涼風すずらん

第1話靄


「一昨日みき君とまこちゃんとしん君と一緒にね、心霊スポット行ってきたんだー。写真見る? すっごいの写ってるんだよ! こんなの初めて!」

「またそんなとこ行って……ほんと好きだよねぇ」


 私の友達は心霊スポット巡りが趣味だ。休日はいつも幽霊が出ると噂されている公園や墓場に行って写真を撮って私に見せてくる。


「今回は”ガチ”だよ。も~本当に危なかったんだから! あ、あったあったこれがその写真!」


 興奮しながらスマホを見せてくる。写真には黒のミニバンと奥の方に卒塔婆と立派な墓石が写っていた。そして真ん中で四人の人物がピースしている。友達は立派な墓石の近くを指差す。白く、ぼんやりとした人の顔が浮かんでいる。性別は……小さくてよくわからない。


「ね、すごいでしょ! 実際に見えたんだから!」

「これはすごいね……」

「写真撮ったあとに気づいたんだけどー、みんな叫びながら車に一直線! 急いでエンジンかけて一目散に逃げ出したんだー。あの白いの車のスピードについてきててすっごい怖かったんだから!」


 友達は白い顔に追いかけられたことを楽しそうに語っている。しかし私の意識は白い顔ではなく、黒のミニバンの方へと向いていた。

 おそらく一緒に行った誰かの車だろう。運転席に人の形をした黒い靄が座っている。写真からでも恨みがましい視線が突き刺さってくる。明らかにやばいものだ。


「もう少しで追いつかれるー! ってところでギリギリ車道に戻ってこれたんだ。他の車のライトってすっごい安心するんだね〜。車道に出てからは白いの追ってこなくて助かったよ」


 友達は気づいているんだろうか黒い靄に。


「ところでさ、体調は大丈夫なの? その……霊障的な?」

「わたしは大丈夫なんだけど、車出してくれたしん君が調子悪いみたい。しん君って元気が取り柄だからちょっと心配。免許取り立てだけどわたしが運転した方が良かったかな」

「……運転しないで正解だと思うよ」

「まぁすごいパニックになったからわたしだったら事故起こしてたかもね。今度しん君にお礼言って……」


 ピピピピピ


「あ、まこちゃんから電話だ。ごめんちょっと出るね」

「うん」

「もしもしまこちゃん? えっ、しん君が……?」






 訃報。


「本当に、運転しなくて良かったね」

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