第2話 新宿三井ビルディング殲滅戦


 新宿三井ビルディングは最上階及び地下一階から地上五階にテナントを構え、それ以外は居住区となっている。

 黒を基調としたガラス張り、新宿の超高層ビル群の中でも比較的目立つ外観である。又、側面には特徴的なX形の鉄骨がある。それは、耐震補強の為の筋交いであると共に、各階の両端に設けた機械室の扉の押さえを兼ねてのだ。

 その地下から地上数階をアニマルズーの怪人及びその手下が制圧し、上階へと侵攻しようとしていた。

 その情報を受けた3人は、第1師団第1飛行隊所属のUH-1 J型に搭乗させてもらい、現地へと向かう。

 自衛隊特有の迷彩塗装に、右側ドアは全開でM2重機関をドアガンとして備え付けている。

 機体をSUBARU、エンジンを川崎重工業により国内でライセンス生産が行われたベストセラーな航空機である。

 アニスは航空機用ヘッドセットで二人に指示を出す。

 大きなエンジン音で、会話がままならないので仕方ないがハヤカワは久しぶりの機器を使った会話に少し手間取った。

《ヨコタよりブラボー1へ。現在、警察等で民間人の避難が優先的に行われている。民間人への誤射もあり得るので、完全に避難完了した区域のみ発砲を許可する。交戦規定ROEを守れ、毎度の日本政府からの通達でもある》

「ブラボー1、了解。到着次第また連絡する。…だってよ二人共」

「まぁそうなるデスネ!」

「今回は居住区というか、マンション系だ。死角と民間人への誤射に要注意」

「ま、マンション?!」

「ひよっ子は何をやらかすか分からないから、気をつけてな」

「…はい」

「アタシらは地下から討って出て逐次怪人を撃滅しつつ階を登っていく。これを殲滅し上階まで登る。上空では、第353特殊作戦群第21特殊作戦中隊AFSOC連中が見張っててくれるし、なんだったら援護射撃もしてくれるよ。運がよければ、もくる」

