特別編:魅惑と妖艶な甘さ

 1945年2月13日の千葉県房総半島の北東部にある夜刀浦やとうら


 一年前に一郎率いる『祖国存続派』によるクーデターで現政権は打倒され、アメリカを含む連合国と和平を結び第二次大戦は終戦となった。


 一方の正太郎は三年の長期休暇を貰い、蛯子と共に自分の生家の別邸で過ごしていた。


 正太郎は休暇中の副業として夜刀浦大学の技術開発学部の助教授を務めていた。


 昼時、正太郎は黒のスーツを着て中庭が一望出来る和室で、胡座になって机に広げてた青用紙に七四式人型機動軽装甲車NGM型式番号041-B01Bの図面を描いていた。


「ふむ。やっぱり腕と足の関節部分の動きに耐えれる金属が現時点ではないよな。でもなぁー・・・」


 すると中庭に両肩に温かい布を羽織った巫女服の蛯子ひるこが笑顔で現れる。


「正太郎!お仕事は終わったの?」


 正太郎はまとめる手を止め、笑顔で頷く。


「ああ、終わったよ蛯子」


 蛯子は草履を脱ぐと正太郎へと近づく。


「こっちに建ててもらった尉樹羅神社には慣れたか?」


 蛯子は笑顔で頷く。


「ええ、大丈夫よ。正太郎、わざわざ、お母様と私の為に永伊家の空き地に神社を建て、ありがとう」

「いいんだよ。お父さんやお母さんもお前のことを凄く気に入ってるから」


 すると蛯子の雰囲気が急に妖艶になり、正太郎の背中から抱き付きながら彼の首筋に何回もキスをしたり、舌で舐めたりする。


 正太郎は蛯子が何を求めているのかを察し、ニヤリッと笑う。


「蛯子、まだ昼だから夜まで我慢だ」


 蛯子は猫が物欲しいそうな表情で正太郎の股の間を触る。


「えーーーっ夜まで待てないわよ。最近は大学のお仕事で全然、していないじゃい。もう体が疼いちゃって今すぐしましょ」


 だが、正太郎はそんな蛯子を止めて、ある事を聞く。


「なぁ蛯子、明日に必要なことを今日、しなくちゃいけない

んじゃ」


 それを聞いた蛯子はハッとなる。


「あ!そうだったわ。私ったらつい」


 蛯子は立ち上がりウキウキとした気分で台所に向かう。


「なぁ蛯子、明日を楽しみって昨日、言っていたけど、それって何なんだ?」


 すると蛯子は立ち止まり、クルッと振り返り、笑顔で右手の人差し指を上に真っ直ぐにして鼻に当てるのであった。


 その日の夜、蛯子はアルミ製のボールで溶かしたチョコに小さな瓶に入った液体を入れ、混ぜながらニヤニヤとする。


「よし!これで後は型に流し込んで固めるだけ。これを食べた正太郎はきっと!ぐふっぐふふふふふふふふ!」


 そして蛯子はチョコを型に流し込み冷蔵庫へと入れるのであった。



 同年2月14日の昼時、夜刀浦の商店街通り『はいどら』を一人、九八式軍衣袴の姿で歩く正太郎は終戦後とは思えない、多くの女性で賑わっている事に不思議に思う。


「今日は何でこんなに人が多いんだ?それも女性が?」


 正太郎は人々を掻き分けながら家へと向かう。


 家に向かう途中で正太郎は伊樹羅神社に立ち寄りる。


 赤い鳥居に整えられた石の道、左右には小さな森林と立派な拝殿と手水舎、拝殿の前には狛犬の様に座った猫の石像が置かれていた。


 そして正太郎は手水舎で手を洗い、百円札を賽銭箱に入れて鈴を鳴らし一礼二拍手をする。


「伊樹羅様、いつか我が子が産まれましたら必ず来ます。それまで私と蛯子をお守り下さい」


 正太郎は一礼をして別邸へと帰宅する。


「蛯子!帰ったぞーーーーっ!」


 戸を開けながら玄関に入り、靴を脱ぎ家の中に上がる。


「おーーーーい!蛯子!いないのか?」


 正太郎は洗面台に向かい手を洗い、うがいをする。そして和室へ向かうと、そこには敷かれた布団の上で乱れた様に紫と桃色の生地に白い桜の花弁が描かれた浴衣を着て正座をする蛯子が妖艶な笑顔で待っていた。


