。

揺らっとナニカが揺れた。揺らした。フっとそのナニカを見ようと僕は目をググッと寄せる。その、ナニカの方角へ。


ナニカは揺れた、そういうわけではなかった。そのナニカは狂い咲きをしていた。あぁ、もうそんな時期だっただろうか? と、何処か頭の片隅で思う。


と、同時に酷くさみしく秩序が乱れた、いや乱されてズタズタにされたかのような乱覚も起こさせられた。


ナニカ、それは形どっていた。一見人そのものだったが、よく見ると違うことが分かる。

ナニカは揺れる揺れる。

その揺れの様はユラユラと不器用さ、いや無規則さも感じさせられる揺れだ。


ナニカは踊る踊る。ナニカは見る、みる。何処かをみる。すると―――首がぐるりと周り此方をみる、みた。


そしてナニカは―――、僕を見て二チャリ、二チャリ、と笑った。



「―――あ、夢?」


そう言ったリイラの記憶にはもう先程のことはすっかりなくなっていた。


(ちょっと出かけて来る。「⋯⋯了解。引き続きこっちでみてる。」)


リイラは徐々に辺りを見回す。すると―――自分が捕らえられていたことを思い出した。


そうでした! あれから紹介が上手くいかず、捕らえられたんでしたっけ! あぁそりゃそうですよね⋯。だって、急に紹介して上手くいくわけが無いですもの! 何でイケルと思った、過去の僕?? ハイテンションのせいか??


と、やかましさも感じる風な言葉遣いで思うリイラ。


「聞いてたぁ? 零ノ二さんの計らい、というか興味で今日からお前らは俺らの組織のメンバーってわけだけど―――。」


「嫌じゃ、嫌じゃ! あたしもミアねぇと一緒が良いのじゃ!」


と、関節の自業自得人とミラが会話をしていた。それに困ったように此方を見る関節自業自得人間。


「そのー、リイラくんだっけ? 君は俺が担当になったから。⋯宜しくね?」


と、明らかに関節のことを根に持って言う関節自業自得人間。く、こいつが担当って! 絶対に自分で志願したんでしょうが! そう思っていると向こうの通路でキカさんが見えた。何かとても申し訳無さそうな顔をしている。


「それじゃあ、今日からザーンデス砂漠の調査なわけだけどー、ねぇ話聞いてる?」


と、聞いていない僕を見て


「あ、キカちゃんだ。⋯⋯急に紹介したよね。キカちゃんが紹介するなんて初めてだから、五、いやけっちゃんがビックリして問い詰めるの何ので大変だったよね。


まぁ、二人は幼馴染みたいだし急に紹介とか意味不明っていうのも分かるけど。」


幼馴染⋯。僕とフィくんとミアみたいなものでしょうか?


(「違いない。⋯それにしても遅いな、あいつ。」)


「まぁ、ともかく今日からザーンデス砂漠というわけなのだけど。あ、ちゃんと宿もあるから安心してくれていいよ!」


「あ、はい。ザーンデスですか。随分遠い所に行きますね。」


「まぁちょっと大事な調査で、ね。」



―――ザーンデス―――


「魔法転移であっという間!」


「そうですね。にしても⋯、ここで何をするんですか?」


「ふふーん、それはねぇ―――聞き込みだよっ!」


と、言う関節自業自得人間に僕は思わず拍子抜けしてしまう。⋯はぁ、聞いて損した気分です。にしてもこんな所に人がいるんでしょうか? そう思いながらも僕は関節自業自得人間の後を追いかけます。


(「遅い。遅すぎる。何か起きたんじゃ⋯⋯、いやでも見守らなければ。」)


―――20分後―――


「ま、まだ⋯ですか。」


と、ゼェゼェ息切れを起こしながら僕は関節自業自得人間の後をゆっくりゆっくりと追います。あぁもう歩きたくない! 暑いし、汗は僕にまとわりつくし!


(「あれから20分経ちました。何をやっているんだ、あいつは。⋯⋯仕方ない。心配だってわけじゃないが見に行くとしよう。」)


そう思い、時計被りは??の後、痕跡を追った。あいつはいつも痕跡を残して出て行く。まぁ、今回ばかりはそれに大助かりだが。



―――少し、いやかなりして―――



これは、赤の花?


