この感情に名前をつけて

羽入 満月

この感情に名前をつけて

 もし、これがゲームならポイントを振り分けてなにかに特化した、なにかになれたかもしれない。

 でもこれは現実でこれから先、ずっとリセットされることなく道は続いていくのだ。


 だから、私は我慢する。


 昼間は逃げ出したいのを我慢する。


 我慢したからといって、改善されるどころか悪化することもわかっている。

 でも、私の世界はここだけだから。

 ここから爪弾きにされたら生きていけない。


 だから、奥歯を噛み締めて、爪が刺さるほど手を握りしめて、ただひたすら我慢する。


 よく、逃げてもいいよ、世界は広いって言うけれど、それは私とは関わりのない外側からだからそんなことが言えるのでしょう?

 内側に助けを求めて裏切られて、外側に助けを求める方法がわからないのに、そんなこと言われても困るんだ。


 そして夜も我慢する。


 布団に入ってしばらくすると、


 叫びたくなる

 暴れたくなる

 手当たり次第ものを壊したくなる


 それでも私は我慢する。


 だって、暴れて布団を蹴飛ばしたら寒いから。

 叫んだら近所迷惑だから。

 壊したら家族に迷惑がかかるから。


 そんな理由を並べて、私は今日も我慢する。

 暴れ出したい衝動を、自分で自分を押さえつけ腕に爪を立てながら、ただひたすらに耐えるのだ。

 叫び出したいのをぐっとこらえて、叫びを根性と気合で飲み込んで、口をひたすら閉じるのだ。

 壊したくなる衝迫を、持てる理性をすべて持ち寄って、ただひたすらにねじ伏せる。


 もしこの「我慢」が何かに昇華されたなら、一体何になるのだろう。

 もしこの「我慢」が実を結んだなら、私は何者になれるのだろう。


 それが嬉しいことなのか、悲しいことなのかさえ、私にはもうわからない。


 ただ一つ願うとするならば、


 それが何かになる前に

 私がなにかになる前に


 警告音と共にガイダンスを一つ流してほしい。



『その感情は現在使われておりません』

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この感情に名前をつけて 羽入 満月 @saika12

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