「おかえり正太郎。待っていたわよ」


 その光景に正太郎は思わず生唾を飲む。


「おいおい蛯子、どうしたんだ?こんな昼間から」

「うふふふっ今日はバレンタインデーだから正太郎にチョコをあげたくて」


 バレンタインデーと聞いた事がない言葉に正太郎は首を傾げる。


「蛯子、そのバレンタインデーって何だ?」

「バレンタインデーって海外の文化で好きな人に甘いお菓子を贈る日なの」


 それを聞いた正太郎は納得する。そして蛯子は中型の正方形の木箱を後ろから出すと蓋を開ける。


「はい、私の手作りチョコレートよ。たーんと食べてね」


 蛯子は笑顔でハート型のチョコレートを見せると、正太郎は正座をして大喜びする。


「こいつは美味しそうだ。じゃいただきます」


 正太郎はハート型のチョコレートを手に取り食べるが、なぜか蛯子はニヤリッと怪しげに笑う。


「うん!うまい!お菓子を食うのは久しぶりだ。ほろ苦い旨さと優しい甘さ!このチョコは最高だよ蛯子」


 正太郎の正直な感想に蛯子は笑顔で頷く。


「そう。それはよかったわ」


 そして正太郎は蛯子の手作りチョコレートを全て食べ終わると満足そうな笑顔をする。


「美味かったよ蛯子、ありがと・・・・うっ⁉」


 突然、激しい火照りが正太郎の体を襲い、彼は蹲る様に前に倒れ込む姿に蛯子は四つん這いで彼に近づくが、その笑顔はまるでオスを求める欲情したメスの様な目となっている。


「おまっ!・・・一体何をした!・・・はぁ!はぁ!はぁ!はぁ!はぁ!・・・体がぁ!あ、熱い‼」


 滝の様に汗を流す正太郎の問いに蛯子は答える。


「ふふふふっ♬実はさっき正太郎が食べたチョコにはニャルラトホテプ様、直伝の強力なび・や・く♡を入れたの」


「び!媚薬だと⁉」


 正太郎はそう言いながら前を向く。


「そうよ♡だって正太郎、最近はお仕事が忙しくて全然、私のことを抱いてくれないじゃん。だから、ちょっと強引な手に出たの♡」


 右手で頬を触りながら笑顔で言う蛯子の姿は途轍もない妖艶な雰囲気を放っている。そして正太郎はついに蛯子の雰囲気に耐え切れなくなり彼女を勢いよく押し倒す。


「きゃっ♡もう正太郎ったら♡まだ、お昼なのにそんなに私が欲しいの?」

「ああ!もう我慢出来ない!蛯子!お前のせいだからなぁ!今日は夜中まで付き合ってもらうぞ!」

「いいわよ♡来て♡正太郎♡私をあじわって♡」


 正太郎は着ていた九八式軍衣袴を瞬時に脱ぎ捨て、そして正太郎は蛯子が着ている浴衣を剥ぐ様に脱がす。


「蛯子ぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

「いやぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーん♡」


 蛯子の企みではあったものの二人は夜になるまで激しく、そして求め合うのであった。



あとがき

バレンタインデーが近いので執筆しました。

今回はかなり責めた描写に挑戦しましたが、ギリギリセーフだと思います。

皆様はどんなチョコが好きですか?私は色んなチョコが好きですが、やっぱり一番に頭に浮かぶの好きなチョコがブラックサンダーです。

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古き神の娘の恋歌 IZMIN @IZMIN

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