太陽系惑星地球における知的生命体の保護について

 冷たく、暗い空間がどこまでも広がる宇宙。

 その中に、ぽつんとひとつの宇宙船が浮かんでいた。

 宇宙船はそれほど大きくない。

 人が何人か乗り込んだらそれでいっぱいになってしまうような、小さな宇宙船である。

 ただし宇宙船の後部には、貨物用と思しきブロックがいくつか接続されていた。

 おそらくは輸送用の宇宙船だろうか。


 宇宙船の中では、一人の宇宙人が作業をしている。

 彼の前には透明な画面が浮かんでおり、画面の中には誰かから見た視点の映像が映っていた。

 そして画面の隣には得体の知れぬ機械と思しき機器がいくつも立ち並び、その横にケーブルなどで接続された、液体に満たされた容器に入った脳髄が浮かんでいる。

 脳髄は恐らくは人間のものと思われる形をしていた。


 映像と音声が暗くなり途切れ、寝息だけが聞こえるようになるとようやく宇宙人はホッとして座っている椅子の背もたれに寄りかかり、天井を仰いだ。

 彼の背後の自動扉から、もう一人の宇宙人が部屋に入って来る。


『彼、Kの容体はどうか』

『……先日までは思わしくありませんでしたが、新たな人物を投入し彼の思考と同調させることで安定させることができました。しばらくは持つと思われます』

『頼むぞ。太陽系における知的有機生命体の、最後の一人なのだ。彼の遺伝子情報から体を復元、脳移植をするまでは脳機能を停止させてはならない』

『わかっております。しかし、我らが地球に駆けつけた時、既に遅きに失しました』


 宇宙人たちの着ている服のネームタグには、

【銀河系知的生命保護財団】

 と宇宙共通語にて記されている。


『地球人はその性質上、血の気が多いとは聞いていたが、絶滅するまでの戦争を起こすとはな。愚の骨頂だが起きてしまった事は仕方あるまいよ』

『かろうじて生きていると言える地球人は彼だけでした。一応、損傷がひどくない地球人たちの遺伝子情報は拾いましたが、果たして何人再生できることやら』

『Kだけはなんとしても、生きて我らが故郷にまで連れて行かねばな。財団が足を運んだ以上は些細な事でも成果が無ければ、何を言われるかわかったものではない』

『世知辛い世の中ですよね』

『そうしなければ予算が取れんからな』


 宇宙人の上司と思しき者が溜息を吐いた。

 

『懸念は、Kが何時自分が置かれている状況に気づいてしまうかと言う所ですかね。所詮、Kに見せている世界は彼の記憶から呼び起こして作ったものにすぎません』

『宇宙船の中には遺伝子から肉体を復元するための施設はない。故郷まで戻らねばならないが、ワープ航法を用いてもなお日数を要する』

『しばらくは夢を見ていてもらわねば、ですね』


 そして、いずれ彼が脳髄のみから肉体を得て復活したとしても。


『何時、人類は滅亡したと彼には伝えるべきでしょうか』

『それは我々が考える事ではないな。だが、彼を復元し限りなく地球に近い環境に置いたとしても、いつ伝えるか、あるいは心理的ショックを鑑みると上は伝えないかもしれないな』


 人類が滅亡したという事実を伝えるには、あまりにも重すぎる。


 Kには秘するべきかどうか。

 その判断は、まだ下される時ではない……。







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地球は既に宇宙人に支配されている! 綿貫むじな @DRtanuki

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