第3話:イジュラの救いとそして・・・
1944年11月15日のお昼、閉山した鉱山に出来た地下司令部に移した正太郎は机の上に広げられた島の地図を使って防衛作戦の制作をしていた。
「えーと、ここの配置はこの部隊で、支援の部隊はこれでよしと、後は・・・」
すると一人の略帽を被った兵士が慌てた表情で駆け足で正太郎の前に現れる。
「連隊長ーーーーーーっ!連隊長!」
現れた兵士が敬礼をしたので正太郎も椅子から立ち上がって敬礼をする。
「どうした伍長、何があった?」
「はっ!実は島の南部の沖に軍艦が現れました」
「軍艦?敵艦か?」
正太郎の問いに伍長は首を横に振る。
「いいえ、帝国海軍の重巡洋艦で艦を指揮していた艦長が連隊長にお会いしたいとボートで上陸しています」
「分かった、会おう。それで艦長はどこにいるんだ?」
「連隊長が前に使っていた仮の連隊司令部だった民家に居ります」
正太郎は机の端っこに置いてある四五式軍帽を被り、木製の縦刀掛け台に掛けてある赤い鞘と黒の柄の愛刀、『
坑道を出て舗装された山道をしばらく歩っていると開けた山道に出ると沖の方に重巡洋艦が停泊しており、その姿に正太郎は目を疑った。
「あれは・・・高雄だ!いや、でも高雄は敵の攻撃を受けてシンガポールで修理中じゃ」
正太郎は不思議に思いながらも仮司令部の民家へと向かう。
民家の前に着くと伍長は正太郎に敬礼をし、去る。
そして正太郎は玄関から入り家に上がるとそこには白色の軍帽と第2種軍装を着た男性が胡坐でおり、正太郎は驚く。
「いっ!一郎叔父さん!」
「よ!正太郎。元気していたか?」
一郎が気軽に挨拶をすると正太郎も同じ様に挨拶をする。
「てことは、あの高雄は五番艦の
正太郎の問いに一郎は笑顔で頷く。
「ああ、そうさ。実は本土防衛の為にフィリピンを経由して日本へ戻る途中で敵潜水艦の雷撃を艦尾に受けてスクリュウーと舵がダメになってなぁ」
それを聞いた正太郎は納得した表情をする。
「あぁーーーーっ修理だな。分かったよ叔父さん。北の入江の洞窟に軍港があるから直ぐに軍港にいる二隻の第101型輸送艦を向かわせて赤牟を牽引させるから」
安心した一郎は立ち上がり素直に喜ぶ。
「おぉぉ!そうか。いやぁーーーっ助かるよ正太郎!」
そして二人は笑顔で厚く握手をするのであった。
正太郎の命令で出動した二隻の第101型輸送艦は赤牟を艦首から牽引し、北の入江にある洞窟の軍港に赤牟を艦尾から入港させた。
一方の正太郎と一郎は鉱山で使用されていたトロッコで先に軍港に着いており、日本海軍が誇る重巡洋艦の大きさに正太郎は興奮する。
「おぉーーーーっ‼さすが高雄の五番艦!本土の軍港で遠くから何度も見たことはあったが、間近で見ると迫力が違うなぁ!」
「そうだろう!まぁこの高雄型もこいつとシンガポールで修理中の高雄を残して轟沈したからな」
一郎はそう言いながらどこか悲しそうな表情をする。するとそこに駆け足で巫女服を着た蛯子が現れる。
「正太郎ーーーっ!ここに居たのね!もぉーーーーっ!お昼ご飯、神社で一緒に食べようって約束したじゃん」
正太郎はあっとなり、申し訳ない表情で後頭部を右手でかく。
「すまない蛯子、叔父さんの船の対応で神社に行けなくって」
すると蛯子を知らない一郎は正太郎に問う。
「なぁ正太郎、この巫女さんは誰だ?」
「ああ、この人は蛯子。この島にある古墳、尉樹羅古墳を管理する巫女で俺の婚約者だ」
それを聞いた一郎は驚愕するのであった。
「なっ!お!お前が!結婚だと⁉本当か?」
正太郎は少し照れながら笑顔で頷く。
「ああ、本当だよ。結婚式はまだだけど」
「蛯子と申します。一郎叔父様のことは正太郎からよく聞いていますわ」
蛯子が笑顔で一礼すると一郎もたどたどしながら軽く一礼をする。
「いっ一郎です。これからも甥っ子をよろしくお願いします」
それから三人は神社の民家でお昼ご飯を食べながら談笑するのであった。
■
1944年11月20日の昼、正太郎は報告書を手に地下陣地にある通信兵の元に向かう。
「お疲れ通信兵長」
正太郎が笑顔で挨拶をすると椅子に座っている通信兵長も振り返って笑顔で挨拶をする。
「お疲れ様です。大佐殿。実は先程から友軍らしき通信を傍受しまして」
「友軍?ちょっと聞かせてくれ」
