将軍と軍師

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将軍と軍師

国の歴史に名を刻む2人の偉大なる軍人がいる。

国一番の戦士と謳われる大将軍ザビド。そしてその盟友、軍務卿軍師レノだ。

2人が揃った戦場は常勝。どんな厳しい戦況でもそれを打破し、勝利を納めてきた。

2人は共に貧しい村で育ち、幼い頃から切磋琢磨し、一兵卒から一代で将軍、軍務卿の地位まで登り詰めた。

2人がその地位に着く頃にちょうど乱世は終わり、平和の時代が始まった。


ザビドは幼い頃に両親を戦で亡くし、兄弟はいなかった。レノも父親を戦で亡くしていた。レノは妹のイリカと母の3人で暮らしていた。両親を亡くしたザビドを不憫に思ったレノの母親は、ザビドを引き取ることにした。ザビド、レノ、イリカの3人は共に暮らし、育った。それからしばらくして、レノの母親は流行り病で亡くなった。


その国は乱世でも覇者として君臨する大国だった。

母親を亡くし、ザビドとレノは共に軍人になる道を選んだ。戦のない平和な暮らしをするためだった。戦を無くすには国が絶対的な覇者になるしかないと思い、2人は軍人を目指した。それは2人にとって茨の道であることはわかっていた。けれど互いに互いが進むならと、軍人になることを選べたのだ。軍に入る試験をトップで通過した2人はそれぞれの土俵で着実に成果を上げていく。敵陣に勇猛果敢に攻め入り手柄を上げるザビド。状況を瞬時に見極め最適な軍略を提示するレノ。2人の名前は瞬く間に広まった。

貴族の出身でもなく、また貴族の後ろ盾もない2人が手柄を上げることをよく思わない者も少なくなかった。けれど2人はそれらの逆境を跳ね除け、行く先々で手柄を上げ続けた。ザビドが大将首を討ち取ったと聞けば、レノは新しい戦術を編み出し戦場での常識を変えた。圧倒的な力と実績で陰口を言う者を黙らせていった。

戦で手柄を上げ続けると、2人には次第に後ろ盾になりたいと申し出る者も現れてくる。もちろん後ろ盾になりたいと言ってくる者にも様々な人種がいる。実力がなく家名だけで生き残ってきた貴族や2人の手柄をどうにか横取りできないか考える者などだ。そんな後ろ盾になりたいと言った者の1人が後の国王である。2人の後ろ盾に立候補した時は、王位継承権が低く、王宮での扱いが悪い皇子の1人であった。彼はいち早く2人に目を付け、後ろ盾になることを約束する代わりに自分の腹心になるように伝えた。2人も皇子の人柄に好感を持ち誘いを快く引き受けたという。2人のこの選択は正しかった。結局、腹心になった皇子は王位争いを勝ち残り王になったのだから。

その後しばらくして、2人は共に戦功を上げた褒美として貴族の地位を得た。2人にくる縁談の話が急増して舞い込むようになったのはちょうどその頃だった。他の貴族との繋がりが薄く実力のある2人を好む貴族が増え出したのである。

2人とも縁談話は面倒だと言い、皇子にどうにかならないか相談した。皇子は「それは結婚するしかないだろうな」と言った。

レノは改まってザビドを呼び出すと、彼に対して妹のイリカと結婚してくれないか?と頼んだ。ザビドは「その手があったか」と大笑いし、レノの申し出に対して二つ返事で承諾した。ザビドもイリカのことが好きであったし、イリカもザビドのことを愛していた。ザビドとイリカは結婚した。ザビドとレノは義兄弟となった。


レノは皇子に対していくつかの嘆願をした後、縁談話はなくなった。しばらくしてザビドとイリカの間には2人の男児が産まれた。2人目の男児が生まれた頃に皇子は王に即位した。

レノは独身を貫き、軍務卿としての地位を盤石のものとした。レノは休日になるとザビドとイリカの家をよく訪れた。レノは甥である嫡男ガライにとても懐かれ、自身の持つ軍略や知識を余すことなく教えることにした。ガライはレノに似て聡明で瞬く間に知識を身につけていった。

ガライが10歳になる頃、レノの身体は病によって立つ事すら困難になっていた。

レノの身体は縁談話が来る頃にはもうすでに病にかかっており、そこまで自分の命が長く続かないと考えていた。そして自身の築いてきた地位や財産がザビドとイリカ以外に渡るのを良く思わなかった事からレノは縁談を断り続けていたのだ。そしてザビドとイリカのことが心配で、できる限り長生きできるように努力をしていた。


レノの病は酷くなる一方で、ザビドはレノを心配し、自身の館にレノを迎え入れていた。レノには妻も実子も跡取りもいなかったので、元々住んでいた家には書物の類しかなく、それら一式もザビトの館へと運び込まれていた。

その頃からガライはレノの弟子を名乗った。ザビドも王もそれを認めていた。レノはガライに対して、嫡男なのだからザビドの跡取りとして武芸の稽古を増やすように言ったが、ガライはそれをきかなかった。ガライは「弟のレジンの方が自分よりも武芸の才能があります。私は伯父上に似て知略を巡らせる方が合っております」そう言った。実際、弟のレジンの方が武芸に秀でていたという訳ではないが、レジンは兄を尊敬しており、その意思を尊重したいと考えていた。父であるザビドも、ガライがレノの後を継ぐことを望んだ。ガライが14歳になった年、レノは起き上がる事すらできなくなっていた。レノが築いた人脈、磨き上げてきた軍略、知略、そのほとんど全てを甥であるガライに授けることができていた。

その年の冬の頃。雪が降る日のことだ。レノの最期は彼が予想していたよりも幸福だった。ザビドとイリカの館の一室で、愛すべき盟友と妹、そして可愛い2人の甥や慕ってくれた部下達に看取られ死んだ。

レノの遺言通りに彼の莫大な財産は一部を部下達に、残りはザビドとイリカに渡った。軍師レノが生涯独身を貫いたことは多くの者にとって謎である。その秘密を知る者は国王ただ1人である。


王が皇子だった頃、レノは皇子と2人で話をした。皇子はレノに対して、「自分の子供に家督を継がせたい気持ちはないのか?」と投げかけたことがある。レノにとって、ザビドとイリカの2人こそ世界で最も愛した者達だった。レノは自分が心から愛せるのはザビドと妹のイリカの2人であり、そのどちらとも自分は結ばれることがないのだから、せめて2人やその子供に自分の全てを継がせてたいと皇子に答えたのだった。「愛せぬ者に子供を産ませたくはない」とレノは言った。皇子はレノに対して、「お前はとても優秀だが、王になることはできないな」と笑った。レノはそれに対して「私の主君は生涯貴方様お一人でございます」と返したのだった。愛している2人の子供であるガライとその弟レジンも、レノにとって掛け替えのない愛すべき家族であった。


軍師レノが亡くなって数年したのち、ザビドも将軍職を退き、軍務卿には嫡男のガライが、将軍には次男レジンが付くのであった。

2人が国の次世代を担っていくのはまた別のお話。

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