第6話「ラノベ作家の闇」
前回のあらすじ
『大学の先輩が、大好きなラノベの作者様でビックリしました!』
朝倉さんの正体がSNSでバレた。
「――と、一時はどうなるかと思ったわけですが……」
「まさか、安藤くんの投稿一つで見事に鎮火したわね」
そうなのだ。
あの紫吹さんが登校した朝倉さんがラノベ作家だというSNSの投稿はとっさに俺が引用した。
『こんな美少女がラノベなんか書くわけ無いだろ!』
『『『せやな!』』』
という、こんな投稿にお前ら騙されるわけないよな? ムーブにより下手に広まることは無かった。
SNSによる炎上しうる投稿は火種が小さいうちに消火するのが一番なのだ。
「ほ、本当にゴメンなさい!」
大学の空き教室、紫吹さんはそう言うと僕と朝倉さんに向かって勢いよく土下座した。
もちろん、あの投稿はすでに消させているしそんな騒ぎになることもなかったので、反省しているのなら、そこまで謝る必要はないのだが……って、これは朝倉さんが判断することか……
「ということで、今からSNSの! ねね、ネットリテラシーの講義を始めるわよ!」
「ハイ先生!」
「ナニコレ……」
なんか空き教室で話し合いでもするのかと思ったら、朝倉さんが紫吹さん相手に講義を始めたんだけど?
「はい、先生! ねっとりてらしーって何ですか!」
「紫吹さん! にゃ、じゃなくて……ネットリテラシーよ!」
「朝倉さんも、ちゃんと言えてないよ?」
俺は朝倉さんが噛んでるの見逃してないからね?
「今の時代はSNSで迂闊に個人を特定できる情報は投稿しない。それがネットリテラシーよ!」
「あとは写真の背景とか場所を特定できる要素とかも危険だよね」
「そうね。安藤くん。場所の特定できる情報を上げる時は時間を置いてからSNSに投稿するなどの自己防衛も必要ね」
「なるほど……朝倉先生! わ、わたしからも質問いいでしょうか?」
「はい、紫吹さん! もちろん、質問いいわよ」
「えっと……その将来……逆に作家になって気を付けることとかあるでしょうか?」
「そうね……」
「朝倉さん、気を付けることなら、表彰式や出版社のパーティー関係とかじゃないかな?」
「安藤くんの言う通りね!」
「表彰式や出版社のパーティーですか……?」
「紫吹さんには、しっくりこないかもしれないけど、これは意外と重要なことなのよ」
俺は作家でもなんでもないので、これは朝倉さんから聞いた話なんだが……
「要は新人作家だと、関係者以外が知りえない情報をSNSに投稿しちゃうってことがよくあるからね。もちろん、出版社のパーティーがあるのを家族などに言うのは大丈夫だけど、関係者以外に知らせるのがダメってことだね」
「私なら安藤くんとかには出版社のパーティーに行くとか言っていいけど、大学の同級生とかには迂闊に言ってはいけないってことね」
「な、なるほど……分かりました!」
さりげなく、朝倉さんに『家族カウント』されたけど、紫吹さんは疑問に思っていないみたいだからいいか。
「他にも、色々気を付けることはあるわね! 例えば~」
「はい、先生!」
「朝倉さんはラノベ作家になってまだ数年しか経ってないけど、色々あったからなぁ……」
デビューして初めての作品ではイラストレーターに『宣伝して欲しければ金をよこせ』とか言われたり、自分はラノベより漫画の仕事がしたいからラノベの仕事はもうしたくないとか言われたり……
初めてついた編集さんが忙しすぎて二巻目で新人の編集さんに担当が変わったと思ったらその編集さんが移動になって、三巻目からさらに別の新人編集になって振り回されたり……
その上、三人目の編集が『続巻出る予定なので、そのつもりで続き書いてください』って言われて原稿書いたらクリスマスに『やっぱり、続巻出せそうにないので、一ヵ月で原稿書き直してください』とか言われたり……
挙句の果てには、続刊が急にでなくなった理由がその編集がイラストレーターと揉めたのが原因だったのに、それ黙っていて、編集長には原作者がイラストレーターと揉めたからと説明し、全て朝倉さんの所為にして責任を擦り付けた所為で、何も知らなかった朝倉さんはそのレーベルから出禁をくらったとか……
「……うん、本当に色々あったな」
デビューした数年で朝倉さんはラノベ業界の数々の闇を凝り超えて来たのだ。
「もちろん、それでも他の作家さんとかの個人情報はむやみにSNSに投稿しては駄目よ」
「あとは写真もね」
「そうね心配な場合は、担当の編集さんに確認を取った方がいいわね」
「わかりました!」
こうして紫吹さんの研修は無事に終わったのだった。
「――って、ことで今回の件は無事に終わりましたとさ」
「そう、安藤くんも大変だったわね」
「委員長はいいよな。他人事でさ……」
「だって、他人事ですもの♪」
そうして、今日も俺は委員長と同じ大学の講義を取りながら昨日あった朝倉さんとの出来事を経過報告&愚痴の相談相手として話しているのだった。
その時、スマホをいじりながら俺の話をだるそうに聞いていた委員長の表情が固まった。
「ねぇ、安藤くん。ちょっと……」
「……ん?」
そう言われて、委員長の差し出したスマホの画面を見るとそこには一つのSNSアカウントの投稿が映っていた。
『大好きなラノベの作者さんと沢山お話しできて楽しかったです!』
そのSNSの投稿には一緒に自分のラノベを持って微笑む
「これって、朝倉さんのことよね?」
「な、な……」
何してるんだお前ぇええええええええええええ―
安藤くんと朝倉さん 出井 愛 @dexi-ai
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