恋心に気付くまで

かこ

よくある話……?

 あの子はあの人が好き、あの先生はあの先生にフラれた。四年生になってそんな話がぽっと出てくるようになった。

 そして、あたしと湊斗みなとが付き合ってるとも。みんな一緒の下校時間にほとんど同じ通学路ってだけなのに。


 初詣も、親同士が仲がいいから一緒に来てるだけでわざわざ二人で来たわけでもないのに。

 親しくもないクラスメイト達と居合わせて、いやな気持ちになった。面白がる目が近づいてくる。


千裕ちひろちゃん、デート?」


 ちがうよ、と答えても、ウソつかなくてもいいのにぃと笑われる。めんどうになって無視したら、ひそひそ話が背中から聞こえた。


「一緒に帰るのやめる?」


 やりとりを見守っていた湊斗が心配そうに訊いてきた。


「じゃあ、ぐうぜん・・・・、同じ時間に帰るときどうするの。どっちかが帰りたい時間に帰れずに、学校で待つって言うの?」


 にらみつけて言ってやったら、気まずそうに目をそらされた。

 あたし達がいけないことをしてるみたいじゃないか。全然、悪くないのに湊斗は一緒に帰るのがいやなんだ。文句を言ってやりたいけど、むしゃくしゃした気持ちがうまく言えなかった。

 やだ。なんか、やだ。楽しかった気分が台無しだ。

 人の波を追い越して、ずんずん進んだ。階段の手前まで来て、回れ右をする。つられて来てしまったけど、階段はきらいだった。頭から血を流した神社の階段は特にきらいだ。

 急な坂道をざりざりと歩いた。後ろからもざりざりと音がする。肩ごしに振りかえって、足を止めた。


「ついて来ないで」


 見下ろす位置にいる湊斗が、え、と言葉をつまらせた。

 悩む素振りを見せるから、少しだけ待つ。


ぐうぜん・・・・同じ時間に帰るのはいいんでしょ?」

「へりくつ」

「ヒロの言ってることがへりくつだよ」


 お互いに黙った。一歩もゆずらない。

 神社の方から、ゆき、というはしゃいだ声が降ってきた。

 にらみ合いをやめて見上げたのは、どっちが先だったのか。

 ちらちらと雪が降ってくる。コンクリートに落ちて、溶けて、消えて、また落ちて。

 すべるから気を付けるんよ、と離れたところから聞こえた。

 ざりざりと音がする。


「転けたらいけんから」


 差し出された手はあたしと変わらないのに、とても大人びて見えた。



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恋心に気付くまで かこ @kac0

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