順番

目の前にずらりと人が並んでいた。

 何の列なのかはわからなかったが、気づけば私も列に並んで順番を待っていた。

 先頭に何があるのか、覗き込もうにも先は果てしなく遠くて見えやしない。それに、下手に頭を出すと列を管理している者達が、ギロリとこちらを睨みつけるので、仕方なく頭を引っ込めるしかなかった。

 

 それらの姿をなんと言えばいいのか。黒い人としか言いようがない。顔まで真っ黒な姿で、ピシリと背筋を伸ばして列に並ぶ者を威圧するのだ。しかもやたらめったらと背も大きいので側に寄られたら身を縮こめてしまいそうな程。

 真っ黒な顔は実際に目が何処にあるかなど見えやしないのだが、それでも私は何となく睨まれた、と考えていた。


 その威圧のおかげなのか、統率のとれた列は徐々に徐々に前に進んでいった。

 一歩一歩と進むうちに、ようやく変化があった。先頭へと近づいてきた頃、私はほんの少しだけ前を覗き込んだ。もちろん、睨む黒い者達に見つからない程度に。


 が、その光景に私は一瞬で身を震わせた。


 ダンッ――と、何かを叩きつける音が響く。それまで足音だけだった空間に、突如として生まれた音だ。私が先頭の現状を知ってしまったから、認識してしまったから?


 首。そう。先頭に辿り着いた者は、斧で順番に首を落とされているのだ。


 ダンッ――――

 ダンッ――――

 ダンッ――――


 一定の間隔で、列は進む。音に合わせるように、ゾロゾロと歩く足並み。

 私以外、誰も気づいていないのだろうか。何故、抵抗しないのだろうか。

 

 その時になって初めて同じく列に並ぶ者達に興味を持った。

 そろりと背後に目線を向ければ、虚な顔が列を成して歩いている。前方もそうなのだろう。

 目の前で他人の首が落とされて、誰一人叫び声ひとつあげないのがその証拠だ。


 ――逃げないと


 そう考えたところで、周りは黒い人で囲まれている。それも、あるかもわからない視線はしっかりと私に向かっているのだ。


 そしてついに、私の目の前の人物の番になった。


 目の前には、ぬるりとした血で赤く染まった台。

 断頭台の如く頭を乗せる窪みがあり、順番になった瞬間に、自ら頭を差し出すようにそこに乗せて。そして……

 

 斧が振り下ろされた。


 ダンッ――、死刑宣告を告げた音が私の耳から離れない。頭を失った胴体がずるずると引きずられ、頭はゴミのように袋へと放り込まれる。

 さあ、と言わんばかりに黒い人は斧を振り上げていた。


 ――無理だ


 私は逃げようと体を反転させた。


 が、黒い人がわらわらと集まって私を押さえつける。

 身体を無理やり台へと押し付けられ、頭を定位置へと押さえ込まれる。そして――――――


 

 ダンッ――



 ◆◇◆◇◆



「…………」


 私は、目を覚ました。思わず首に触れ、繋がっているかどうかが気になって仕方がない。

 目覚めたばかりで夢と現実が曖昧な状況にも関わらず、心臓が異様な速度で鼓動して、頭の中は恐怖だけが取り残されている。

 

 夢の終わりに感じたのは、生きていれば到底感じる事の出来ない死だったのか、それとも危機一髪、死を回避した感覚だったのか……



 終


 

 あとがき

 

 このお話は、筆者が子供の頃に見た夢をアレンジしたものです。

 あまりの怖さに、今でも鮮明に覚えている夢。

 皆様もこういった夢での恐怖体験はありますか?

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