第27話 師匠の本望



 ズギュギュ!!!


 そんな鈍い音をたてて、ニードルは俺の身体に刺さっていった。


 ……あ〜あ、なんだよその顔は。


 そんな絶望的な顔すんじゃねえよ。

 ……何考えてんだろうな、ダンは今。


 自分のせいでとかそんなこと考えてんのかな。分からねえ……でも、こんな所で死ぬのは、明らかに間違ってるよな。


 あ〜やばい。意識が消えそうにな……。

 






 

「あ?」


 意識が……戻ったのか? これ。


 目の前が真っ黒で、何も見えない。 

 

 俺は死んだのか? だとしたらここは地獄……いや、なんで前は転生できたのに今は地獄に直行なんだよ。


『……おい』


 なんか声が聞こえてくる。


 ふよ、振り返るとそこには、侍のような着物を着て腕組みしている何かがいた。


 なぜ何かと表現したのか。それは、その侍の肝心の顔の部分が、鬼火のような青白い揺めきがあり、どう言う顔をしているのかわからなかったからだ。


 胸の部分を見ると、女性的なラインがないことから男性だと予想する。また、声も男っぽい気がする。


『おい、小娘』


 あ? なんだ? それはあれか?


 おおフローよ、しんでしまうとは情けないというやつか? 勘弁してくれここはゲームじゃないんだ。

 

 まあ、魔法がある時点で俺が元いた世界よりかは非現実的か。


『おい、お前。今身体を回復させる』


 なに? 今、回復させるって言ったのか?


『お前が死ぬと、俺たちが困るんだよ、なあ』


 すると、何十もの足音が重なって聞こえたと思うと、そいつの後ろに夥しい数の人間が見える。


 みんなこいつと同じで、顔が無い。


 何だこいつら、その質問を放つ前に……。


『お前が回復しないと、こっちが困るんだよ』


 その意味を問う前に、辺りが真の闇になった。








 

「はっ」


「フロー!!」


 いつの間にか気を失っていたようだ。


 目の前に滝のように涙を流しているダンがいる。どうやら俺はしばらく気を失っていたらしい。けど、やはりニードルに貫かれたのは確かだったようだ。


 貫かれたのは肩の所を触ると、かさぶたみたいなものがあった。しっかりと塞がれていて傷があった痕跡となっている。

 

「フロー!! 大丈夫なのか!?」

 

 ダンが涙を流しながら聞く。


 こういう時、師匠ポジのキャラならなんて言うのが良いか。答えはもう決まっている。


「大丈夫に決まってんだろ?」


 後ろには、ひゅんひゅん伸び縮みしているニードルがどっしり構えている。

 

 だがなぜかこっちには襲いかかってこない。


「……んでだ……なんでだよ!! なんで生きてるんだよ!!」


 あ〜そうか、そりゃビビるよな。串刺しにして殺したと思った相手が、生きていたなんてな。


 じゃあこの隙に、やりますか。


 刀に手をかける。すると……。


『おい、今回は俺で良いよな』


 何だ? 声が聞こえてきた。しかもこの声は、さっき真っ暗闇で話しかけた侍の男の声だった。


『ん? 何だ? もしかして俺の声が聞こえるのか?』


 どうやらあっちも驚いているようだ。


『おいおいマジか。じゃあ、今回はうまくいくかもなぁ』


 今回は?


『いや、今までお前が刀を抜こうと触った時、何人か介入しようとしたんだけど、全然上手くいかなかったんだ。な〜んか、どっちの意識もブレちまう。でも、今回はな〜んか違うかもしれないんだよなぁ』


 何か違うのか。


『まあ、やってみっか!』


 瞬間、俺の身体に何かが入ってする感覚が襲いかかる。


 分かる、どう刀を動かせばいいか。


 どういう姿勢をとればいいのか分かる。


 だけど身体が軽い。背中に羽根がついているかのようだ。

 

『ほんじゃ、いくぞ!!』


 瞬間、目の前にニードルボールが見えた。

 さっきの一瞬で、近づいたんだ。

 

 ニードルボールは、慌てたのか、全ての針を俺に伸ばしてきた。

 

 しかし、それも瞬く間に消えて、細切れになった。紛れもなく全て斬ったのだ。

 

「ふあ!?!??!」


 その叫び声さえ、瞬く間に虚空に溶けた。


 つまり……。


「『バラバラだ』」


 斬撃音と共にニードルボールが細切れになり、空気に塵として漂う。


『……おい、分かると思うが、さっきの奴、死んだぞ』


 分かってるよ、そんぐらい。


 この刀はすごい。今ならそれがよく分かる。相手の生命をスパッと斬っている。


 生の一切を断ち死へと一瞬にして至らしめる。そんな強さを持っている刀だった。


「フロー!!」


 後ろを振り向こうとしたが、背中に突進を受けて軽く衝撃を覚えた。誰が来たのかは明白だ。


「おいおい、そんなに泣くなよ。ダン」


 背中に妙に水滴が染みていく、これがダンの涙であることは見なくても分かった。


「泣いてねえし……ざけんな……死ぬなんて……許さねえからな」


 そっと俺はダンの頭に手を置いて撫でた。


 なんというか、息子ってこう言う存在なのか。無鉄砲で無茶してばかりだが、正義感が人一倍強い。そんな子どもに育ってくれたら……いや、苦労するだろうなぁ。


 ダンを撫でている内に、周りに村人、そして俺の部下たちが集まってきた。


「オカシラ!!」


 そう言って飛び出してきたのは、ミックだ。その後に、ゴンも付いてきた。


「大丈夫ですかオカシラ!!」


「ああ、大丈夫だ」


 こいつらが安心できるように、できるだけ笑顔で答えた。ミックが胸を撫で下ろしたのを見て、満足した。

 

 

 



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序盤のザコ盗賊団の下っ端(女)に転生したけど成り上がって女頭領になって世界を獲る @nluicdnt

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