アーサー英雄譚
不細工マスク
第1話:英雄譚
〜大陸の最西の森に位置する小さな村、ここサンフ村は人口わずか150人弱の牧歌的な村である。近くの川や森で得た魚や果物を城塞都市ラース内で売って稼いでいる。この
「アーサー様!探しましたぞ、アーサー様。」
「どうしたベディ?村で何かあったのか?」
「急いで館に戻りますぞ、村長様の容態が…」
僕は馬に乗り急いで村へ走らせた、嫌な予感が胸をざわつかせる。颯爽と街中を駆け、館に向かう。周りは野次馬ができていて、只事ではないと覚悟を決めた。馬を降り館の通路を走り巡る。ベディが案内したのは父上の寝室、中には町医者や城塞都市から来た医者が座っていた。
「おぉ、アーサーか…」
「父上…」
「アーサー…もうワシは長くない」
「そんなこと言わないでください、父上…!」
「心して聞くのじゃ…お前に全て打ち明ける」
「お前は…ワシの本当の子じゃない」
「え、父上何の冗談を…」
「ちゃんと最後まで聞け…。お前はワシの古い友人の子だった…」
父上は続けた。北にかつて存在していたもう一つの城塞都市トールは西大陸同盟を立ち上げ、アトランティス帝国に反乱を起こした。帝国の支配から脱するべく数々の城塞都市が同盟に加盟し、戦争に明け暮れていた。だが15年前のある夜、帝国側の策略により、城塞都市トールは帝国の奇襲を受けた。多くの市民は帝国兵士に殺され、城塞都市トールの王、アルフィール王は重傷を負いながらも生き残ったわずかな兵と市民を連れ南に逃げ、この村にたどり着いた。アルフィール王は最終的にこの村の長に全てを託し、一人帝国に白旗を上げに行った。その数日後、城塞都市ラースにて公開処刑された。そして僕はそのアルフィール王の息子ということだった。
「あいつとの約束は、アーサー、お前の安全じゃった…ワシはもう役目を果たした。少しやり残した感はあるが…あいつも許してくれるじゃろ…」
「父上…」
「これからはお前の好きなようにするが良い…今日からお前が村長じゃ」
一夜明け、アーサーは正式の村長になった。前村長の亡骸を小舟に乗せ海に流し燃やした、これが代々受け継がれる村長の葬式だ。
「アーサー様、これからのご方針をお告げください。」
「方針…」
考えたが何も浮かばない。僕は今のままでいいと内心思っている。確かに僕らは帝国に搾取され続けるだろうが、それに対抗はできない。到底復讐も叶わない。ならいっそこのままでも…
「アーサー村長はいるか!」
「だれだ!?」
周りがざわめく。館の外で男の声と門番の声がした。どかどかと廊下を歩く音が続きそれを止める兵がいるのもわかった。勢いよく会議室のドアを開けた。
「おう!アーサー王!お初にお目にかかる!」
立っていたのはとても僕を殺しに来たとは思えない格好をした褐色肌の若い男。
「どなたかお伺いしても?」
「おう!これは失敬!俺は城塞都市ラースの長、ラムセス王だ!」
「!これは失礼しました。僕は…」
「まぁそう固くなるな!別に帝国命令で殺しに来たわけではあるまい!その逆だ!」
「!?それは一体どういう?」
「おう!それはだな…この中に貴殿がアルフィール王の息子だと密告した者がいる!それで俺が殺すようにと帝国側から命令されたのだ!」
室内がざわめく。
「いったい誰が…」
「それはもう見当がついている!そこの老ぼれ、席を立て。」
「な、何のご冗談ですかな、ラムセス王?」
「俺は帝国の犬だと愚弄するか、老ぼれ?俺はいまだにアルフィール王に忠義を誓う最後の臣下だ。それだけは絶対変わらん!この者を捕らえよ!」
「ま、まて貴様ら!離せぇ!」
「フン!所詮は金に釣られただけの老ぼれよ。」
「ラムセス王、つまり貴殿は僕の父上、アルフィール王の元臣下ということでいいんでしょうか?」
「おう!故にこれから村の者達を集め我が城塞都市に向かってもらう!いつかなる決戦のためにもその方が良いと決断した!」
「んんん?」
全くもって何言ってるか分からないぞ?
「私が説明しましょう」
「ネフェルタリか!頼んだぞ!いかんせん俺は説明が下手なようでな!」
「ラムセス様が言いたい事はズバリ三つです。一つ、彼は帝国に潜入していたスパイである事。一つ、帝国からこの村を消すようにと命令された事。一つ、彼は村人全員を城塞都市ラースにご招待し、身を隠してもらう事。これも全て帝国と戦うための下準備です」
「ありがとう、ネフェルタリ!理解したなら早速準備をしよう!」
言われるがままに館にある貴重品や書物を荷台に積んだ。外では村人が大急ぎで物を荷台に運んでいる。
「アーサー様、あやつを信じていいのでしょうか。私には信用できませぬ」
「いや、彼を信じよう。彼と僕たちは利害が一致しているように思える」
「アーサー様がそのように仰せなら」
村を出て数キロのところで村から出る煙とオレンジ色の光が見えた。村が燃えているのだろう。僕たちが過ごしたあの村が。馬の荷台に揺られながら思い出に慕っていた。
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