奇奇一髪

龍神雲

奇奇一髪

 ラー王国の宮殿に不思議なダイスがあるという。

 その名も神のダイス。神のダイスにより、ラー王国に住まう国民の命運が決まるというが、神のダイスとは名ばかりで、実際は呪われたダイスだ。

 俺事、沙羅ミナトは呪われたダイスの呪いを解く依頼を受け、ラー王国の宮殿に招かれた──


 フローリングを滑るようにして転がっていく八面体のダイス。

 八面体の内、七面は何も書かれてないが、一面だけに文字が書き記されている──。


 罪状”死刑”


 重苦しい文字はプレイする者も見る者も緊迫させる。緊迫は宮殿内に広がり、ダイスの音だけが妙に木霊していく。

『コン……』

 やがてダイスは、宮殿の柱で止まった。

「無地だ」

 ダイスの面を読み上げたその声に、安堵する者達と舌打ちする者達に分かれていく。

「たった今、判決が下された。神のダイスによりこの者の命は繋がり、繁栄を築くことが許された! 喜べ!」

 ワッと歓喜する声がするが、思わず口にしてしまう。

「はっ、何が神のダイスだ……。人の手によって命運が決まるだけの、ただのゲームじゃないか」

 俺はそう言いつつも、少しホッとしている。転がされたダイスによって死刑にはならず、免れたからだ。

 八分の一の確率で死刑を引き当てた瞬間、今のような嫌味もきっと言えない。

 最も、死刑になるのは困りものだ。

 ──しかし、それにしてもあのダイス……

 そう巡らしたその時だ。

 ──なぜ、神のダイスと言われているか……気になったのだろう?

 不意に声が聞こえ、視界は暗転する。


 次に目を開くと、鳥籠のような形をした狭い空間が映り込み、何層の黒い檻が俺の視界を埋め尽くしていた。

「沙羅ミナト、ようこそ」

 ──ここは……?

 そう口にした筈だった。しかし声が出せない。そればかりか、喉という気管が先ずない。

 あるはずの喉、いや、手足も、顔……肉体がない。

 しかし両目だけはある。無機質な小さな点の窓を覗くようにして、そこから声が届く。

「沙羅ミナト、神のダイスに選ばれた、愚鈍な人間」

 ──選ばれた……?

「世の中、疑問を持たぬほうがいいこともある。考えるだけが損──それは時間であり、思考でありだ。考えたことを考えなければよかったと今、思うだろう。考えなければ免れたのにな? そこが分岐点だったのだよ」

 ──何の話だ?

「沙羅ミナトが気になっていた神のダイスの話さ。死刑を免れたのに、疑問を抱いてしまった。だから、選ばれた。沙羅ミナトの疑問が私にとっては解放の言葉で、沙羅ミナトにとっては封印の、戒めの呪言だ」

『コン……』

 少しの衝撃後に視界が変わり、俺は上向きになるが、相変わらず、小さな点から覗く景色のみが映し出されている。

「沙羅ミナト、神のダイスになった気分はどうだ? お前は人の手により転がされるが、自分の意志でもダイスを操れる。八面の内、一つにある死刑を、お前の意のままに操れるのだぞ」

 上向きになった俺を覗き込むのは、相手に奪われた俺の肉体だ。

 だが、どうということはない。

 ──……

「そうか、神のダイスのからくりが気になっていたが、大したことはないな」

 神のダイスは、俺の手の中にある。

 ──なっ、どうなっている!?

「簡単な話だ。そういった生業をしているだけさ。呪われたダイスの呪いを解いて欲しい。それが今回の依頼内容だった。さぁ、お前さんは神でも何でもない世界に逝きな」

 ダイスにフッと息を掛けてやれば、そいつは一瞬で浄化する。

 神のダイス、恐るるに足らず。

「さて、次の依頼をするとしますか」

 次は呪われた宝石検証の依頼だ──

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