私とあたしの秘密

大田康湖

私とあたしの秘密

 1月13日。私、野口のぐち星未ほしみは、友達の松永まつなが夏夜なつよ、元ファミレスのバイト仲間の奈良田ならたかんと予備校の体験入学に参加した。終了後、私たちは奈良田の友人で予備校に誘ってくれた元村もとむらだんと一緒に、ホールでコーヒーを飲みながら休憩していた。


「そうそう、ファミレスの小峰こみね店長のことなんだけどさ」

 いきなり奈良田が話を切り出したので私は身構えた。

「今週いきなり異動になったんだ。どうやらバイトの佐藤さとうに手を出したのが奥さんにばれたらしい。野口が店長と付き合ってたんで辞めさせられたって言ってたのも佐藤なんだ。俺は野口を誤解してたよ。悪かった」

 頭を下げる奈良田を見ながら、私は戸惑っていた。去年のクリスマスの夜、小峰とホテルに入った後で「奥さんが帰ってくる」とドタキャンされたことは、小峰と私だけの秘密になったらしい。

「それでさ、俺もバイトを辞めるし、野口もここで一緒に受験勉強がんばらないか」

「あたしは入るつもりだよ。元村もいるし、授業もついて行けそうだしね」

 夏夜があたしに話しかける。初詣で再会した元村とはすっかり仲良くなり、彼女と去年のクリスマスにドタキャンを慰め合ったのがまるで昔のことのようだ。

「お父さんに聞かないといけないけど、夏夜が一緒ならやってもいいよ」

 私の返事を聞くと、夏夜はにっこり笑った。


 私は駅で奈良田と元村と別れると、夏夜と一緒にホームへ向かった。

「ねえ、去年のクリスマスのこと、元村君には話したの?」

「あたしがマッチングアプリの相手にドタキャンされたことは話したけど、星未のことは話してないよ」

「良かった。元村君から奈良田にばれたらどうしようと心配だったんだ」

「星未は奈良田君のこと、どう思ってるの」

 夏夜はあたしに問いかける。

「どうって、バイト仲間だったから悪い奴じゃないのは知ってるけど、また恋人がいたら嫌だなって」

「元村の話じゃ、奈良田君は部活やバイトで忙しくて、付き合ってる暇がないって愚痴ってたってさ。直接聞いてみればいいんじゃない」

「そうだね」

 けしかける夏夜に答えると、私はホームドアの前に立ち止まった。

「夏夜、クリスマスの本当のことは、2人だけの秘密だよ」

「星未もね」

 うなずく私たちの前に、ホームに着いた電車が滑り込んできた。

 

おわり

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