危機一髪!!

奈那美

第1話

 (慎重に……どこだ?どこに刺せばいいんだ?)

雄介ゆうすけは、目の前の規則的に並んでいる穴たちを見つめていた。

穴たちのいくつかは、雄介が手にしているものと同じもので既にふさがれている。

───ミスは許されない。

ミスしたら……大変なことになる。

慎重に……慎重に……。

「早くしろよ!雄介!」

となりで魁斗かいとがあせった声を出した。

「そうだぞ。おまえが早く、ちゃんと選ばないと、オレたちまで……!」

向かいにいる駿かけるの声もあわてている。

 

 ───ミスは許されない。

雄介たちは、何者かとゲームをしているのだ。

なぜ、今の状況下にいるのかはわからない。

昨日の夕方三人でいたところを急に黒づくめの男たちに襲われ、おそらくはスタンガンで意識を失わされて、ココに連れてこられたのだ。

そして両手両足を鎖でつながれ、足は床に。

手は目の前の台に固定されていた。

台の上には、雄介が刺す場所を考えていた円柱状の物体が乗っていた。

円柱状の物体の上部中央付近には、色とりどりに点滅する球体がはめ込まれていた。

 

 ここで目を覚ましたときは、三人は直接床に寝せられていた。

気がついたのは、窓がないその室内にじわじわと水が注ぎ込まれ、身体が濡れたからだった。

三人が立ち上がったのをどこかで確認していたのか、突然声が流れた。

キーキーと耳障りな……まるで黒板を爪でひっかいたような声だった。

声は告げた。

『今から君たちとゲームをしよう。ちなみに君たちに拒否権はない。ゲーム自体は簡単だ。目の前に円柱状のものがあるだろう?そこに君たちには三人交互にそこにある“獲物”を刺していってもらう。制限時間は五分。五分を超えた場合は、いま流入中の水量が一気に増加して───君たちは溺死する。誤った箇所に刺した場合は中央の装置が飛び出して水に触れて作動し爆発する。ではゲームスタート』

 

 「ちょ……待てよ。これ、何の冗談だよ?なんで一方的なんだよ」

魁斗が文句を言った。

「そうだよ。なんでオレがこんな目にあうんだよ」

駿も同じく文句を言う。

雄介も続いて文句を言おうとした……だが。

「なあ、文句言ってる間にも水がどんどん増えていってないか?ということは、おれたちをこんな目にあわせた誰かは本気ってことだ。このままじゃ死んでしまう。なんとかしないと」

 

 「なんとかって……なにをすりゃいいんだよ?」

駿が言った。

「これだよ」

雄介が目の前にならぶ三本の“獲物”をあごで示した。

「これを刺さないと、どうしようもないんじゃないか?」

「そんな馬鹿げたこと!」

駿がいきりたつ。

「……試してみないと、わからないかもしれない」

魁斗がポツリと言い、“獲物”の一本を手に取り『南無三』とばかりに穴のひとつに刺した。

 

 ───何も起こらない。

それどころか水の流入スピードが心なしか遅くなったような気がする。

「これは……ガチなやつだ!」

雄介たちは指令書に書かれたとおり、三人で順番に刺していった。

そして最後の一本。

「おい!雄介、早く刺せよ。もう水がのどのところまで来てるんだぞ」

魁斗が再度雄介を急かした。

「わかってる……」

雄介は何度も逡巡したあと、ひとつの穴を選んで獲物を刺した。

 

 カキン……

さっきまでの八本とは違う音がした。

「まさか……」

雄介は愕然とした。

まさか……引き当てた??

その瞬間、中央に位置していた球体が勢いよく飛び出してのど元まで溜まっていた水の中に落下した。

球体が激しく白く輝く……。

 

 

雄介たち三人はきたるべき爆風に備えて、できうる限り身体を小さくした。

そんなもんじゃ、きっと防げやしない!

そう思う三人だったが、とっさにとった行動だった。

 

 

五秒過ぎた……

 

十秒過ぎた……

 

 

 

雄介は、姿勢を元に戻した。

「おつかれさん」

突然知らない声がして、雄介の頭からなにかを取り去った。

さっきまでいた、無機質な窓のひとつもない室内が一変し、白い光があふれた広い窓がある室内へと変貌していた。

目の前にはもしゃもしゃした胡麻塩頭で、度が強そうなメガネをかけた男の姿があった。

薄汚れた白衣を羽織っている。

 

 「あんた、誰?」

雄介は男にたずねた。

「あんた、おれに何をした?」

「実験だよ、実験」

男は答えた。

「きみがゲームセンターでいつも『つまらね~。もっと面白いゲームはないのかよ』ってどなってたからね。わしが考案したゲームを体験してもらったんだよ。このVRゴーグルを使った……ね」

男はニヤニヤ笑いをうかべながら答えた。

 

 「ゲーム、だって?」

雄介は胡散臭そうな顔でおとこに問い返した。

「そうだよ、ゲーム。さっき体験しただろう?」

「あの、刺す場所がどうのっていうやつか?」

「そう。なんちゃってデスゲームとでもいうかな。……気に入ってもらえたかな?VR黒ひ……」

「気に入るかぁぁぁぁぁ」

 

 

 雄介の拳はマッドサイエンティストのみぞおちにめり込んだ。




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