最終日のあの場所へ
富田林早子
絶望人間の希望
俺は絶望人間、今日も長時間労働で気づいたら夕方だった、昨日出社したきり帰ってない。ろくにご飯も食べてない、ほぼ栄養ゼロのグミを食べて飢えを凌ぐ始末。早く温かいご飯を食べたい。
フラフラになりながらも、目の前にあったスーパーに駆け込む。もう温かければ、なんでもいい。そんな気持ちでスーパーに入ったらあまりにも早すぎる蛍の光が流れていた。
俺の頭がおかしくなった訳では無さそうだ、スーパーの閉店時間の相場より前倒しで、流れていた、5時前なのに。
店内を見渡すと、商品がスカスカで半額どころの騒ぎじゃない食べ物が散らかっている。
よく分からないがラッキーだと思い、商品に手を伸ばすと、張り紙が目に入った。
「完全閉店 長い間ありがとうございました。」
閉店するらしい、しかも今日。
せっかくいい店だと思ったのに、適当に商品を選びレジへ向かおうと思ったがもう一度あの、張り紙を見てみた。
「17時30分 閉店」
5時30分 残り10分程で閉まってしまう、と言うことは俺がこの店の最後の客って事なのか!?困る、さっき謎に出入口の前に、テレビカメラが待機してると思っていたから何事かと思ってたが、そういうことだったのか。さっきから、蛍の光が合唱みたいになってるのも、お別れのナレーションが流れているのも、社長みたいな人が後ろから見てくるのも。
俺が半額オカズ2品を、買うことによってこの「エモい」空間や「感動」を壊す可能性が出てきてしまった。
テレビ記者が意気揚々と待機してる、大層な買い物をする人間を、捕まえようと必死になってる。このままでは「完全閉店のスーパーで半額オカズを買った人」として報道されてしまう。恥だ
なんとしてでも阻止しなければならない、あと7分の間に一から買い物をやり直すことにした。
「本日をもって、営業を終了させていただきます。長年のご愛顧誠にありがとうございました。皆様ご来店誠にありがとうございました。」
店長直々の、閉店ナレーションが決まり感動モードが高まっている間に俺は、普段買わないオシャレな酒とケーキとピザを買った。
レジの方では、蛍の光大合唱。定員による人間アーチが作られていた、どうしてこんなことになっているんだろうか。ケーキはホールしかなかった、酒は高いしで当初の予定とは大幅にズレが生じているが、恥をかくのは避けられるはず。いざレジへ向かおう
店長直々のレジ打ちに、妙な緊張感が走る。
「合計が、4103円になります。」
財布から丁度の金額を出し、精一杯の笑顔を作った。
「ありがとうございました」
長時間労働終わりでクマも、何もかも酷かったと思うが、何より金額の語呂合わせが成功して良かった。ダサいと言われるかもしれないけど、これが今の精一杯。今この場所にいる人たちが全員 【幸せ】になれますように。
最終日のあの場所へ 富田林早子 @tonof
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