エピローグ

2026年 09月18日 09時15分

陸上自衛隊 富士演習場内 某所


「こちらです。しかし透鴇様、本当に宜しいのでしょうか……?」


「心配するな。釈放許可は取ってある。この奥か?」


 係員と二人の自衛官の前を歩く透鴇。そして目的の独房らしき場所へ辿り着く。


「この独房は特殊なセキュリティが施してあります。二重扉になっていますが気をつけてください。囚人がおかしな真似をしたら即射殺する規則です。ご了承ください」


「分かっている。開けろ」


 透鴇の指示で、係員が独房の扉を開ける。左右の自衛隊員が、奥に座っている囚人にアサルトライフルを構える。


「囚人番号477。面会だ」


 係員がそういうと、透鴇の後ろに下がる。


「初めまして。公安第七課、課長の透鴇だ。君と話をしに来た」


 独房の中にいる女性。その痩せ細り髪が伸びきった女性は、静かに俯き、本を読んでいた。年齢は30代後半くらいだろうか…… その容姿は酷く乱れている。 


「…………」


 ゆっくりと視線を動かし、透鴇を見る。


「…………」


 その毒蛇のような瞳で透鴇を更に見つめる。


「――すまない。二人だけにしてくれないか?」


 透鴇が係員にそう言った。


「し、しかし……」


「――二人だけにしろと言っている。二度は言わんぞ」

 

 睨み付ける透鴇。その様子に怯えた3人はしぶしぶ独房を後にする。


「――すまない。私は君を信用している。危害を加えるつもりはない。少し話をしよう。君の働く最適な場所も、私が用意する」


「…………なんでしょうか?」


 女性の低い声。透鴇は薄らと笑う。


「元、公安警察第六課所属。せいれいさんだね。君は以前、ある報告書を書いていた。それを読ませてもらってね」


「…………」


「……夢見の魔女。君は報告書の中でその存在を訴えていた。君は実際に会ったのか?」


「…………報告書を、読まれたのでは?」


 透鴇は首を振る。


「ちがう。聞きたいのはそこじゃ無い。――願い事を叶えたのか?と聞いている」


「…………」


 ゆっくりと、手のひらを上に向けて広げる。すると詩姓の手の平から、一瞬炎が舞い上がる。その目線はただ透鴇を見つめている。


「……察しが良くて助かる。君の力を是非貸してほしい。我が公安七課の配属となった際には過去の犯罪歴は全て消去し、行動の自由を約束しよう。もっとも職務は多忙を極めるが」


「ひとつ……」


「なんだ?」


「支度金と準備期間…… 1週間程でいい……」


「ひとつではないが…… まあ、いいだろう。幾ら必要だ?」


「…………」


 詩姓は不気味に透鴇を見つめ、指を1本立てる。


「国家公務員としての月給にしては高すぎるが…… まあ良かろう。君の力は貴重だ。先行投資と考えるよ」


「もうひとつ……」


「……こんどはなんだ?」


「車を用意してほしい……覆面仕様のレガシー。最新型を…… 色は黒だ」


「なかなか要求が厳しいな…… 日本ではもう生産されてないが、まあ、何とかしよう。」


「…………交渉成立だ」


  

2026年 09月25日 08時37分

警察庁公安七課 オフィス


 ブラインドから朝日が差し込む。透鴇はデスクで朝のコーヒーを飲みながら、パソコンでメールのチェックをしていた。そんな中、九条と水原が彼女を連れて入ってくる。


「…………」


「課長。おはようございます……」


 その変わりように透鴇は愕然とする。独房の中で不気味に髪が伸びきり、酷い有様だった彼女は、しっかりと身なりを整え、まるで別人のような姿だった。年齢が10歳ほど若返ったようにも見える。


「公安第七課。詩姓麗子。着任致しました……」


 そして透鴇が、九条と水原に説明する。


「紹介しよう。新しい仲間、詩姓麗子警部だ。彼女は生まれ持った霊的能力と、特別な力を持っている。AWと対峙したとき、大きな力になってくれるはずだ。職務は今まで以上に危険になる。よろしく頼む。なお詩姓の能力については外部へは一切漏らすな」


 九条と水原が敬礼する。すると詩姓がゆっくりと九条の顔を覗き込む。


「…………九条さん」


「……なんです?」


 薄ら笑いを浮かべる詩姓。


「あなたは…………何人――殺したの?」


 不気味な笑いを浮かべる詩姓。ジリジリと九条の顔を覗き込みすり寄ってくる。途端に水原が止めに入る。


「辞めてください!あなたは一体――」

 

その時だった。一瞬の隙をつき水原の手首の関節をぐるりと決め、瞬く間に背後を取る。そして胸元のポケットに差していたボールペンを水原の首元に突き立てた。


「…………黙レ小娘。ワタシヲ苛立たせるな…… 何も闇を知らない無能は――殺したくなる」


 見かねた透鴇。


「――初日から飛ばすな詩姓。パワハラは大幅な減給だぞ」


 透鴇の鋭い言葉が飛ぶ。詩姓はゆっくり首に突き立てたボールペンを元に戻す。

  

「――すまない。ちょっと急な電話だ」


 透鴇はそういうと、自分の執務室に入り、電話を取る。


「透鴇だ。避難計画の策定案は無事に承認されたか? そうか。対策は必須事項だがこちらも手が回らない。指示通りに事を進めてくれ。今後とも宜しく頼む」

 

 透鴇は電話を切る。そして何処かに電話をかける。


「――透鴇です。はい。こちらの準備は順調です。そちらは如何でしょうか? ――はい。ありがとうございます。米国との連携は今後ますます重要になってきます。――機密漏洩に関しての事項は国家の信用に関わります。ぬかりなく策定をお願い致します。――それでは」


 電話を切る。


 執務室にあるデスクの引き出しを開ける。そこにはハーバード大学時代に撮った一枚の写真が入っていた。


 大学のキャンパスで仲良く3人で写っている。真ん中に姫宮。両端に透鴇と神蔵。


 しばらく写真を眺めた後、静かに引き出しを閉じた。


 そっと瞳を閉じる。そして椅子から立ち上がった透鴇は、何かを決心したような眼差しで、執務室から出て行くのだった……



CODE:AW 亡失の救世主 へ続く

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

CODE:AW 赤き指輪と夢見の魔女 黒咲鮎花 AYUKA KUROSAKI @AYUKA_KUROSAKI

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画