第25話 災害時 逃げるべき時は逃げなければならない






「はい、というわけで作戦会議始めます」


 その後、俺が選んだメンバーが全員集まってきた。ここで俺が一番重要しなきゃいけないのは、主人公を死なせないことだ。


 もしここで主人公が死んだら、全てが変わってしまう。誰が勇者になるんだよ。だからなんとしてでもダンは死守。最悪の場合、俺が死んでも良い。


「さて、まずオヴォー」


「はい?」


「お前は何かチェリジュンについての情報、持っていないか?」


 するとオヴォーは、ふむ、と腕を組んだ後、静かにその腕を解く。


「それは構いませんが、その前にそちらが持っている情報を差し出すのが礼儀ではないですか? まずオカシラの持っているチェリジュンについての情報をください」


 言い終わる前からヤバいと思った。


「おい貴様!! 何を言っている!! とっととオカシラに話さんかぁ!!」


 やはりゴンのやつが怒鳴ったか。

 

 どうもこのオヴォーは仲良くすることをしない。むしろ自分から争いの火種を蒔こうとしている。そんなに俺を退かせたいのか? それとも信用できないのか?


 そして今問題なのはゴンじゃなくて、ミックの方だ。もう武器に手をかけている。


 これ以上何か失礼なことをしたら、即斬りかねない。そんなことをしてしまったら、まずこのオヴォーが率いる団体と対立する可能性がある。早急に手を打とう。


「まあ、それは良いんだが、なんせ俺たちは傘下の中でも下っ端中の下っ端だ。そんな奴らに送られてくる情報なんてごく僅かだ。そして信憑性も低い」


 別にそういうデータを得たわけじゃない。


 なんとなく口伝えで伝える時は、後になればなるほど元のは全然違う言葉にされことが多い。


 だから、オヴォーが初めに伝えることの方が正確性が高い。


「わかった」


 意外にもオヴォーは簡単に了承した。

 それはどこか、こんなことすら分からないなんでな。なんてことを思っているようみにも見えた。


「分かりました。初めに僕がお話しいたします」


 そう言って、オヴォーは語り始める。


 オヴォーが喋る直前、俺はこいつらには聞こえないように、こう呟いていた


「面白くなってきた」


 いよいよ、本気で異世界ファンタジーらしい世界になった。そんな気がする。


 


 



「状況が変わった!! 住人たちをせめて、爆風に当たらないように非難行動させよう!!」


 俺の指示にみな頷き、一目散に走る。


 オヴォーの話によると、シットィターは我慢できない性格で、時々、段取りよりも早く自身の能力を使う傾向にあった。


 だから、今、あるいは何秒後かにもう爆発してもおかしくない。特に、ダンとかは守らなきゃいけな……あ? ダンはどこだ!?


 さっきまでボヤンの隣にいたはずのダンが消えている。


「ダンはどこだ!?」


 ボヤンに聞くと、ビクンと肩を震わせて隣を見て目を丸くした。この時点でボヤンもダンがどこにいるのか分からないことが判明した。そして、頭の中で最悪な結末が浮かんだ。


「まさか……あの馬鹿!!」





 


 ビビりすぎなんだよ どいつもこいつも


 ダンは、フローが話が終わるか終わらないかの内に、とっくに走り始めていた。

 

 全ては、今、そらから降ってこようとする人間の形をした爆弾を撃退するために。


(俺にかかれば、空中くらい飛ぶことなんて簡単だ〉

 

 そう、今ダンが持っている杖は『隅賢者のぐげんしゃのつえ』といい、超強力な杖なのだ。しかも。その杖にはなんと、立派な刀身がついており、仕込みがある剣でもある。これを試合などで使うと、卑怯者とされてしまう。


 だからこうして今のように、モンスターや人の敵と戦う時だけは、そのような仕込の剣で戦おうとしている。


「あんなやつ、一発で殺してやるぜ。ハゼルフット」

 

 その瞬間、ダンの足の下が爆発し、ブーストのように飛び上がった。


 そして、高い木々を抜けて、視界が真っ青な空一面になった時、そこで魔力を抑えて、浮遊状態にする。


 しばらく目を細めて凝らし、その災禍の主を視認する。


「……あれか、あの気持ち悪い半裸の男が爆弾か」


 白いTシャツを着て、ほぼ全裸の状態で落下している長髪の男だ。反射的に気持ち悪い格好をしていると思ってしまった。あれが変態もいうやつか? とも思った。


「まあ良いや、あの変態殺し落とせばおわりだよな」


 ダンは杖を掲げた。


「マモールマモール」


 瞬間、シットィターは気づく。自分の目の前に、何か結界のような物があることに。


「あ? 何だありゃ?」


 マモール、単純だが全ての攻撃から守るための結界を張る意味を成す魔術だ。ダンは『マモールマモール』と唱えていたが、あれはさらに、その守りを強化しするために唱えた、ということだ。


(流石にこんだけやりゃ爆弾とか防げるだろ)

 

 ダンは少し余裕顔をする。しかし、それは甘い考えであったことをすぐに知る。


「……うーん……あ〝あ〝あ〝〜〜……んだあれクソムカつくなあ……なんか強そうだし……俺の爆発とかだめかも……じゃあ着地して剣とかになって斬り殺すとかも……あ〜めんどくせ……」


 そこで、シットィターはあることを思い出した。それはジマユが放った言葉だ。


(お前さぁ、せっかく良い感じの能力持ってるのにさぁ、もったいねえよなぁ。何で武器になれるのにさぁ、人斬れねえの?)


