後編

 読んでる時は過去一面白い小説だって思えてたはずなのに、感想を書こうにも筆が全然乗らない。

 これは感想文を書くのが苦手だからか、それもとクチナシ君のことが気になって仕方がないせいか、どっちだろう?


 だけど机につきながら原稿用紙と睨めっこしていると、不意にスマホがピコーンと鳴って、見ればトモちゃんからメッセージが届いてた。

 なんだろうって思って見てみると。


【すぐに中庭に来て!】


 トモちゃんってばどうしたんだろう?

 よーし。まだ感想文は書き終わっていないけど、どうせはかどってないし、行っちゃえ!


 と言うわけで中庭に行ってみたけど、そこにいたのはトモちゃんと主代君。そしてもう一人……。


「え、クチナシ君⁉」


 そこにいた最後の一人はクチナシ君。これって、どういう組み合わせ?

 するとトモちゃんが、怒ったような声で言ってくる。


「陽子、クチナシ君が冷たくしてた原因が分かった。犯人はコイツだ!」


 ビシッと指さした先にいたのは、バツの悪そうな顔をしている主代君。

 ええっ、いったいどういう事⁉


「主代のやつ、クチナシ君にアンタと喋るなって言ってたんだよ」

「はぁ、なんで⁉ クチナシ君、主代君、どういう事⁉」


 すると主代君は顔をそむけて、クチナシ君は小さく口を開く。


「主代君に言われたんです。僕が付きまとっているせいで、可愛さんが迷惑してるって。本当は本なんて好きじゃなく、僕にも興味がないのに、本を借りた手前話を合わせるしかなくて、とっても迷惑がってたって」

「何それ⁉ 主代君、どういうこと⁉」

「だ、だってそうだろ。お前、小説なんて読んでもすぐ眠くなるって言ってたし、本当は読みたくないんだろ。なのに最近、いっつもそいつと本の話ばっかりしてるし、気使って合わせてるだけなんだろ」

「アタシがいつそんな事言ったの⁉」


 そりゃあ確かに小説読んだら眠くなっちゃってたけど、今は違うよ。

 それに気を使ってクチナシ君と話をしてたわけじゃない。アタシがそうしたいから、やってただけなのに。

 なのに、主代君はさらに続ける。


「だいたい、コイツと喋ったって面白くないだろ。つーかコイツ喋れんの? 授業で当てられた時以外、喋ってるの見たことねーんだけ。いつも本ばっかり読んでる、陰キャじゃねーか。陽子だって、本当はそう思ってるんだろ?」

「思ってない!」


 ……まあ本当言うと、前は少しだけ思ってたよ。その辺はクチナシ君ゴメン。

 だけど話すようになってからは、そんな印象なんてどっか行っちゃってた。

 口数は少ないけどこっちが聞いたことにはちゃんと答えてくれるし、ちゃんと話に乗ってくれるもの。

 小説以外に漫画も好きで、この前は映画もよく見るって話もした。アタシと同じで『となりのトトロ』が好きで、あの時は話が盛り上がったよねー。

 喋ってたのは、9割アタシだったけど。


 だからアタシが迷惑してるってことは、天地がひっくり返ってもあり得ない。

 それに逆もないはず。だってクチナシ君、アタシと喋るのは嫌じゃないって、前に行ってくれたもん。

 なのに主代君……お~ま~え!

 アンタのせいで、アタシは今日一日中悩んでたのかー!


 許せないー! スカートじゃなかったら、必殺のギャルキックをお見舞いしてやったのにー!