「…連中?」

「テレビでよく見る連中さ」

 アニスは水色のアメリカンスピリットの箱を出しては、口に咥えた。流れる手付きで、オイルマッチで火をつける。

 リズは軽く微笑み、自前のM249 Paraに金色に煌めく弾帯を装填しコッキングレバーを引いて初弾を装填。

 二脚は外さずにACOGとフォアグリップを付け、ストックにはパラコードを巻き付けている。

 煙を吐き流しつつ、自前のFNエルスタル製のM4A1に樹脂製弾倉PMAG gen3を叩き入れ初弾装填を行う。サイト等はリズ同様である。

 ハヤカワも二人の動作を交互に見てから、まず自前の9mm拳銃SFP9のスライドを引き、もう一度少し引いて薬室に装填されているか確認。薬室に煌めく薬莢が見えた。

「わ、私、今回が初めてなんですがどれくらい撃てばやっつけられるもんなのでしょう、怪人って人は」

 その問いに、アニスは笑いながら答える。

「簡単よ、動かなくなるまで胴体か頭に鉛玉叩き込め。雑魚相手なら、上半身に二発三発くらいで仕留められるよ」

「そうデスヨ、射撃訓練と思って撃ってくださいネ。相手はニンゲンじゃないので大丈夫デスネ!」

「雑魚?雑魚じゃない怪人もいるんですか?」

 リズは、板ガムを口に咥えながらハヤカワの問いに答えた。

「怪人は主に二種類に分けられマスネ。先ずは、みんなが想像している怪人、そしてその部下というか戦闘員というか雑魚怪人デスネ」

「大まかには、怪人と雑魚怪人ってことですか?」

「デスネ!取り巻きの雑魚怪人を排除しつつ同時進行で主力怪人を無力化しないと連中何を仕出かすか分からないデスネ!」

 そう答えつつ、リズは拳銃M92Fのスライドを引いて薬室確認。

 アニスも拳銃を同様に確認し、今度は散弾銃ベネリM4散弾シェルを差し入れていく。

「アンタの20式小銃もアタシ達と同じ5.56ミリなら数発叩き込めば雑魚は瞬殺だ、安心しろ」

「…瞬殺って」

 ハヤカワは困惑した。

 それもそうだ。今まで、自衛隊は運良く世界の紛争地域等に於いて武力衝突、行使もなく過ごせてきていたのだ。

 況してや突然の実戦と実弾射撃なんてのはそこまでなかった。

 しかし、今回は違う。

 今まで、ペラ紙を撃っていたのとはわけが違う。

 困惑と不安を感じ、手先から体温が引き、背筋が凍るをハヤカワは感じた。

 少し指先が震えたが、自衛隊制式小銃である20式小銃ニーマル樹脂製弾倉PMAGを叩き込んだ。

 開いているカバーから、マガジンと薬莢が見え、ボルトストップを外して初弾装填。実弾が装填されしまう振動を感じる。

 これで戦うのだ。

 震える指先で光学照準器Aimpoint Comp M5の電源を入れて明度を調整した。ゼロインは済ましてある。

「初陣だ、アタシらが射撃してる方向に射撃してればそれだけで合格。気にせず撃っててくれればいい」

「そうデスネ!ただ、誤射だけは気を付けて!」

「…了解です、頑張ります」

 今にも、吐きそうな顔をするハヤカワ。

 それを見た二人は、お互いに顔を見合って少し困惑した。

 そんな三人の状況を知ってか知らないかは分からないが、無線通信が更に入る。

《ヨコタからブラボー1へ。現在、三井ビルでは、既に何名か死傷者が出ている。早急に事態の鎮圧に移れ》

「ブラボー1からヨコタへ。今回は何系の怪人だ?」

《今回は、新規怪人集団であるアニマルズーだ。目撃情報では豚の様な怪人が見られるとのことである》

「ブラボー1、了解。新人、予備弾倉の数を随時確認しろ」

「り、了解!」 

陸上自衛隊特有の迷彩が施された戦闘装着帯に付いているポーチ類を確認。

 パイロットが大声を出した。

「目標建造物が見えた!新宿中央公園の水の広場へ降りる!」

「了解!着地はしなくていいから!」

 ハヤカワは急いで、防音の為のイヤーマフを装着。

 アニスはSUREFIREの耳栓イヤーマフ ソニックデフェンダーを装着し、リズも無線通話機能を備えたイヤーマフを装着し電源を入れた。

「さぁーて、この度の怪人さんは豚らしいから美味しく食べれるかもよ?」

「痛飲ツアーがドタキャンされた代わりに、豚の丸焼きデスネ」

「それ、美味しいですか?仮にも怪人ですよ?」

「撃って捌いて、焼いてみてのお楽しみだ伍長。安心して、毎年家族と豚は捌いて食べてるから自信はある!」

「それってー」

「到着10秒前!」

「行くよ野郎共!」

 アニスは、吸いかけの煙草をヘリから投げ捨てる。

 ヘリは、交通規制されて人の居ない新宿中央公園の水の広場へホバリング。

 砂埃と枯葉やゴミが風圧で吹き飛ばされる。

 ホバリングしているヘリから3人は飛び降りると、ヘリは離脱していった。

「ブラボー1からヨコタへ。到着した、これより現地へと向かう」

《ヨコタ、了解。既に死傷者、死者も出ている。警戒怠るな。尚、上空をCV-22が旋回し、限定的ではあるが可能な限り火力支援を行う。以上だ》

 3人は交通規制されて、人気がない道を警戒しながら、足早に進む。

 車寄せエントランスには、走行不能車両が何台か捨ててあった。

 車両のボンネットとエンジン曲がり、警備員だった人間の肉塊が転がっているし、引き千切られた民間人の遺体も見られた。

 それを見て、ハヤカワは絶句する。

「…行くよ、今回も奴等も相当がない」

「相変わらず、人間を人間と思わないタイプデスネ」

 一応、ハヤカワは生存確認するが、確認した全員が死亡していた。

 老若男女問わず、規則性も男女差別もない。

 一般市民が、普通に死んでいた。

 奥歯を強く噛み、復讐心に近しい感情が渦巻いた。

 さっきまで、普通の生活を営んでいた人間が、尊厳もなく無造作に殺害されているのだ。

 酸化しながら広がる血の海に3人が反射した。

 周囲を警戒しつつ、可能な限り早足でエントランスを進む。

 先頭ポイントマンはアニス。

 その後ろにハヤカワ、最後尾にリズと並ぶ。

「ブラボー1からヨコタへ。多数の民間人の遺体を発見。死後間もないかと思われる」

《ヨコタからブラボー1。了解した、生存者を発見した場合は早急保護せよ。医療班を向かわせる》

「ブラボー1からヨコタへ。上階の民間人の避難は完了したか?」

《まだ民間人の避難は完全に完了していない。しかし、フロアに居ない又は警告した後なら射撃を許可する。》

「ブラボー1、了解。…ざっと見て20名弱。早く制圧しないと、残された連中が危うい」

「本当に引きちぎったってカンジデスネ」

 リズが、ガムを吐き出しハヤカワを見た。

「…警戒怠らず、平常心デスネ」

「…わかっています、リズさん」

「伍長、今その感情を楽しんでる時間じゃないよ。次、進んで二階の制圧にいくよ」

「了解…です」

 エレベーターは使わず、非常階段から上がり、隅々までクリアリングしていく。


           ☆ ★ ☆ ★


「ナニぃ?もう連中がやって来たぁだぁ?」

「はっ!ツメタカ様の上空からの情報です!ピグ様!」

「上階、4Fにヘイタイを集めろ。そこで連中を待ち伏せ、殲滅しろ!」

「御意!」

「忌々しい悪魔どもめ、第一から第三部隊まで4Fで待ち伏せ攻撃、第四部隊は俺と来い!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

正義の悪魔 青カビな俺 @aokabi151

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