 それは、シットィターがこの世界に入ってきてしまい、まだ間も無いころであった。


 彼は、まだ人を殺すことに慣れておらず、いつも罪悪感を感じてしまう毎日に苛まれていた。せめて、遺体をもっとうまく斬り、一瞬で殺すことができたらと、思っていたが、なかなか上手くいかなかった。


 そんな時に、ジマユが話しかけて事情を聞いた。彼はこう言った。


(いや普通に考えて自分が馬鹿になるってことはさ、お前のイメージが全てなんだからな? だから、何でも斬れるイメージすりゃ斬れるだろ? なんでそんなこともわかんねえの? バカかお前)


 そこから彼は、簡単に人を殺せるようになった。一瞬で命を破壊する剣として、活躍した。なら、爆破あの場合は……。


「……中々良い考えじゃね? これ……」


 すると、シットィターの身体から火がついた。それを見た、ダン、そしても村にいる誰もが異変に気づいた。


 いよいよ爆発する時が近いことを表しているのは、ダンも分かった。


 しかし、幼いガキ大将ならではの、驕り高ぶりがここで出てきてしまった。


「来るならこい!!」


 お望み通りと言うように、光が強くなる。


 今、ダンの頭には、自分と爆発のどっちが強いのか、それだけしかなかった。


 村人やフローたちの盗賊、そしてボヤンのことさえ考えていなかった。ただどっちが強えか勝負したい。それしか無かった。

 

 それを誤魔化すように、ここで爆発を防げばみんな助かる、と何度も繰り返していた。


 そして、いよいよ光が膨れ上がり、爆発する直前の時だ。


「馬鹿野郎!! 伏せろ!!」


 突然、何かが自分の肩を引っ張った。


 振り向くまでも無かった。声の主はフローだった。


「何でアンタが来て……!?」


 言葉は最後まで続くことは無かった。


 なぜなら、一つはフローに口を塞がれて喋ることが出来なかったから。


 二つ、フローがあまりにも早く落下するものだから、地面に激突した衝撃にびっくりしたから。


 そして三つ目、これが重要だった。


 爆発が起きたからだ。







(何が……起きた……?)


 閃光、轟音、熱気、消失


 全てをほぼ一瞬で目に捉えた。その代償として、暗転。何も見えなくなり意識を失った。


 そして今目を覚めたところだった。


 しかし、空は意識を失う直前に見た消失の景色が広がっていた。先ほどの青色が全て嘘のようであった。


 この時、ダンは気付くべきだった。


 飛び立つ前、見上げると、まず最初に生い茂る木々の緑と茶色が見えたのに、今は全くそれが無いのだ。それに気づくべきであった。


 何も言わず起き上がると、言葉を失う。


 先ほどまでの緑が全て、灰色の景色と化してきた。さっきの爆発で周りの自然が吹き飛ばされたのだ。

 

 ダンは、どこかで爆発というものを舐めていた。そう簡単に死なないなどと思っていた。


 なまじ自分がそんな魔法を使うことが、その驕りを増長させていた。

 

 なので今、初めて爆発の真の恐ろしさを目の当たりにしたのだ。口をパクパクすることしかできなかったが、ふと、あることに気づいた。


「ふ、フロー……ね、姐さん!!」


 そう、自分を爆発から庇ったフローはどうなったのか、確かめる必要があることに気づいた。


 辺りをキョロキョロしても、フローはいない。もしかして、爆発に巻き込まれて死んだのかとも思った。


 辺りを見渡し、その姿が無いことからいよいよそうなのだと思いはじめた時だ。


 キィィィィン    キン キィィン

 

 死線交わし火花散らす金属の摩擦音が耳に飛び込んでくる。残像が見えるほど速く振り返ると、そこには先ほど爆弾になった男と戦っているフローがいた。


「フロー!!」


 思わず叫んでしまい、更に駆け寄ろうと一歩足を踏み出した時だ。


「動くな!!」

  

 フローの声で足を止めた。今まで聞いたことが無い、張り詰めた重圧感がのしかかった声であった。


 反抗の声をあげようとしたが、気づいた。


 自分が入る余地がない戦闘だということ。

 そして、フローが明らかに劣勢だということに。


 

 

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