第23話 男のメンヘラって本当に需要ないんよ




 数時間前、チェリジュンアジトにて


「それで? 君はどう殺すつもりなんだい?」


 チェリジュンのリーダー、ジマユはシットィターに聞く。


 シットィターは何故か上半身全裸で床に寝転んでいる。時折、媚びるような声を出している。

 

 その上からジマユは金魚の餌のような物を、上から垂らしており、シットィターはそれを食べようと舌を一生懸命に伸ばして、大口を開けている。


(キッショ でもこいつ面白えぇ、なんの思い入れないし、いつでも壊せるからホント遊びに最適な存在だ)


「世界の全員が、お前みたいな奴だったら良いのにな、そう思わないか? ん? え〜……やべ、コイツ名前……シットだっけ?」


「あ、あ、ああ、ありがたきお言葉!!」


 そのままシットィターは、白目を剥き感謝する。


(きめえ……)


 その時だ。


「ジマユ様!!」


 バダン!!


 大きな音を立て、突然、ほぼ全裸の男が入ってきた。

 

 身体中の筋肉がみなぎっており、そのせいで、なぜか全裸なのに少しもアウトな雰囲気を感じさせないものがあった。


 そして申し訳程度のように頭の部分だけ、タイツのように、何かピンク色の糸みたいな物をぐるぐる巻きして、髪を隠している。


 その男は、ジマユとシットィターの二人の姿を見てを見て、みるみる内に青ざめ、拳を握り、顔どころか腕や脚、全身から青筋を立て始めた。

 

「シットィタああぁぁぁ!! きさまぁぁ!!! そこで何をしているぅぅ!!」


 すると、肝心のシットィターは冷たい顔をし、冷めた鼻嗤いの鼻息を一つ。その自慢げな様子にますます腹を立て、眼球の部分が見えなくなるほど青筋を立てる。


「何って、普通にジマユ様と遊んでいるだけですよ?」


(え? 遊んでたのこれ? 俺が気まぐれにお前に金魚の餌でもやってただけなんだけど。なんならお前は金魚のフンみてえな奴だなって言いたかっただけだけど)


 ジマユは、心の中でほくそ笑む。


 しかし、入ってきた男はその言葉を信じる。


「なんだとぉぉ……き、さまぁあ……!!」


 とうとう怒りが抑えきれないのか、神が逆立ち始め、そのピンク色の毛糸を、自然と解き、正に怒髪天を衝く形となっていた。


「その場所に……我が物顔で座るなあ!!」


「何ジマユ様をお前の物みたいな言い方してやがるううぅああ!!!」


 パン パン


「そこまでお前らやめろここ俺の部屋」


 少し二人の戦いが見たいとも思ったが、自分の部屋で暴れられたらとんでもないと思い、ジマユは止めた。


「「申し訳ありませんジマユ様」」

 

(こいつら、本当に似てるな。同じくらいキモい。そろそろどっちかいらないかな)


「ああ、分かればいいよ。じゃあ、これからどうするか決めようか」


 そんなことを言いながら、ジマユは二人のうち、どちらを切り捨てようか考えている。


 なんとも残酷な男だ。


「ジマユ様!! 是非、ゼヒ私を行かせてください!!」


「そう慌てないでよ、ティーンチン」

 

 ジマユは、筋肉を蓄えた男にそう言うと、ティーンチンは跪いた。


「仰せのままにい!!!」


 ジマユは、冷たい微笑を浮かべる。


「ジマユ様!! お! お! 俺に是非!」


(何で俺の部下ってこんなに気持ち悪い奴しかいないんだ?)


 思わず、心の中で頭を抱えてしまう。


「じゃあ……」









 次の朝


 というか昨日は結局、すごく遅いから、作戦どころじゃなかった。この村の宿泊スペースで、テント立てて泊まった。


 俺は女だ。だから一人別なテントで寝たけど、アイツらは全員男だから、多分寝苦しかったんじゃないか?

