はんぶんこ
ポン太がしょんぼりしているので、私もなんとなく最後の一個を取りづらい。
ちょっと話してみようかな。
「取られると頭にくるけど、来ないと、さみしいね?」
「そ、そういうことでは、ないのです!」
同居人として、こんな危機に何とかしてあげたくもなる。
「強く言っちゃったけど、せっかくの最後の一個、食べないじゃない」
「おおお、お腹いっぱいなのです!」
意地っ張りなんだなあ。
「さみしそうだし」
「さささ、さみしくなどないのです! せいせいするのです!」
どうしようかなあ。
「じゃあ、こうしたらどう?
この最後の一個、はんぶんこするから」
包丁でふたつにする。
おいしそうな五目の酢飯が顔を出す。
「今回は一度仲直りする、ってことで、いっせいのせ、で、ふたりで取ったら?」
私は妖怪が見えたり幽霊が見えたりはしないけれど、たぶんキツネさん、そのあたりで見ているんだろうなあ。そんな気がするんだ。
「とととと、とんでもない! それではポン太がこれからも最後の一個を取られてしまう問題はのこるのです!」
「その問題は今度にして、一度お互いにすっきりしようよ」
むむむう。
意地っ張りだなあ。
「……むっ!」
ポン太は、お茶をひとくち飲んだ。
「では! 今回だけですよ!」
いっせいのせ!
ポン太は、手を伸ばして五目稲荷の半分をぱくり。
「消えた」
もう半分も、なくなっていた。
ポン太はもう一度言った。
「今回だけですからね!」
◆
「むむむう! あいつめ!」
だけどそれからも、五目稲荷の最後の一個はなくなった。
「まったく、困ったものなのです!」
ポン太も相変わらずプンプンしているけれど、これは私は黙っていることにする。実はよく見るとちょっとだけうれしそうなのだ。
「プンプン!」
そしてキツネさんも、相変わらず姿は見せないのだった。
五目稲荷とポン太のはなし 倉沢トモエ @kisaragi_01
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