第24話 やりすぎる奴はこういう時に便利



「まずは、ティーンチンだ」


 ティーンチン、オヴォーの口から聞き覚えがある名前が耳に入り、ホッとした。


「こいつは根っからの変態クソ野郎だ。チェリジュンのリーダーのジマユに心酔し、愛とか言いながら、自分の部下の身体を壊すまでなぶり殺す。その際に愛とかなんとかほざきながら泣きながら痛めつける。何度か目の当たりにさせられたがありゃひどいもんだよ。それにしてもどうしてああいう奴らってのは鞭をよく使うんだろうねぇ。ティーンチンの武器はめちゃくちゃ鋭い刃がついている鋼の鞭だ。一見何もついてないように見えるが、細かく棘がついてやがる」


 なるほど、とりあえず俺が知っているティーンチンの情報と合っていて良かった。


 あと、オヴォーが俺を嫌う理由もなんとなく分かった。


 一つは、オヴォーの話から、コイツ自身がティーンチンの鞭打ちを受けたことがあるのが読み取れる。


 なぜならティーンチンは、基本部下の関わることが無い。生まれる前からそうだったのか? と聞きたくなるほどジマユが大好きで溺愛している。


 故に自分とジマユそれだけが組織にいれば良いと思い、ゲームでも何度かそれを言って憤っている場面がある。


 その際に、自分の独房に失態した部下を連れてきて鞭を打って壊しているのが多々見られる。


 その時に、たしかに愛とかほざいているが、あれは部下ではなくジマユに対して言っているのだ。どうして俺の思い通りに動いてくれない。なんで俺だけの愛を受け止めてくれない。それさえあればあの方はそれで十分なはずなのに、とすごくキモいこと言いながら泣いて鞭打ちするのだ。


 そんな人の心ねえ奴が、わざわざ部下を呼び出して、他の部下を目の前で鞭打ちするなんて面倒なことするわけがねえんだ。


 じゃあなんでオヴォーはこんなに詳しく、ティーンチンのことが分かるか。それは、コイツ自身がティーンチンの鞭打ちに遭ったからだ。


 だからこんなに詳しくティーンチンの言っていることとか、ティーンチンの行動とかが分かるんだ。


 それならオヴォーが俺のことをよく思わない理由が理解できる。


 上の立場にいる者は下の者を、どれだけ痛めつけても何しても良いと思っているんだと、勘違いしている。


 まあ上の立場がそういうことを思うのは俺も同感だ。だが、そんな単純なもんじゃない。この男社会は基本的には縦社会。


 上司と部下、ボスと下っ端、先輩と後輩。

 部長に課長に係長、そういうあらゆる上下関係があって、それに逆らうことは死を意味する。


 漫画やドラマやアニメや本や舞台やらドキュメンタリー番組やらで、それを越えた逆転劇や成り上がり、サクセスストーリーなんてものはある。


 そして、それは大抵、少年誌で描かれる。

 

 なぜなら少年は憧れるけど、大人はあんまり憧れにくい。


 別な言い方をするなら、現実を見過ぎでそういうものが絵空事で空々しく感じてしまうのだ。


 子どもの頃はそういう主人公や登場人物に憧れていたけど、今はもう出来過ぎだとしか考えなくなってしまった。


 しかし、稀に映画とかでそういう友情で感動することはある。

  

 でも、俺よりも歳下の若い男性には、少し鼻で笑うものになってしまった。


 中には、女の妄想なんて言う奴もいた。


 もう、彼らの中で友情という言葉は、全て幻想で都合の良く嘘くさい言葉だと言っている。推しになるためのシチュエーションとか言って、嗤っている男たちは何度か見た。


 俺が今いるこの世界なんて、もっと鼻で笑うかもしれない。それか、賛美しながら平気で自分の同期や友だち、後輩や自分を慕う者を簡単に切り捨てる世界なのかもしれない。


 もしそうなら、下手するとオヴォーは最悪の場合、疑心暗鬼が強すぎるあまりの独裁者になるコースに進む可能性がある。


 なんとかしなければならない。


「悪趣味な野郎だ」


 そう言ったのは、ダンであった。


 流石は主人公だからか、オヴォーの言葉で深く怒っているようだ。目は少し血走り、歯をギリギリ言わせている。


「許せねえ、自分の部下にそんなことをする野郎なんて……」


 少し予想外の反応だったのか、オヴォーは目を丸くしてキョトンとした後、にっこりと微笑んだ。


「そうですか、ありがとうございます。みんな、貴方のような純粋な方であれば、良いんですけどね」


 それは間違いなく本音だった。得体の知れない薄ら笑い男の顔の奥に隠された本音であることは間違いなかった。


「……おめぇ、それ嫌味か?」


「いえいえ違いますよ!?」


 しかし、出会った時から怪しげな態度ばかりとっていたからか、ダンからその笑顔は信用されなかった。


 まあここで、俺が何か言うのもありだが、それを言うと、なんか拗れそうな気がするので、言うのをやめた。


「さて、次はシットィター。まあ俺の持っている情報ではコイツがある意味で厄介かもしれない」


 ん? 少し違和感を覚えた。シットィターなんてキャラを俺は全く知らない。いきなり現れたキャラだ。名前さえ聞いたことが無い。何者だ?


「まあなんだ、コイツもさっきのティーンチンと、ほぼ同じ役職、副団長なんだ」


 副団長が二人? 

