第26話 死亡フラグはいつのまにか立っている


 ああくそ、こんな事態になるとは思わなかったよ。なんたって少年というやつは無鉄砲な奴が多いんだかな。まあ、そうじゃなきゃ少年じゃねえんだがよ。


 だけど、いきなりよくわからない強キャラに戦いを挑むのは無鉄砲過ぎる。ボヤンが探して、俺が引っ張らなきゃ今頃、爆発に巻き込まれて、灰とか炭になっていてもおかしくない。なんとか助かったのは不幸中の幸いだった。


 だけど、災害そのものが去ったわけじゃないことは分かっていた。


「きみ、だ、だ、だ、だ、だれ……?」


 そこに現れたのは、みたことないキャラだった。


 男は顔や全人の肌が青ざめており、不健康そうな見た目をしている。あまりにも身長が長く、痩せ型だがそれなりに筋肉がついているからか、腹が丸出しになっている。


 見たことはないがそれだけで、そいつがやばいキャラだということは十分理解できた。

 

「死んで……ほら死んでよ!!!」


 叫ぶや否やいきなり全身を大きなドリルに変えてきやがる。あの大きさ、人間の身体に簡単に穴を開くことが出来そうだ。


 直進、してくると思いきやいきなり地面に潜り込み蛇行するように地面をゴリゴリ削り削りながら、こっちに進んで来る。


 くそ、中々に読みづらい動きをしやがる。


 地面に穴をボコボコ開けやがって。


「死ね!!」


 ブォン!!


 あっぶね!! やろう……武器変身の速度が速え。直前までドリルだったのに、一瞬で剣に変わりやがった。


 ドリルと武器、性質や攻撃方法は互いに違う。だから避け方や捌き方も変えなきゃいけない。思っていたより厄介だなこれ。


 んなこと思っている最中にも、こいつ、目まぐるしく武器変化してきやがる。


 槍とかドリルとかの突き技


 刀やチェーンソーとか大サーベルの斬り技

 

 ハンマーやトンファーなどの叩き技


 銃や弓矢などの遠距離武器


 全く攻撃方法や射程範囲、射程距離だって違う。だから対処するのが大変だ。


 だけどそれなら、動きを封じるのはどうだろうか。


 例えば、こういう風に!!


「が!?」


 鞭を伸ばし、叩くのではなく絡め取ることをした。ドリルに返信していたから、絡みとりやすかった。

 

「ぐの……」


 変化できないのか、あいつはもがくように動いたり、いきなり左右にメチャクチャ動いてほどこうとした。それに振り回されないように、なんとか俺は耐えようとするが、野郎の勢いが予想外に強い。気を抜くと、足を持っていかれそうだ。


「調子に、のるなぁぁぁあ!!」

 

 突然、街の感触が変わった。


 何と、ドリルの大きさが変わり始めた。

 

 人の身体どころか、大きなトンネルを掘れるほど大きなドリルに変貌している。


 あまりにも大きいからか、鞭もミシミシ悲鳴を上げ始めていた。


 まずい、このままだとこっちの鞭が切れちまうのは明らかだ。


 その時だ。


「オカシラ!!」


 声の方を向くと、向こうからミックとダンがいるのが見えた。


「お前ら、無事だったか!!」


 俺の言葉に二人は頷き、後ろに向けて、口笛を吹き、ただ仰いだ。


 何をしているのかと思いきや、槍が空からふりはじめ、それと同時に、地面に対し、水平に矢が放たれた。

 

「なっ……いって!!!」


 グサグサと、槍や矢が刺さっていく。

 それに巨大なドリルのようなクリーチャーが悶え苦しみつつも、どんどん形状が崩れていく、

 

 よし、大丈夫。効いてるはずだ。


 ドリルのシットィターは何やら訳の分からない言葉を出してますます巨大化していく。


 まずい、このままだと鞭がが切れる可能性がある。なら、こうするのはどうだ。

俺は刀に手をかけた。


 ドグン……!!!!


