今こそ友情パワー全開だ

藤泉都理

今こそ友情パワー全開だ




「隊長。今回の報告書です」

「うむ」


 第二師団隊長の執務室にて。

 隊長は大小さまざまな真四角のダンボールをいくつも重ね合わせては、全身を覆い隠していた。最初はダンボールの呪いを受けてダンボールで全身を覆い隠されていたらしいが、呪いを解いた今でも、これが落ち着くからとこの格好を維持していた。

 何でも転移魔法や接着魔法、透視魔法など、魔法を駆使して、日常生活を過ごし、討伐などをつつがなく行っているらしい。


 まあ、わからないでもない。

 自分も時々、ダンボールで全身を覆い隠したくなる時がある。

 いや、正確には小さなダンボールの家に身を隠したくなる時がある。

 ちっさいので、膝を抱えて過ごすしかない。そんな窮屈なだけしか見えないのに、どうしてだか、安心感があるちっさいダンボールの家を、とてつもなく求める時があるのだ。

 他の材料ではだめなのだ。

 ダンボールでないと。


「副隊長」

「はい」

「報告書に落書きがある。書き直し」


 しまった。

 無意識の内に希求を描いてしまっていたか。


 申し訳ございません。

 副隊長は頭を下げて報告賞を受け取った。

 確かに、報告書の端っこに、小さな家を描いていた。

 ちっさなダンボールの家だ。

 あんなに間違いはないか何度も何度も見直したのに。多分。あれ、違ったかな。もしかして夢の中の出来事だったかな。

 自分の記憶に自信がなくなりながらも、とにもかくにも、報告書を書き直さなければと急いで執務室から出て行った。






「っげ」


 副隊長である自分の執務室に戻って、椅子に座り、報告書をもう一度読み直した時、顔色が赤くなるやら青くなるやら、冷たいのか暑いのかわからない汗も噴出するやら、椅子から立ち上がっては座り、はたまた机の周りをグルグルと動き続け。とにかく心身ともに緊急事態であった。


 落書きは、ダンボールの小さな家だけではなかった。

 小さな人間が魔物らしきまっくろくろすけに向かって、友情パワーという文字を手から放出する絵もあったのだ。


「いくら疲れていたとはいえ。恥だ」


 どうしよう副隊長の座を下ろされるかもしれない。

 わたわたおろおろ。

 土下座をしに行った方が、いやまずは新しい報告書を書いてからだ。

 速攻で、けれど、丁寧に、書き進めて、自分で何度も読み直して、廊下を歩いていりこの執務室に来たりした部下十人にも読んでもらって、不備がないことを確認し、隊長の元へと向かったのであった。




 すぐに書き直した報告書を提出したからだろうか。

 副隊長はその座を下ろされることはなかった。

 とりあえず。











「友情パワーで平和裏に魔物を退けられたらどれだけいいか」


 副隊長は知らなかった。

 書き直すために隊長の執務室から副隊長が退出してのち、隊長が両の手首を合わせて、友情パワーと呟いていたことを。












(2024.1.12)



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