第27話 物質調達

「それじゃあ、待っててね。」


木製のベットの上。

ジリスは窓辺に寝ている髪の長い瞼を閉じた少女に一言、声をかけると、すぐ側に設置されていた扉を開け、外へ出た。


外にはヒスイとフウシの二人が立っていた。


「それじゃ、行こう!」





洞窟の中、湿りきった空気の味を噛み締めながら俺たちは暗闇の中を進む。


「本当にあるのか?鉱石」


俺がジリスに質問すると、ジリスは、頭につけた自作のライトを色々な方向に向けながら、


「もうちょっとだから!」


と答えた。


「魔物ってここら辺には出るのか?」


「一応。蜘蛛みたいな奴がいたりね。」


俺は、その言葉を聞くと、少し間を置く。


「そういやさ、ジリス。お前の能力…ってかスキルって、どんな奴なんだ?」


「え?スキル?ああ…僕のスキルは、分析…って言うのかな?一目見るだけで、物質とか液体とか、そう言う感じの属性みたいのをわかるんだよね。」


「え?つまりそれって…どう言うこと?」


フウシがわかった風な口を聞いて再び聞き返す。


「えっと、要するに、二つの石が目の前にあるとして、その二つの石が何で出来ているか、一目でわかるってこと。」


「それって、もしかして、食べ物とかに毒が入ってたら一発でわかるのか?」


「え?まあ、よほど毒の濃度が少なくなければね。」


「「へー」」


俺たちは、洞窟の石を眺めながら呟いた。


すると、次第にチョロチョロと言う何かが流れる音が洞窟内に響いてきた。


「え?これって…」


「地下水源…って奴だね!」


「地下水源か…毒は無いのか?」


ジリスの瞳の奥が、青く円形に輝くと、やがてその瞳の輝きは光を失っていく。

すると、腰を上げて、


「特に何も入ってなさそうだね!魔力とかは入ってるかもだけど…」


「魔力の流れに関しては分からないのか…」


「魔力は専門外でさ。ボンレス爺さんはまさにその専門なんだけど…」


俺は足元に流れている川のような地下水を少し手の上に取ってみる。

特に何も感じない。

多分、安全だと思う…


「とりあえず飲んでみるか?」


「え?飲むんか?ならヒスイ飲めば良いじゃん」


「俺はヤダな。そんじゃ、ほら!飲め!」


そういうと、フウシは、水を両手で汲み取ると、俺に向かって掛ける。


「うぉ!?冷たい!!オメェ!!何しやがる!!」


「はは、怖い怖い!」


ジリスは少し気まずそうに、「早く行きませんか?」と声をかけた。







「そういや、ジリスは何族なんだ?」


「え?」


あ!と心の中で言葉を漏らす。


この世界のタブーについては俺はよくわからないが…

もしかしたらそう言うこともあるかもしれない…

例えば、種族差別…とか…


「え?僕?もしかして知らなかった?」


フウシはコクリを首を縦に振る。

なんとなく、タブーに触れたような感じではないよう…

多分、大丈夫なのだろう…


俺はそのことを思うと少し安心し、胸を撫で下ろす。


「僕はね!リョーク族っていう種族なんだけど…」


「リョーク族?なんだそれ?」


俺たちが首を傾げると、「ほ、本当に知らなかったんだね…」と言いながら説明を始める。


「僕たちリョーク族はね、目を中心としたスキルに長けている種族で、特徴としては、魔法を使うことが苦手なことや、科学分野や、魔術分野に関してとても長けていることが特徴なんだよね。」


「か、化学?」


異世界に来てから、しばらく聞くことのなかった化学という単語。

今になってようやく聞くとは。てっきり俺は一生聞かない言葉とも思ったのに。


「化学と魔術の融合ってところか?」


「え?化学の意味、知ってるの?」


俺はぽかんと口を開けるジリスを見つめると、フウシが、少しにやけながら、「え?逆に知らないとでも?」と聞き返す。


「い、いや、そんな冒険者なら魔術の言葉しか知らないかな〜って思ってて…」


まあ、確かに冒険者なら魔術やらの魔力を使ったものの方が知っているか。


「ふん。こう見えても俺は意外と博識なんだぜ?」


鼻を高くするフウシを置いて、俺らは先へと進んだ。


「おい!?ちょっと待ってくれって!!」





今まで進んでいった道の前に、大きな岩が見えると、そこでジリスは足を止めた。


「って…あれ?おかしいなぁ?」


「どうしたんだ?」


フウシがジリスに質問をすると、ジリスは目の前の大きな岩を指さしながら答えた。


「実はさ、この先に多分、目的の場所があると思うんだけど…」


「岩があるのか…」


大きな岩。押してもびくともしなさそうだな…


こう言うときはあれか。


俺は腰にぶら下げていた10センチほどの木の棒を取り出す。


「これ使おうぜ。」


「え?何それ?」

とジリスは、俺のとった木の棒を見つめる。


「これ?これは、ロングボムっていうやつだ。木の棒に魔術を刻んでいてね、ある言葉を話すと、起爆するんだ。」


「へー」


俺は岩の近くにロールケーキのようなロングボムをそっと置くと、少し距離を取る。


「よし、詠唱を始めるか。」


俺は洞窟の薄いをめいいっぱいに吸い、喉を震わせる。


「火の神よ!!!!我らに力を!!!!BOM!!!!!!」


俺がその言葉を洞窟中に響き渡らせた瞬間、木の棒は、赤い火と、煙に包まれ、轟音と共に、岩にヒビを入れる。


「あれ?できてないね」


俺はもう一つ、ロングボムを岩の近くに投げ込むと、「BOM!!!!」と洞窟内に声を響かせて、木の棒から火と爆発音を吹かせた。


気づくと、煙の満ちた空間の向こう側に岩の瓦礫が転がっているのが瞳に映る。


「よし!行こう!!」


「切り替え早いね…ゲホッ!ゲホッ!」


そんなことがあり、俺らは岩の瓦礫の奥へと進んだ。




「お、おぉ〜!!!」


「き、綺麗…」


部屋の奥にあった風景。それは、暗い暗い闇の中に、点々といろいろな色に輝く宝石で彩られた、夜空のような空間だった。


上を見上げれば、洞窟内の天井に、青や、赤や、緑に彩られたカルフルな星空のような宝石。首が痛くなってもずっと見ていられそうな位までに、その宝石たちは綺麗に輝いていた。


