宇宙人が落とした靴

藤泉都理

宇宙人が落とした靴




 ごてごてごわごわの、一昔前の宇宙服を装着したような形のヒューマノイドロボットは、道端に粉々に割れたガラスの破片を発見。

 誰かが怪我をしたら大変だと判断。

 ピンポーン。

 チャイムを鳴らし、近所の方に掃除道具を拝借。

 サササっと、箒で集めたガラスの破片を、塵取りからビニール袋へ投入。

 感謝いたします。

 近所の方に礼を述べて、不燃物として持って行こうとした時だった。

 ビニール袋の重さの変化に気づき視線を向けると、その中に入れたはずのガラスの破片が消滅。道端に目を向ければ、ガラスの破片を発見。

 ヒューマノイドロボットは、ガラスの破片を詳しく分析。

 生物に無害の物であり、かつ、地球外生命体の物だと判明。

 宇宙人の落とし物だ。

 ヒューマノイドロボットは、自身に搭載された電話で警官を要請。

 駆け付けた柴犬型警官ロボットに事の説明をして、一礼。

 その場を後にした。






「はは。そのガラスの破片ってのは実は、宇宙版シンデレラのガラスの靴だったりしてな。んで。そのガラスの破片を持ち帰れたやつが、宇宙版シンデレラの王子様。残念だったな。王子様になれなくて」


 飲んだくれの相棒は、今日も今日とて、飲んだくれのままだった。

 ごくたまに依頼人が来客する平屋は自宅兼探偵事務所であり、この飲んだくれが探偵、ヒューマノイドロボットは探偵補佐であった。


 見た目が精悍な武士に見えてもダメだ、早くこの飲んだくれを有能な武士にしてくれる王子が現れないだろうか。

 ヒューマノイドロボットが、思った時だった。


 ごんごごーん。

 探偵事務所独特のチャイムが鳴ったので、ヒューマノイドロボットが応対するために、扉を開閉。

 靴を失くしたんですと探してくださいと泣き喚く依頼者に、警察署への来訪の有無を質問。

 お困り事はすべて探偵にお任せではないのですか。

 首を傾げる依頼者に、職業を説明。

 全部覚えきれませんと泣き出す依頼者に、とってもわかりやすい職業本を手渡し、警察署へと向かう依頼者を見送ると、依頼者を逃しちゃったんだ~とからかう探偵を無視して、在宅ワークを開始。




 後日、柴犬型警官ロボットに偶然会った際、どうしてもあの場から動かす事ができなかったガラスの破片を引き取りに宇宙人がいたと報告を受けた。

 危ないからガラスの破片を落とさないようにと注意をしたら、あれは靴で無害なんですけどそうですね地球人には見た目が悪く見えたんですかねごめんなさいと謝罪をした上で、誰も動かす事ができなかったんですかと、たいそう悲しそうにしていたのだそうだ。






「私も悲しい」

「え?なーに?」


 今日も今日とて飲んだくれ野郎は飲んだくれ野郎のままだった。


 早くこの飲んだくれを有能な武士にしてくれる王子が早く現れないだろうか。

 ヒューマノイドロボットは、窓から庭へ振り撒いては流れ星に見えなくもない塩に向かって、祈願。

 在宅ワークを開始させながら、いや祈願ではだめだと再考。


 触れた瞬間、ここに瞬間移動させられる機能を取り付けたこいつの靴を宇宙に吹き飛ばし、触れた宇宙人を王子に仕立てよう。


 ニヤリと笑った次には、ヒューマノイドロボットは、肩を落としたのであった。

 何をばかげたことを考えているんだ。


「あっ。そういえばこの前窓から烏が入ってきて、玄関に置いていた俺の靴が片っぽ持ってかれちゃったんだよ。まあ。別にいいんだけどさあ、あんなきたねえ靴がどうなろうと」


 早く新しい靴を買いに行けと、ヒューマノイドロボットが言おうとした時だった。

 ごんごごーん。

 探偵事務所のチャイムが鳴ったのであった。











(2024.1.16)



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宇宙人が落とした靴 藤泉都理 @fujitori

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