通信兵長は両耳に付けていた通信用ヘッドホンを外し正太郎に渡す。
正太郎は右耳にヘッドホンを片方だけ当てて傍受した無線を聞く。
「・・答・・・願う・・こちら・・・海軍・・第・・・航・・隊・・現在・・・日本・・内・・・ただちに・・着・・・したい・・ど・・・ぞ」
「雑音が酷いなぁ。受信力をもっと上げられないのか?」
正太郎の問いに通信兵長は首を横に振る。
「無理です。ここにある無線機ではこれが最大ですので」
それを聞いた正太郎は少し考え、ある事を思い付く。
「よし!海軍の無線機を使えば、はっきりと傍受出来るかもしれない。すまないが、兵長。この報告書を至急、本土に打電してくれ」
正太郎はヘッドホンを机に置き、報告書を通信兵長に渡す。
「了解しました大佐殿」
通信兵長は敬礼し、正太郎も敬礼をする。そして正太郎が去ると通信兵長は報告書の内容を見ながらモールス信号を打ち始める。
鉱山で使用していたトロッコに乗って北の入江の洞窟内の軍港に着いた正太郎は少し急足で赤牟に乗り込み通信室へ向かう。
通信室へ着くとそこには一郎が通信水兵と共に無線を聞いていた。
「一郎叔父さん、何しているの?」
一郎は右の方を向き答える。
「ああ、正太郎。実はさっき友軍らしき通信を傍受して何とか上手く受信出来ないかやっているところだ」
「その通信、俺も聞いたくて。うちにある通信機では受信力が弱くて、だからここのを借りようと思って」
「そうか。正太郎」
すると椅子に座って無線機のダイヤルなどを操作していた通信水兵が慌てる様に振り向く。
「艦長!艦長!傍受出来ました!やはり我が軍の零戦からのです!」
それを聞いた一郎は通信水兵に命令をする。
「聞かせてくれ」
「了解!」
通信水兵はヘッドホンのコードを抜き、スピーカーに切り替える。
「応答願う!こちらは海軍航空隊所属、第二八二海軍航空隊!現在!日本領内を飛行中!着陸を求む!繰り返す!着陸を求む!緊急の伝令がある!」
パイロットの逼迫した口調に正太郎と一郎はただ事ではないと察する。
「正太郎!着陸出来る所はあるか?」
正太郎は腕を組んで急いで考える。
「うんーーーー。この島にはないが、北の港に停泊している揚陸艦のいんすますの上部滑走路なら」
「分かった!通信水兵!すぐに飛行中の零戦と連絡しろ!」
通信水兵は敬礼をし、マイクを使って飛行中の零戦に通信する。
■
それか正太郎と一郎はいんすますの上部滑走路に居り、しばらく待っていると一機の応急迷彩をした零式艦上戦闘機六三乙型が現れる。
空母に比べると明らかに短い、いんすますの上部滑走路に零戦六三乙型は見事に着艦する。
エンジンが止まり、コックピットの風防が開き航空衣袴を着た男性が降り、正太郎と一郎の元に向かう。
「私は海軍航空隊、第二八二海軍航空隊所属の鬼山 平一中尉であります!」
鬼山は敬礼すると正太郎と一郎も彼に向かって敬礼をする。
「ご苦労、中尉。それで緊急の伝令とは?」
一郎の問いに鬼山は敬礼を解き、気をつけで答える。
「はっ!実は我が隊は先程、輸送機隊の護衛中に、この島に向かう米艦隊と遭遇。複数の米艦上戦闘機と交戦し、輸送機は何とか逃がせたのですが、我が隊は私を残して全滅しました」
アメリカ艦隊に近づいている事を聞いた正太郎は驚愕する。
「何⁉敵艦隊が接近中だと!で、敵艦の位置は中尉?」
「はっ!大佐、敵艦はここから南に約500kmの位置に居ました」
「何⁉500だと!まずいぞ!このままじゃ島民の避難が間に合わないぞ!分かった中尉、ありがとう。君は休んでいてくれ」
正太郎の命を受けた鬼山は正太郎に敬礼をして、いんすますの艦内に入る。
そして正太郎は右手で下顎を触りながら考える。
「くそ!今、避難準備を始めたばかりなのに!距離と速力を考えると米艦隊の到着は二日以内だな!予定日を繰り上げても避難が間に合わないぞ!」
すると一郎がある提案を正太郎にする。
「正太郎!うちの艦で手の空いている乗員を何人か回す!それで何とかなるかもしれない!」
「分かった叔父さん!ありがとう!じゃ俺は直ぐに島民の皆に説明しに行くから!」
「ああ!」
正太郎は急いでいんすますを降り、走って行くのであった。
その後、正太郎の説明を聞いた島民達は納得し急いで準備を始めるが、一方で正太郎は神社の民家の和室で蛯子と激しく口論していた。
