小さく手を振る小さな男の子
九文里
第1話
今朝は、小雨で始まった。いよいよこの雨で、桜の花びらも散り仕舞いかと、少し名残惜しい。
バスはやはり混んでいる。
私は、
バスの中は、停留所に止まる度に人が増えていった。
ぎゅうぎゅう詰めと言うわけではないが、運転席の後ろまで、ほぼ埋まるぐらいになってきた。
まだ暑くなる時期ではないが、湿気があるのでムシムシして息苦しさを感じる。
私は、バスの前方で、つり輪に捕まって立っていた。
ふと見ると一番前の席に、小さな男の子が座っている。制服を着て帽子を被っている。被っているのか、被られているのか、と言う感じの帽子だ。ランドセルを背負い持って座っているので、座席の半分はランドセルが座っている。
私は、始発から2つ目の停留所から乗ったから、この子は、おそらく始発の停留所から乗っていたのだろう。
小学校に上がったばかりの新一年生じゃないだろうか?電車に乗って、離れた地域の私立の小学校に行くのだろう。
先ほどから、窓の外を見ては、フロントガラスの上の行く先案内表示を見る、を繰り返している。
最後まで乗ってたら勝手に駅につくけど、まだ慣れてないのか、行く先を確かめないと不安なのだろう。
そわそわして落ち着かない様子だ、座席の前に付いてる持ち棒をぎゅっと握っている。
近くにお母さんは、いないみたいだ。新一年生になったばかりで、一人で電車通学するのは、かなり不安なんじゃないだろうか。
私の息子も去年一年生になった。今は、近所のお兄ちゃんに一緒に学校に連れてって貰っているが、初めの頃は、私に連れて行って欲しいとぐずったものだった。やっぱり不安だったのだと思う。
私は、入学式で一緒に行ったきりで、その後は仕事があるので一緒に行っていない。
この子も親御さんの事情で一人で行かなくてはならないのだろう、かなり不安を感じていると思う。
そう思って見ていると、その子が立ち上がった。まだまだ駅に着かないのに、どうしたのだろうと思っていると、側にいた大人の男性に、自分の座ってた席に座る様に促しているみたいだ。
そんな大人に席を譲ることないのに、と思っていると、違った。その男性の横から、小さな男の子が出てきて、男性に背中を押されて座席に座った。
三歳ぐらいの男の子だろうか。小学生に上がったばかりの子が自分より小さな子に席を譲ったのだった。
私は、ちょっと感動してしまった。小学生になってお兄ちゃんにもなっている。
彼は、その座席の側に立って、相変わらず窓の外と行く先案内表示を交互にちらちら見ている。
三歳の男の子は、片手で持ち棒を掴んで、片手で窓の縁を指でなぞって、手持ちぶさたにしていた。
それから3つ目の病院前のバス停で三歳の男の子は、お父さんであろう男性に手を引かれて、バスの中ほどの出口から降りていった。
一年生の男の子を見ると、それまで窓の外と行く先案内表示しかを見ていなかったのに、バスの出口の方に遠慮がちに手のひらだけで手を振っていた。
バスの出口を見ると、小さな男の子が手を振っていた。お父さんも男の子にお辞儀をしていた。
その後、空いた席には、男の子は座らずに、やはり窓の外と案内表示を交互に見ていた。決してバスの中の方を見ようとはしなかった。
結局、その席には誰も座らずに、バスは駅に着いた。
人いきれの感じるバスの中で、その新一年生の行動に感動させられる人もいただろうが、とにかく私はその新一年生と三歳の男の子がお別れの時、お互いに手を振っていたのが可愛くてしかたなかった。
小さく手を振る小さな男の子 九文里 @kokonotumori
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