大阪某所、電話ボックス

TEL

　おう、アキラか。

　わしや、川田や。

　おまえ、ようこんな番号からの電話取ったな。

　ああ、今な、公衆電話やねん。あるやろ、駅前から裏通り抜けて、パチ屋に向かう途中に、電話ボックス。

　せや、電話ボックス。緑色した電話。

　ちょうどな、電話の上に使いさしのテレカが落っとってん。なんや知らん、若い女の顔が映ってるやつ。もう随分古てな、擦れてあちこち色が剥げとんねん。笑てまうやろ、この令和のご時世に電話ボックスとテレカて。

　テレカて、テレホンカードやんか。穴空いとらへんとこが半分以上残っとるやつがな……なんや、テレカ知らんのか？

　まあええわ。ほんでな……いや、サイフもスマホもあらへんのや。

　今、追い込み掛けられとる。

　追い込みて、追い込みは追い込みや。こないだ天王寺でオレオレの受け子いてもうたやろ。あれがバレ（めくれ）たんやろな。おう、あの半グレのくされどもや。

　ちょっと、調子に乗りすぎとったんかもしらん。今さっき、雀荘出たとこでカマされたわ。５、6人はおったかな。あんクソガキ、いきなり刺しよった。

　いや、大丈夫や。ちょっと血ぃ出ただけやて。

　でもな、止まらへん。押さえても腹から、じくじく出よる。

　なあ、わし多分帰られへんし、おまえんとこにも下手しぃ誰ぞ行くかも知らん。

　せやから、電話切ったらすぐに逃げえ。現金、便所のタンクの裏側に貼り付けとるさけ。

　かまへん、ええから、おまえが持ってけや。かまへん。

　泣くなや、おまえ。

　泣くな頼むから、アキラ、おい、泣くなて。

　わしかて……

　……何でもあらへん。煙草に火ぃ点けとっただけや。

　おまえな、ええか、次はな、わしみたいなろくでなしはやめとけ。

　もっとましな男んとこ行け。わしみたいなんは、絶対あかんで。

　足も洗え。おまえはこんなん、向いとらへん。

　大体な、受け子しばいた時のカネ、なんで募金箱突っ込むねん、おまえ。

　全部ちゃう言うたかて、あれ万札なんぼ入れとったんや。

　いや、だから泣くなて。泣きながら笑うやつがおるか。

　ええか、なるべくでええさけ、遠くに行け。知り合いもなんもおらんとこや。ほんで真面目に働け。

　分かったか、分かったら返事せえ。

　……いやすまん、何言うとるんか分からへん。耳ももう、あかんのかも知らん。

　クソ。くされどもが来よった。

　切るで。

　……元気でな。

　怒号。大勢の足音。

　破壊音。苦痛に喘ぐ声。

　後にはガラスの粉々に割れた電話ボックスと、わずかな血だまり、フィルターの間際まで燃えて燻る、煙草の吸殻だけが残る。