ファミレスで危機一髪

大田康湖

ファミレスで危機一髪

 あたし、松永まつなが夏夜なつよは友人の野口のぐち星未ほしみと一緒に行った初詣の神社で、中学校のクラスメイト、元村もとむらだんと再会した。

「みんなでファミレスでケーキでも食べない?」

 というあたしの提案に乗り、駅前のファミレスにやってきたところだ。

「ここで高校のダチがバイトしてるんだ」

 暖が言うが、星未は周りをキョロキョロしている。

「私、去年の夏までここでバイトしてたんだ」

「じゃあ知ってるかもな、奈良田ならたかんって奴」

 暖がそう言った時、最近流行りの配膳ロボットが2人分のジュースを乗せてテーブルにやってきた。星未は液晶の猫の顔を見ながら言う。

「へえ、私がいたときこんなのなかったのに、ってテーブル間違えてるよ」

 あたしが呼び鈴を鳴らすと、バイトの店員が慌ててやってきた。名札には「NARATA」とある。

「野口じゃないか、今日は店長来てないぞ」

「店長は関係ないでしょ」

「お前が店長と付き合ってたんで辞めさせられたって聞いたぞ」

 あたしは去年のクリスマスの晩、星未がドタキャンされた相手がバイト先の店長だと聞かされたことを思い出した。

「それよりジュースを正しい相手に届けて注文とってくれよ」

 暖が完に言ったその時、隣のテーブルから声がかかった。

「それ、うちの注文じゃないか」

 声を聞いた瞬間、あたしは固まった。向かいに座る暖の後ろから覗く中年男の顔は、まぎれもなく去年ドタキャンされたマッチングアプリの相手、「SAI」だ。隣には大学生くらいの着物姿の女性がいる。あたしは顔を伏せると暖に小声で話しかけた。

「食事おごるから、ちょっと恋人のふりしてくれない」

 暖は怪訝けげんな顔をしながらうなずいた。


 ジュースを隣のテーブルに届けた後、完は注文を取りに戻ってきた。

「それじゃ野口は暖と付き合ってるのか」

「俺の相手はこっち、中学のクラスメイトで松永って言うんだ」

「お前が彼女持ちだなんて知らなかったよ。俺も野口ともっと仲良くしとけば良かった」

 暖と完が明るく話し合っている向こうで、「SAI」は着物姿の女性に詰められていた。

「親父、マッチングアプリやってるよね、私のアプリに名前と顔が出てきてビックリしたよ。心臓に悪いから止めて」

「ひ、人違いじゃないか」

 しどろもどろの「SAI」の声には、あたしとつきあっている時の自信満々な態度は全くない。

「名前も『SAI』なんて名字のもじりでさ、恥ずかしいったらありゃしない。妹と母さんには言わないから、お年玉奮発してよ」

「分かったよ」

 しょぼくれた「SAI」の姿を見ていると、自分が「パパ活」などと意気っていたのが恥ずかしくなってきた。


 完が厨房に戻ると、あたしは小声で暖に尋ねた。

「そういえば、元村はどうして初詣に来たの」

「受験のお守りを買おうと思ってさ。もちろん予備校にも通うけど、運を味方に付けるに越したことはないからな」

「予備校か。あたしもそろそろ通わないと。折角だから元村と一緒の予備校にしようかな」

「それなら歓迎するよ。完も今月でバイトは卒業して予備校に入るんだ」

「そうか、私も一緒に受験勉強しようかな」

 星未はあたしに言うと、スマホを取り出した。

「折角だから写真撮ろうよ」

「うん、元村もいいよね」

 そう言いながら、あたしは元村の顔を見つめて言った。

「元村とあそこで会えたのも、神様の縁結びかもしれないね」

「だけど、マッチングアプリは消しとけよ」

 元村がにやりと笑うと、口元のほくろが上がった。


おわり

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