 大きく脈を打ったのは分かる。


 この間までは、ここで身体のどこかが痛くなってヤバかったが、今はそんな痛みが全くない。刀をかける瞬間に心を落ち着かせた。


 それだけじゃない。イメージもするんだ。


 例えば、この刀から揺蕩うように、潮風のような薄く白いオーラが静かに纏っているのを。そして自分が触ることにより、そのオーラが自分の身体にも纏い始める。


 そんなイメージをして、心を落ち着かせて刀に手をかけたら、完璧だ。


 よし、心と思考の整理をしたおかげで、より刀を使うことへの、恐れは消えた。


 刀を抜いた。だが同時にドリルも原形が無くなるほど大きく膨張する。

 

 しかし俺は気づいた。


 次の瞬間、あれが爆発することに。


 気づいたしゅんかん、振っていた。


 カヒュッ


 乾いた斬撃音が俺の鼓膜に飛び込んだ。


 だけど無意識に振ったからか、俺は気づくことができなかった。

 

 俺なら斬ったのは、

 

 つまり、俺が刀を振るった時と同時に、ドリルも爆発したのだ。


 よくよく思ったら、あれはもうドリルじゃなかった。すでに巨大な爆弾になっていたのかもしれない。


 爆炎を斬ったからか、耳をつんざくほどの衝撃音と熱気は感じなく、爆炎も俺の前には来なかった。


 向こうは大丈夫なのか。その考えが過ったが、それより、これは好機かもしれない。


 頼みの巨大爆弾は俺が斬ったせいでほぼ不発した。多分、相手は相当あせっているはすだ。そして、そんな時に自分に近づいてくる相手なんかいたら、どういうことをするのかはなんとなくわかる。


 というか完全に、ティーンチンと同じタイプだと考えているから、ここで俺が近づいてきたら、多分……


「くるなぁぁぁああああ!!!」


 ほら、やっぱり攻撃した。


 俺と同じ鞭を描いたのか、なんか触手みたいな武器が向かってきた。


 ズッ!!


「っ痛!!」


 まずい、見誤った。あれは鞭とかじゃない。複数の伸びる攻撃、そして針の攻撃、これはニードルだ。

  

 ニードルといっても、球体、いわばニードルボール。


 これからでっけえ針がこっちにたくさん伸びてくるってことがわかる。


 すぐに躱したい。だけどここで大問題が起こった。どうやらニードルに毒が含まれていたらしい。


 意識が少し揺らめいている。だけど容赦なくニードルが伸びてくる。それに対して全て完璧に対処なんてできない。


 擦り傷、切り傷が多くなる。その度にどんどん毒が回っていく。なんとかしないと


「フロー!」


 は?


 一瞬、耳を疑った。


 この声、聞き覚えがある。ずっと前から聴いていたようで、最近聞いたような声だ。


 チラと振り向くと、そこにいたのはダン出会った。ダンが今まさに戦いに参戦しようとしている。そんなことさせたらだめだ。


「来るな!!」


 大声で静止させる。ダンが止まるのがわかった。


 まずい、この状況でダンが来るのは予想外だった。下手するとダンを巻き込む可能性がある。


 ていうかこれまずいな。


 後の勇者になる主人公。そしてその主人公に一応慕われている俺はまるで師匠ポジ。


 これ……俺……死ぬんじゃね?


 弟子庇って死ぬパターンじゃない?


 そんなことを思っていたら、いきなりニードルの横打ち雨が襲いかかる。


 避ける、なんて選択肢は無かった。


 なぜなら、そのニードルは俺を狙っているんじゃない。


 俺の後ろにいるダンを狙っているのだから。


「ダン!!」


 叫ぶと同時に、俺はダンの元に駆ける。


 だが……。





 ズギュ!!!!





 魔針の牙が剥かれた。

 牙は、小さな身体に突き刺さっていった。

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