「それじゃ!取っていきますか!」


「お、おう!」


ジリスはそこから、一言も喋らずに、壁に埋められている光を放つ宝石を掘っていく。


天井だけは、星空のように残っているのは、ジリスが壁際のものを全て取っていっているから天井の届かない所だけが残っているのか。


なんて、どうでもいい考察をしながら、俺は夜空のような大自然のプラネタリウムを鑑賞する。


「綺麗だな。」


フウシが、そういうと、俺は「そうだな」と答える。


「魔王城でもこんな景色、あったんだよ?ヒスイは見たことがないかもだけど。」


「そうだな。魔王城での夜は、そういえば、図書室にずっといたし…」


でも、この星空には、覚えがある。


「あ、この星空。糸魚川でも見なかったか?」


糸魚川。それは俺らの故郷の名前だ。

俺らが住んでいたところは、田舎だったせいか、そういえば、星空が綺麗だった。


フウシはそれを思い出したのか、どこか遠くを見るような懐かしい目をする。


「もう俺らって…帰れないんだよな…」


「ふん…まぁな…」


あの時は、確かにいろいろな思い出を作ってきた。


初めての高校生活。そういえば、ようやく高校生!ってところだったのに、俺らの故郷は人口が少なすぎて、中学の顔馴染みの奴しかいなかったな。


新たな出会いもなかった。まあ、それでも十分楽しかったけど。


「ふふ。懐かしいな。あの時が」


「本当にね。」


俺らはそこから少し昔のことを考えながら、地面に寝そべる。

そして、束になって輝く宝石を見つめていた。


「よし!こんなもんか!」


ジリスは満足気な声を出すと、早速、俺らの名前を呼び、「帰ろうか!」と言った。


「へいよ。」






「そういえばさ、さっき「魔王」って言ってたけど…どういうこと?」

洞窟から出て、少し森の中を歩いていると、ジリスは、フウシの目を見ながら質問した。


「え?あれ言ってなかったけ?俺、魔王だったんだよね。」

フウシが、躊躇うこともなく、その言葉を放つ。


「え!?ま、魔王!?そ、それって、あの、独裁を好んだ魔王ってこと!?」


「え?な、何を言ってるん?」


「え、だ、だって…魔王って…め、めちゃくちゃ悪い人だったんじゃないの!?」


「そ、それはいつの話をしているんだ…?」

慌てるジリスと頭の中がこんがらがるフウシを眺めていると、ふと、あることを思い出す。


そういえば、宿屋の主のヘンリーが「怒ったら怖い」って言っていたな。

まさか、その面では、案外魔王ってのは有名なのか?


「と、とりあえず、俺は別になんか、危険な存在ではないぞ?」


「ほ、本当?」


「じゃなかったら、お前は今生きてないだろ…」


「ま、まぁ確かに…」


「とりあえず…俺は悪者なんかじゃ…ん?」

と、ここでフウシが言葉を言いかけると、何かに気づいたように言葉を止める。


「どうしたの?」


ジリスが、フウシに言葉をかけると、フウシは、自身の鼻をピクピクさせた。


「あのさ…なんか焦げ臭くない?」


「え?そうか?」


俺はもう一度、鼻から空気を吸い込む。

確かに、何か焼けている匂いがあるような…


「え?」

とその時、ジリスが言葉を漏らした。


「ん?」

俺はジリスの向いている方向を見ると、そこには、黒い煙の塔が立っていた。

煙の塔は、空に向かって伸びていて、大きな火事があったのかもしれない。


「あ、あっちの方向…お、俺らの村だよ…」


一気に嫌な予感がその場を駆け巡る。


「い、行こう!!!できるだけ早く!!!」


「え、あ!!うん!!!!!」













息を切らしながら、森を抜け、村の中に入ると、その中には、何人もの甲冑を着込んだ兵士が居た。


「まずい!!!!」


俺らは、兵士に気づかれないように、茂みの中に、慌てて飛び込む。


「もしかして、どこかの軍が!?」


「その可能性は高そうだな…家々に火がついているのも、軍がやったと見ても間違いなさそうだ。軍の中の奴ら、たまにこんな昼間の中に松明持ってるやつがいる。」


「お、俺!!!」


茂みから出ようとするジリスの手を俺は握った。


「まだだ…少し、チャンスを待とう…」


「で、でもみんなが!!!」


「軍であっても、流石に簡単に人を殺すなんてことはしないはずだ…少し待ってよう…下手に動いたら、それこそ村の人達を人質にするかもしれない…」


「く…わ、わかったよ…」


ジリスは、そういうと、茂みの中に再び身を隠す。


「それじゃあ、せめて作戦立てよう?それでいい?」


「わ、わかった…」


ジリスは、俺らを見つめると、その場に腰を下ろし、俺らの作戦を聞き入れてくれることになった。


また何か、何かが絡まってる気がする。

そんな予感と共に、俺は、作戦を考えることにした。



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