後編

 そうしてハジメはこの「トータスの町」を拠点とし、鍛錬して実力をつけたり、人助けをして必要な金銭を集めたり、一緒に旅に出てくれる仲間を探したりと、旅の準備を整えることする。


 そしてようやく全ての準備が整うと、仲間とともに旅に出て、旅先でも仲間を増やしたり実力をつけ――――やがて長い道のりを経て(……だとは思うのだが、なぜだか今は、その間の出来事については、ハジメは詳しい内容を覚えていなかった)魔王城に辿り着き、ついにはラスボスの魔王を倒すことに成功してしまうのだった。



 そんなこんなでハジメとその仲間たちは人々から讃えられ、王城に招待され、国王からお褒めの言葉を賜ることになった。


 国王から「真の勇者ハジメよ」なんて声をかけられながら、ハジメはぼんやりと思う。

(こんなことになるなんて……はじめは勇者の格好した状態で、突然この世界に来ただけだったのに、そんなきっかけだけで勇者になって魔王まで倒せるものなのかな? 確かに途中で戦って実力上げたりとか、いろいろ苦労したりはしたけどさ……)

 ハジメはそんなことを考えつつ首をひねっていたが、ブレイブクエストのことを思い出し、途端に納得する。

(……まあ、ブレイブクエストでもそうか。はじめは弱くったって、旅に出さえすればなんとかなってたもんな……)



 ハジメが心の中でそんなことを思った――――その瞬間、突然ハッとして目が覚める。


 どうやら今いる場所は自分の部屋――元の世界のようで、机の上で突っ伏したまま眠ってしまっていたようだった。


 すぐ横に置いてあるスマホを見ると、1月1日の0時40分――いつの間にか、新しい年を迎えていた。


(あっ、今のって、これ、今年の初夢だったのか……)

 それを悟ったと同時に頭痛がして、ハジメは思わず顔をしかめる。

「まだ慣れてないお酒を飲んだからかな……変な夢見たな。何かやけにリアルだったし……結局あれは、どこからが夢だったんだろ」

 ハジメはそう呟いた後、ハッとして辺りを見渡す。

「あ、そうだ。あのスターターキットとかいうのは……?」


 ハジメがきょろきょろと辺りを見渡すと、机の上に見慣れないものが置いてあることに気が付き、それを手に取る。

 それは本だったが、そこに書かれていた文字は『勇者のしおり』ではなく――『ゲームクリエイターになるには』というタイトルの本だった。

 そしてその本の上には、雑な字で走り書きのしてあるメモが置いてあった。


「ハジメへ。ゲームが好きだったお前は、もしかしたらこういうのにも興味あるんじゃないかって思って、持ってきたんだ。もし気が向いたら読んでみてくれ。叔父さん実は今、こういう仕事してるんだ。何か相談したいことがあったら、いつでも連絡待ってるからな。じゃ、良い一年を! トキオ叔父さんより」


「……なんだ、僕がトキオ叔父さんからもらったのって、『勇者スターターキット』なんかじゃなくて、本当はこっちだったのか」


 何がどうなって、もらったものが「勇者スターターキット」になるなんて夢を見たのかはわからないが――――あんな夢を見た後では、ハジメにとってはこの本が、自分が密かに憧れを持っていたゲームクリエイターという職業に繋がる、「夢を叶えるためのスターターキット」のように感じられた。


(トキオ叔父さん、何で誰にも言ったことのない、僕の密かな夢のこと知ってるんだろ。ただの偶然かな。でも……ありがとう)

 ハジメは心の中でトキオ叔父さんに感謝しながら、その本のページをめくってみる。

(とりあえずこれを読んでみて……これからのこと、じっくり考えてみるか。今の大学はどうするかとか、親にこのことどう言おうとか、まだまだ問題は山積みだけど……。でもゲームを作る仕事なんて、特に取柄のない自分なんかにはできないって勝手に思い込んでいたけど、勇者の世界みたいに、案外飛び込んでみたら叶うことなのかもしれないから……今更だけど、挑戦してみたい気がする)


 勇者になった時のように、時には誰かに助けてもらったりしながらも、自分を磨いて目標に向かって突き進んでいけば、きっと何でもできる。だって、さっきは世界を救う勇者にだってなれたのだから。


 そんなことを思いながら、心の奥底に抱いていた夢を目指すことを考え始める……そんなハジメの新年の始まりであった。



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勇者スターターキット ほのなえ @honokanaeko

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