 だけど怒っていると、クチナシ君そっと近づいてきた。


「ごめんなさい。僕の態度のせいで、不快な思いをさせてしまって」

「いや、クチナシ君のせいじゃないから。あんなこと言われたんじゃ、仕方がないよ」

「いいえ。本当は、変だって思っていたんです。可愛さんは、そんなことを言う人じゃないって、喋っていてわかってましたから」

「クチナシくん……」

「可愛さん……失礼なことをしてしまったのに、図々しいって分かってはいますけど、僕と友達になってくれませんか? 可愛さんと話すのは楽しいですし、好きですから」


 熱のある目で見つめられて、胸の奥がドキドキする。

 う、うわぁ~。だから、顔面力高すぎなんだって。そんなに見つめられたら、アタシの心臓がドッカーンってしちゃうのに。

 するとアタシが返事をするよりも先に、主代君が叫ぶ。


「告白かよ! いや、付き合ってくれって言ってんじゃなくて友達になれだから、告白じゃないのか? やっぱコイツ、分けわかんねー。陽子、やめとけって」


 主代君はそう言ったけど、アタシは頬を膨らませて彼を見る。


「分からなくて当たり前じゃない! 主代君、少しでもクチナシ君の事を、知ろうとしたの? 知ろうともしてないのに、分かるわけないじゃん!」


 アタシはクチナシ君に勧められて小説を読んで、小説ってこんなに面白いんだってわかったけど、人間だって同じ。

 小説を読んで初めて面白さが分かったように、話して付き合ってみないと、その人がどんな人で、何を考えているかなんてわかんないものね。


 私はもっと、クチナシ君の事知りたいよ。だから……。


「クチナシ君、お友達になるって話だけど……お断りさせていただきます!」

「えっ……」


 クチナシ君の口から、悲しげな声が漏れる。

 主代君は「おっしゃ!」ってガッツポーズを取って、トモちゃんは「ちょっと陽子⁉」って慌ててるけど、アタシはさらに続ける。


「クチナシ君……アタシを、彼女にしてください!」

「え……ええっ⁉」

「はあっ⁉」

「おお。やるじゃん陽子♪」


 三者三様のリアクションが飛ぶ。


 ト・モ・ダ・チ・じ・ゃ・ヤ・ダ!

 クチナシ君と話すようになってから、まだ数日しかたってないけど、好きになっちゃったんだもの。友達じゃあ満足できないよ。


 クチナシ君は普段の無表情を崩して戸惑ったような表情を見せたけど、やがて一言。


「……不束者ですが、よろしくお願いします」


 おっしゃああああああっ!


 思わず心の中でガッツポーズを取る。

 実は断られたらどうしようって、メッチャドキドキしてたんだよ。けどクチナシ君が応えてくれて、本当に嬉しい!

 うふふ~、何気に初彼氏なんだよね~。アタシは遊んでるって誤解される事が多いけど、付き合うのなんて初めてなの~。

 と言うかクチナシ君、不束者ですがよろしくお願いしますって、ふつう逆じゃ~ん。


「そんな、陽子……なんでクチナシなんかと」

「諦めろ主代。クチナシ君を遠ざけるなんてズルい手を使った時点で、あんたに可能性はなかった」


 主代君とトモちゃんが何か言ってるけど、まあいいや。それよりクチナシ君だよ。

 するとクチナシ君が、思い出したように言ってくる。


「そういえば可愛さん。読書感想文の宿題はどうなりました?」

「はっ! まだ途中だった! どうしよう、このままじゃ今日中に終わらないよ」

「だったら、僕も手伝います」

「え、いいの?」

「もちろんです。僕はその……可愛さんの、彼氏ですから」


 クチナシ君は照れ顔を作って、またもアタシの心臓がズキューンってなっちゃう。

 ぶはっ! ク、クチナシってば、心臓に悪すぎ。アタシってば、すごい人を彼氏にしちゃったのかも?

 まあいいや。だって好きなんだもん♡


「行こう、クチナシ君」


 トモちゃんに「じゃあね」と言って、クチナシ君の手を引いて、教室へと向かう。

 いきなり手を引くのかって? いいじゃんだって彼女だもーん。


 無口で無表情な彼だけど、ちゃんと笑ったり照れたりもする。

 まだ知らない事ばかりだけど、これからクチナシくんの秘密を、もっとたくさん知っていきたいなー。


 だけどまずは二人で、読書感想文を完成させよー!



 おしまい♡

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陰キャな彼とギャルなアタシの読書感想文 無月弟(無月蒼) @mutukitukuyomi

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