生/死の境界線

傘とインクが降る町、その原因はよくわからないままでも丁寧で綺麗な情景描写に否が応でも引き込まれます。
SF的な近未来な世界観なのかなと思いきや、スプラトゥーンという言葉が出てくることから舞台は現代日本、日常に突如降ってきた傘というのを無理なく描写しているところがすごいなと思いました。

第2話の翔子と裕太の「死ぬとは思い込みなんじゃないか」という会話で、昔の友人が亡くなったと人づてに聞いたことを思い出しました。きっとその友人と葉もう会うことはなかっただろうから、訃報を聞かなければ友人はいつまでも生きていた、生きている/死んでいるという曖昧な境界線と、傘とインクが町を埋め尽くし人と人の境目がぼやける情景が重なりました。

第3話でのふたりの邂逅をもっとじっくり読みたいと思いつつ、それも想像の余地を膨らます装置なのかと思います。
死生観と幻想、ロマンティックさもある短編でおもしろかったです!

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傘と熱