 

 てか、なんか大喧嘩勃発とかしてなければ良いと思っていたが、その心配は無かった。


 今日、一番最後に起きたのが俺だった。


 あいつら全員早起きで、むしろ俺が起きてきた時、え? オカシラ今起きたの? みたいな反応していた。なんかその顔がどこか腹立った。


 歯磨きして、昨日、村人からもらったいくつかの食べ物をバクバク食って、体力回復。

 

 そろそろ作戦、というより段取りというか情報の整理とかしなきゃいけねえよな。


 俺はある程度の情報は知っている。

 なんせ、前世でやったことあるゲームの世界だからな。


 だけど、俺が知らないキャラがいるかもしれないし、何より俺がその『チェリジュン』の敵の情報に詳しいと、怪しむ奴が出てきてもおかしくない。


 特にオヴォーとか正に疑ってきそうだ。

 

 あのニヤけた面が気に入らないというより怖いに値する。


「んじゃ、そろそろ情報整理するか」


「はーい、オカシラー」


 ため息がこぼれかけた。だがあっちは俺の顔を見て感情を悟ったようだ。


「あははー、そんなに嫌そうな顔しないでくださいよー」


 軽薄そうなその笑顔がまた腹が立つ。

 でもこいつ、その形で意外と煽りとかに弱いんだよなぁ。案外、精神攻撃とかめちゃ効きそう。


「なんだよ」


「いえ、私どもと元々オカシラの部下とガキ二人なんですが、こういう時、全員がオカシラの元に集まるのは、非効率じゃないでしょうか」


 まあ一理ある。確かにこいつら全員が俺の元に集まって段取り立ててとか、絶対面倒くさいし、聞いていない可能性だってある。


 だから多分こう言いたいのだろう。


「それぞれ、人数を絞って作戦立てたほうが良いってことか?」


「うーーーん、言い得て妙ですね」


 なんか腹立つその言い方と無駄に良い声が合いすぎて。


「じゃあどうしろって言うんだ」


 すると、オヴォーは目を月にして、ニンマリ笑った。


「それぞれ、隊を作るのはどうでしょう」


「隊?」


「はい、それぞれ一番隊、二番隊、あるいはリーダーの苗字とか何かを使って作るというのはどうでしょうか?」


 今どきそんなのはやるわけねえ!


 と顔がムカつくから言いそうになったが、これも理にかなった提案だ。


 一人か二人の者が、俺の話を聞いてそれをみんなに伝聞する。たしかに、これなら情報伝達が十分だ。

 

 ただ問題はそれをするには、互いの信頼関係がまだ成り立っていないことだ。まあ、出会ったばっかりだしな。


 それに……。


「あれー? オカシラー? どうしたんですかー? もしかして俺のこと目の上のたんこぶとか見当違いなこと思ってますー?」

 

 こいつは本当に厄介だ。今だって相手の神経を逆撫ですることを平気で言う。


 作戦会議なんてことになったら、こいつがどんなこと言って事態をぶち壊しするか分からない。


 だからコイツの言うことを聞いておいた方が良い。


「わかった。とりあえずオヴォーと、ミックとゴン、そしてダンとボヤンで作戦を立てる。それなら大丈夫だと思う」


「オカシラー」


「……なんだ」


「ダンとボヤンってあのガキ二人のことですよねー。それだと士気に関わるんじゃないですかー? オカシラ側もそうですし、新参者の私共も少々困惑してしまう恐れがありますが」

 

 ああ、確かにそうだ。だけど、それの対策はすぐに思いついた。まあ、これから言う理由でコイツが驚いてくれればの話だけど。


「ああ、とりあえずアタシ側は大丈夫だ。なぜなら、もう知っているからさ、あの二人がアタシとミックとゴンの三人相手に結構良い勝負をしたってことを」


「……ほお、あのおガキ様がそれほどの実力があるとは」


 よし、微かだが驚いてくれた。これでコイツがどう言ってきても言いくるめられる。


「ですが私どもの方でそれが納得できるでしょうか?」


「できると思うぞ。なんせあの変態スーツを倒したアタシと互角の戦いをしたんだからな。しかも、その時のこっちは三人だ」


「……」


 流石にこれには納得したようだ。


 そう、あの変態スーツを俺が倒した時点で、コイツやコイツの周りの奴らも俺認めざるおえない。


 なぜなら、俺はただ倒しただけじゃない。


 言いはしないが、コイツらを庇いながら戦って勝ったのだから。

 

「……なるほど、ではそのようにてはずを組みましょう」

 

 よし、とりあえずは難を逃れたか? 

 それにしても、どうしてアイツはああいう口調で声かけて来るんだか。

 

 まあ、多分俺をわざとキレさせて冷静さを無くした所で、自分がしかけに動き勝つ。


 そうすることで俺の器の小ささ、そして実力不足をしめし、威厳を損なわせる目的なのだろう。

 

 だが相手が悪いなオヴォー。お前が挑発した相手は、前世で十年近く嘲笑や徴発に耐えて、怒りの感情を抑えることが大の得意な人間だ。悪いが効かない。


 なんてこと思っているとカウンター喰らう可能性があるんだよなぁ。

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