第2話 side リーナ
ポール村が壊滅した同時刻。付近のハイルの森にて
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「今回も全員大きな怪我なく、依頼達成か。最近俺らかなり強くなってきたんじゃないか?」
先程、鉱山に巣食う岩竜の討伐依頼を達成し、その帰り道。
燃えるような赤髪、無精髭が特徴のバレルが冗談めかして言う。
「まぁ、最近バレルが1級になってとんでもないやつらと戦って来たからね〜。でも油断して大怪我しないでよ、バレル?」
それにおどけて答えたのは、水色の長髪におっとりした印象を受ける顔立ちのミーシャだ。
「...」
バレルの横を歩く、灰色の短髪の巨漢はグリム。グリムは基本無口で戦闘中などは喋るが、日常では滅多に口を開かない。
しかし長年の付き合いでわかる。あの顔は肯定を示すときの表情だ。
バレル、ミーシャ、グリム、そして私───リーナの4人で『夜明けの
。
「ミーシャの言う通りですよ。慢心はいけません。それに、傷を治すのは私なんですから仕事増やさないでくださいね」
私もミーシャにならって軽く笑いながら答える。バレルは成功すると調子に乗りやすいため、それを諌めるのはミーシャとリーナの日課となっているのだ。
「わかってるって、ミーシャとリーナは真面目だなぁ」
「バレルがお調子者すぎるんです」
「ねぇ·····あ、あれ」
そんな他愛もない会話を続けていると、突然ミーシャが震えた声を出しながら人差し指をある方向へ向ける。
つられて他の3人が、ミーシャの指す方向へ目を向けると、そこには角を生やした兎の魔物が草を食んでいる途中だった。
夜の闇で暗いが魔法の『暗視』を使用しているため、はっきりとわかる。
ホーンラビットだ。しかし違う点がひとつ。
通常のホーンラビットは天へと真っ直ぐと伸びる角を持つのに対し、あのホーンラビットの角は
「間違いない、『うずまき』だ」
バレルが唖然とした表情で呟く。私も思わず目を見開いていた。
『うずまき』と呼ばれるホーンラビットは、生まれる原因が突然変異なのか環境適応なのかどうかはまだ解明できていないが、強さという点で見れば普通のホーンラビットとなんら遜色はない。
突出するのはその角の希少価値で、王国内の市場に出回るのは精々年に4、5体ほど。
それほどに珍しいもので、もちろん私もこの目で見たのは初めてだ。
そのため、『うずまき』の角にはご
「魔法はなしだ。捕まえるぞ」
いち早く驚愕から脱したバレルが全員に小声で指示を出す。
ホーンラビットは魔物界でも最弱の部類に属する。それ故か、魔力感知能力が群を抜いて高く、森のような静かな場所では魔法を使用する際の魔力の揺らぎを凄まじい早さで察知する。
魔法を使おうものなら、すぐに逃げ去ってしまうことだろう。
『うずまき』を捕らえるため、全員が各々行動を開始する。
その時だ。
「「ガァァァアアアァァァァ!!!!!!」」
これほどの咆哮だ。もちろん『うずまき』は危機に素早く気づき、逃走を始めている。
ホリゾンサーベルだ。ランクにおける第3級に位置する魔物である。
冒険者協会では魔物と冒険者に第1級から第6級までのランクを設けており、例外として特級が存在するが今は割愛する。
冒険者のランクは、強さ、依頼遂行能力、人格の3つの項目を基準に区別されている。要するに冒険者としての信頼度だ。
対する魔物のランクは純粋な強さのみを指標とする。
第3級という値はその中でもかなり強い部類にはいる。しかし私たちの敵ではないだろう。
4人でアイコンタクトを行い、ミーシャとグリムがホリゾンサーベルの対処をしている間に、私とバレルが『うずまき』を追うことを決定。
こういったイレギュラーは頻繁に起こる。軽い作戦、分担は事前に決めておくというのは、パーティで行動する上で当たり前のことである。
ホリゾンサーベル2体の対処であれば、グリムとミーシャの2人ですら過剰な対処となるが、念の為を考慮した判断だろう。
「こっちだ」
グリムが2体のホリゾンサーベルを挑発しておびき寄せる。
その脇を私とバレルが駆け抜けていく。すでに魔力の身体強化は終えていた。夜の闇の中に紛れられると追跡が面倒なため、視線は外さない。
「全く、これじゃ運が良いのか悪いのか分からないな」
並走するバレルがやれやれ、といった様子で嘆く。
「でも捕まえることが出来たら大儲けですよ」
「それもそうだ。捕まえて町に帰ったら、豪勢な飲み会を開くとしよう」
私の鼓舞に対しバレルがニカッと笑う。
明るい気持ちに呼応するように2人のスピードが上がっていく──────
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その後、『うずまき』に順調に追いつき討伐を終えた私とバレルはその場で待機していた。
ホーンラビットは第6級に分類される。
身体能力という面だけでみても圧倒的な格差があるため、『うずまき』が逃げ切れるという可能性は万に一つもなかった。
「よし、これで当分贅沢できるな!」
ホクホク顔のバレルが嬉しそうに言う。かくいう私ももちろんホクホク顔である。
別れたミーシャとグリムに場所を知らせるため、空に目立ちやすい赤属性の魔法を構築する。
「『炎弾』」
私の手から天に向かって、人間ほどの大きさの炎が射出される。 ホリゾンサーベルと遭遇した場所からここまでたいして離れていないため、数分も経たずして2人は来るだろう。
そうしてバレルと待っていると、周囲の魔素の微かな異変に気づく。
「あの、バレル。ここのあたり少し魔素荒れていませんか?」