そう思い時計被りが赤い花弁を掬うと目の前にいきなり花がクルクルと舞い踊って思わず時計被りは目を瞑る。


それから恐る恐る目を開けると―――。花で形どられた人が花畑の中に居た。いや、これは人、なのか? そう時計被りが疑問に思っていると


「時計被り、逃げるんだ! こいつ、ヤバい! というか何でここに来たんだ!」


と、明らかにあいつの声が聞こえた。それに思わずカッとなった時計被りは


「あんなに痕跡を残しといてよく言うよ!」


と、怒る。すると―――。


「あい、笑って。」


と、突如意味の分からないことを言い出す、え? 言い出す? 口もないのに一体何処から―――


「時計被りッ! 馬鹿馬鹿!」


と、言われた瞬間から急に後ろに勝手に身体が下がった。そして先程居た場所には鋭い斬撃の後が―――ッ。い、今殺されかけ、た?


「もう、キミを守る程の余裕はボクに無いんだ! 頼むから邪魔になるなら下がっていてくれ!」


と、避けながら言う??。いや、でもそれだと来た意味が―――


「いいから下がる!」


と、言った瞬間に身体が後ろにグワッと勝手に下がった。流石、??。―――でも感心してる暇は無さそう、斬撃の軌道が全く分からない。しかも音が無い。


「笑え。」


と、相変わらず意味の分からないことを何処からか口が無いのに言い出す花の人?。

というよりもしかしなくても邪魔だよな? と、今更気付く時計被り。


慌てて時計被りは来た道を引き返す。ッ、悔しいが何も出来やしない。だってさっき、斬撃が見えなかった。それに敵意すら感じ取れない中、殺されかけた。


今、出来ることはちゃんと導いてあげることだけだ。そう思い時計被りは走る、走る。背後に凄まじい音、いや斬撃音? それともあいつの攻撃音か? いや音的にうん、あいつの攻撃音だな。が、広がる中時計被りは走った。とにかく走った。




―――かなりして―――



(「はぁ、はぁやっと着いた。にしてもあいつ、大丈夫だろうか?」)


そう思いつつも時計被りは視線を移す。するとそこに映っていたのは



「あはは、聞いてくれる?」


と、いつの間にか部屋でくつろぎ団らんしてる二人がいた。

関節自業自得人間は2個あるベッドの上の一つに腰掛けている。対してリイラは椅子に座って関節自業自得人間を見ている。


「俺ね? おこぼれなんだ。この七っていう称号。―――だって、絶対俺より弟の方が優秀だよ。なのに俺が七で、弟が八。きっと兄である俺を気遣ったからこうなったんだ。

弟の方が数値も三に負けないくらい強いのに、ね。」


それを聞き、時計被りは戸惑った。だっていつの間にか進んでいるし窓から察するにもう夜なのだろう。

―――いつの間にそんなに時間が?


そう時計被りが思うも時間は進む。


「そう―――」


「笑え、笑え。」


と、急に後ろから声がした。思わずそこを見ようとすると―――。


「ッ、御免! 引き止めきれなかった。あいつ何体もいやがるし! あ、避けるコツは花の匂いだ!」


と、あいつ、??の声が部屋中に響いた。⋯⋯どうやらやるしかないらしい。というかこんなに影響を与えるのならここで食い止めなきゃヤバい!


そう思いながら時計被りは嗅覚を頼りに慌てて避ける。その避ける姿は、不恰好そのものだ。


時計被りは犬のような嗅覚を持ち合わせていない。でも避けなきゃ死、真っ逆さまだ。幸い、ここは先程の花畑ではない。

そう、つまり避けやすい、筈なのに! 早すぎてもう既に掠ってる。

でも分かる。先程のやつよりは早くない、というか段違いで遅いのが目に見えて分かる!


それから何かを言ってから斬撃を飛ばす場合と、何も言わずに飛ばす場合がある。

もし、これが武芸の達人なら聞く暇もあっただろう。でも、今の時計被りにそんな暇はないッ!


そう思考を巡らせながら時計被りは必死に鼻を使い、避けた。

でももう既にかなりの回数、斬撃が掠っていて、ボロボロだ。


そんな中、避けなければいけない。避け切れなかったら死に直行。だからだろうか。流石の時計被りも、既に疲弊しつつあった。


走って急いで、そしたら時間が進んでいてこれだ。もう意味が分からない、と突如弱音を吐く時計被り。でも、避けはする。


それは―――、時計被りにとってやらねばならぬことが未だある故の行動だった。


耳は駄目だ。音が全く、というか本当にしない。このままではマズい。先に倒れるのが目に見えて分かる。


それに相手は数名いるらしいじゃないか。未だ、ここには一名しかいないけども! く、どうすれば―――。何かないのか、何か、いい方法は!


そう思い時計被りは周囲を見渡すも直ぐに花の香りが右斜めから鼻を掠めて避けさせられ、思考はままならず中断させられる。


時計被りにとっての唯一の救いは、花の香りが分かりやすく

??が起動してくれたのか風が微かに吹き、香りの軌道も分かりやすくなったということだけだろう。


クソ! 思考する暇も与えてくれないとは!

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