 その設定……そうだ、思い出した。


 確かゲームをプレイする中でこんなセリフがあった。


〈『チェリジュン』はついこの間まで副団長は二人だったが、一人がバカしたせいで処刑になった。それで今はあいつだ〉


 そう、その時の副団長はティーンチンだったが、もう一人いたのを少しだけ気に留めていた。まあ、ネットでも回収されていない伏線の一覧の中に載ってあったし。


 だからこれを聞いて腑に落ちた。


 しかし、それでもそのシットィターがどういう容姿、とういう性格、どういう戦い方をするのか、などということは分からないのには変わりない。ここは、耳をさっき以上に傾けよう。


「シットィターは、もう全身が武器人間だ。どんな武器にでも返信できる。ただし、複数の武器に変身することはできない」


 ふ〜ん、思ったより大したことない。


 そう思ったのは俺だけじゃないようだ。


 オヴォー以外の全員がつまんなさそうに頬杖かいている。しかし、次の話で一気に変わる。


「シットィターのやばいところは、味方とか関係ないってことなんだ」


 あ〜……そりゃ厄介だわ。

 

 全身。強力な爆弾に変えて、皆巻き込んで大爆発なんて起こしたら、普通に一網打尽だ。あと、それなら処刑されるほどの失態を犯したというのも分かる気がする。

 

「しかも、あいつは不死身だ」


 ん? 不死身? それは確かなのか?


 だって俺がやってたゲーム本編にもサブにもダウンロードコンテンツにも出てきてないようなキャラだぞ? 不死身なら絶対出てきても良いのに。


「シットィターは、自らが武器となり爆発しても、首切られても一刀両断されても、身体の組織が半分吹き飛んで心臓失っても生きてやがる。まさに不死身だ」


 ますます信じられない、ほぼチートだろそれ。何しても死なないってことじゃないか。


 なんでそんな奴がゲーム本編前に死んでるんだ? だが、バカやって処刑された、というのなら逆転みたいなのはあるということなのだろう。


 どちらにしても、無敵ではないということは明らかだ。


 もちろん、俺以外のコイツらは全く知らないが。


「マジか、なら絶対にそいつが動いたらやばいってことか」


 ダンの言う通りだ。


 そして同時にそのことは、ここにはあまり長くいられないことも、明らかになった。


「なるほど、いよいよ厄介が極まってきたな」


 その時、ミックがどこか意味深にそんなことを呟いた。


「おや? それはどのような意味で?」


 オヴォーの聞く声がムカついたのか、ミックはオヴォーをギロリと睨んだが、それも一瞬だけ。すぐにため息をつき、説明し始めた。


「そのシットィターって奴は、そのティーンチンと同じように頭に心酔しているのか?」


「はい、そうです」


「なるほど、やはり厄介だ」


 それはどういう意味なのだろうか。


「そいつが頭を始末したら、単身で自爆しながらこちらを襲い続けるかもしれない。ああいう他人好きなフリして自分大好き人間は、その類の人間が多い」


 言われてたしかに、と納得した。


 主を失ったサイコな忠臣は、主を生き返らせるとか、主自身に私がなる、とか言って再興を目指すやつが多い。


 しかし、あまりにもその忠臣の性質がサイコ極まり、主人の好感度が限界を越していると、再興とかよりも、復讐を強く望む。

 

 そのシットィターの場合、俺たちに向かって何度も何度も自爆攻撃を仕掛けてくる、とミックは考えているのだろう。


 しかもその時の時間とか、場所とか、行動とか関係なく、シットィターの都合で自縛攻撃を仕掛けてくる可能性もある。


 厄介なことこの上無かった。


 だが、ここに長くいられないのは間違いない。早く出て行かないとこの村が襲われてしまう。


「よし、ならさっさとこの村をでなきゃな」


 え??


 オヴォーじゃないメンバーは、みんな不思議そうな顔をしている。どうしてそうなる? と思っていそうな顔だった。


 俺は、シットィターが単身で突っ込む可能性があるから、ここを抜け出さないとこの村が、戦禍に丸ごと巻き込まれる可能性があるから、出発しようとしている。


 だけどそれは言いたくない。時間がもったいないのもあるけど、村人を混乱させる危険性があるからだ。なんとか俺が考えていることを言葉にせずに伝わって欲しいのだが。


「なるほどー、わかりましたー。では俺の方はこっちでなんとかしておきますー」


 よし、やはりオヴォーは理解力が高い。


「分かりました。ゴン、俺たち二人でやるぞ」


 よし、多分ミックの方も理解できた。 


 ゴンは分かってなさそうだが、ミックが指示をするなら大丈夫だ。


「なんか分かんねえけど、取り敢えず言うこと聞いた方が良いんだろ」


 ダンの言葉に、ボヤンが何回も頷いている。取り敢えず大丈夫そうだ。


「よし、アタシも手伝う」


 取り敢えず、今すぐにこの村を出て行くことが大切だ。だから……


 ……ゥゥゥゥゥゥウウウキュウウウウウ


 なんだ? 空から何か音が……。


 この時、俺はまだ知らなかった。


 五大組織というのがどういう団体なのかということを。そして、どれだけ頭がおかしい奴らばかりなのかも知らなかった。


「お前ら急げ!! 来た!! シットィターの奴が空から来た!!」


 さっきまでの気味が悪い落ち着き具合が無くなって、声の主がオヴォーだと分からなかった。






 その頃、空からは


「ああああ〜〜〜、邪魔だ〜〜、緑が邪魔だー〜〜……も、もうだめ。ジマユ様には言われたけど、が、我慢できない……ここら辺一帯焼け野原にしよ」


 災禍の主が空から降りてくる最中であった。


「うあぁぁ……見えてきた見えてきた……あと少しで爆発……しよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る