「ん、そうか? すまん魔素の把握苦手で全然分かんないな·····」
「そうでしたね·····ごめんなさい」
バレルが魔素の状況把握が苦手なことを思い出し、1人思案に耽ける。
多少荒れることはよくあることだが、この荒れ方の魔素は魔法を使用して魔力同士が衝突しない限り生まれないものだ。先程撃った『炎弾』が原因ではないことが明らか。
この近くには何があったか、と頭の中に周辺の地図を広げる。
「狩れた〜?」
私が思考を巡らせていると、後ろにグリムを伴ったミーシャが鬱蒼とする木々の間から出てくる。無事合流の合図は伝わったようだ。
「あぁ、問題なく仕留めた。そっちも怪我はないか?」
「うん。ばっちり!」
「そういえば、リーナがここらの魔素が荒れてるって言うんだが、ミーシャとグリムは何か感じるか?」
私から話を振ろうと思っていたが、バレルが聞いてくれたようだ。
「うぅ〜ん、なんかちょっと荒れてる気はするけど、詳しくはわかんないかな」
ミーシャはバレルの言葉に僅かの時間瞑目した後、不明であることを告げ、グリムも分からないといった様子で首を横に振る。
「感知に関してはこの中だとリーナが1番ずば抜けてるからな。どうする?」
「確かこの近くにポール村という村があったはずです。少し見に行きましょう。杞憂であることに越したことはないんですが」
もし何かあるとして、可能ならば対処、少なくとも近くの町のベニスタに報告しなければなはない。
魔素の感知に優れる私が先頭を疾駆して、吹き荒れる魔素の中心地を割り出していく。
そうすること約10分。
バレル達も異変に気づいたようだ。魔素の荒れではない。何かが燃えるような焦げるにおい。全員の顔に緊張が走る。まず間違いなく付近で何かが起こっている。
警戒心をマックスまで引き上げ、異変の原因へと対面する。
──────全てが燃え、死に絶えていた。
「な、なにが·····」
誰のつぶやきだっただろうか。
至るところの家が火の手をあげ、人が死に、吐き気を催すほどの血のにおいと煙が充満している。
これでも私は冒険者だ。人の死は幾度となく経験したし、流した涙も数しれない。その度に苦しさを何度も乗り越えて、ここまできたのだ。
それらを嘲笑うかのように、この光景は心に刃を突き立ててくる。
「まだ、生きている人がいるかもしれません」
やっとの力で絞り出した言葉。それにバレルが続く。
「あぁ、まだ全員死んでいると決まった訳じゃない。手分けして探すんだ!」
「わかった」
「そうだな」
ミーシャとグリムが真剣な表情で頷く。
「何かあったら魔法でもなんでもいい。合図を出してくれ」
バレルが万が一の際の対応を再確認する。
まだこの災禍を起こした元凶が付近に潜んでいることを考慮してのことだろう。
区域を分担して別行動にでる。
一軒一軒、炎上する家々をまわり生存者がいないかの確認を行っていく。
悲痛な表情で死ぬ人々の顔を見る度、吐き気と無性なやるせなさが同時に迫る。
「ふぅ·····」
気持ちを切り替えるため、沈鬱をのせた溜息を吐き出す。今は状況の分析と救助が第1優先、余計な感情は捨てる。
槍や弓、片刃剣などがそこら中に落ちている。村人の中に戦闘ができる者が多かった証拠だろう。
村人の死因は主に、斬撃、刺突、魔法などによる致命傷が多いため、魔物が原因出ないことは明らか。
ここまで一方的に虐殺できるとなると、大規模な盗賊などが考えられるが、その線も薄い。
それは殺害された対象に女子供までもが入っていたからだ。
基本的に盗賊は利益になるものは見逃さない。それも若い女性などになれば尚更のこと。
ますますこの惨劇を起こした人物が分からないといった、お手上げな状態である。
「けほっ、が·····ぁ」
ギルドにどう報告すべきだろうか。
これからのことを思案しながら生存者を探す私の耳朶を打ったのは、今にも死んでしまいそうなほど弱々しい呻き声だった。
「ッ!? 生きてる人がいる──────い、いた!」
倒れていたのは、2桁の歳に届こうかというまだ幼い少年だった。
血が隠しているが、胸には背中まで貫通しているのではないかと思うほどの深い傷がある。逆に生きていることに驚愕するレベルの重体。
意識はない、空気を求めるように口が微かに動くだけだ。
軽くではあるが私は、回復、毒分解などの神聖術を習得している。
だがこの傷は『回復の祈り』で治せる範疇を大きく逸脱していた。もうこの少年はあと数分と経たずに息を引き取るだろう。
治す方法は──────ある。
それも生きている限り、どんな傷でも強制的に全回復させる術が。
失った腕だろうと、損傷した内蔵だろうと
これは冒険に出る私に、魔法士団の隊長である父が旅の餞別と言って渡してくれたものだった。以来それを御守り代わりにしていつも旅の際に所持している。
客観的に見ればここで使うべきでは無いのは明らか。後に自身が危機に陥った際、自らの首を絞める行為となるからだ。
それに、家族と村の知人を全て失ったこの子を助けてその後どうするというのか。
自暴自棄になることなどは軽く予想できる。
何もかもを諦めて結局自死することを選ぶかもしれない。
助けが救いになるとも限らないのだ。
しかし、何故だろう。私の心のどこかがうるさい。直感が彼を助けるべきだと訴える──────
ここでとった決断が、大きく未来を動かすことになるのをこの時の私はまだ知らなかった。
黒の流星と呼ばれた俺が故郷を滅ぼした魔族を殲滅するまで 晴れが好き @Larna0
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