「なぁ蛯子!分かってくれ!この島は戦場になる‼ここに残るのは危険だ!すぐに本土に行く、いんすますに乗るんだ‼」
蛯子は首を激しく横に振り、険悪な表情をする。
「嫌よ!あなたと離れるなんて絶対に嫌‼離れるくらいなら私も戦う!だから、側に居させて‼」
すると突然、正太郎は右手で蛯子の頬を叩く。
「お前の戦う場所はここじゃない‼正直に言う!お前が居ると邪魔なんだ‼だから早く、この島から出て行け!」
後ろを振り向き冷たく突き放す正太郎の姿に蛯子はショックを受ける。
「正太郎の!・・・バカァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ‼」
蛯子は涙を流しながら和室を飛び出す。一方の正太郎も右手で両眼を覆う様に大粒の涙を流し悲しんでいた。
「すまない蛯子!お前が側に居てくれるのは凄く嬉しいかったが‼俺達は国を守る為にこの地で玉砕する!大切なお前を失うのは嫌だ!こんな俺を許してくれ‼」
その日の夜、蛯子は古墳の奥で一人、石柱に背中を預け蹲る様にして泣いていた。
「正太郎のバカ!私を助ける為にあんなバカな態度を!どんな時でも一緒じゃなきゃ嫌よ!」
すると蛯子は立ち上がり、母親であるグロテスクな口と目に無数の触手を生やしたイジュラの絵が描かれた石柱の前に向かい土下座をする様に深々と頭を下げる。
「お母様!お願いします!どうか!私の願いを聞いて下さい!私の命はどうなっても構いません‼ですが!どうか!どうか!正太郎を!正太郎達を守って下さい!私の愛する人を助けて下さい!」
蛯子は涙を流しながらイジュラの絵に向かって懇願をするのであった。
そして翌日には全島民を乗せた、いんすますは出航の準備をしていた。それを見ていた正太郎は無論、悲しい表情をしていた。
「すまない蛯子、今までありがとう。そして・・・さようなら、俺が愛した人よ」
少し俯きながら言う正太郎は直ぐに左腕で涙を拭い、前を向き凛々しい表情で四五式軍帽を被る。そして他の兵士達が去るなか正太郎は一人、その場に残り、いんす
ますが出航する所を敬礼しながら見送るであった。
「正太郎‼」
すると突然、後ろから蛯子が抱き付いて来た事に正太郎は驚く。
「蛯子!お前‼いんすますに乗ったんじゃないのか!」
「バカ!どんな事があっても私はあなたの側にいるわ!それにあなたを失うのは絶対に嫌よ!だから、お願い!側に居させて!」
蛯子の揺るがな意志の前に正太郎はハッとする。
「蛯子!俺も!俺も!」
正太郎は振り向き、涙を流しながら蛯子を強く抱きしめる。
「すまない蛯子!お前を失うことが怖くて!でも俺もお前と離れるの嫌だ!お前のことを傷付けた!こんな俺を許してくれ!」
蛯子は涙を流しながら笑顔で彼の頭を撫でる。
「いいのよ正太郎。これからもずっと一緒だから」
「ああ、ずっと一緒だ」
そして正太郎と蛯子は、その場で静かに熱くキスをするのであった。
■
時は戻り1944年11月21日、正太郎と蛯子は過去を語り合い談笑していた。
「あの時はすまなかった蛯子。お前を守る為とは言え打ってしまって」
蛯子は軽く首を横に振る。
「いいの。私は分かっていたから。あなたが私を守る為にわざと酷い事をしたのわ」
「ありがとう蛯子」
すると突然、けたたましい爆発音が鳴り響くのと同時に地下陣地が激しく揺れ始める。
蛯子は恐ろしくなり正太郎の元に駆け寄る。
「正太郎!」
駆け寄って来た蛯子を守る様に正太郎は抱きしめ、少し険しい表情をする。
「来たなぁ」
島の沖合にはモンタナ級弩級戦艦の『モンタナとオハイオ』にレキシントン級巡洋戦艦の『コンステレーションとレンジャー、コンスティチューション』にファーゴ級軽巡洋艦の『ニューアークとニュー・ヘヴン、バファロー、ウィルミントン』にボルチモア重巡洋艦の『ノーフォークとスクラントン、ケンブリッジ、ブリッジポート』にギアリング級駆逐艦の『カースルとセイモア・D・オーエンス、ホーエル、アブナー・リード、シーマ、チャールズ・H・ローン』にコメンスメント・ベイ級航空母艦の『バストーニュとエニウェトク、リンガエン、オキナワ』にミッドウェイ級航空母艦の『フランクリン・D・ルーズベルトとコーラル・シー』で編成された尉樹羅島攻略艦隊が第2海兵遠征軍を乗せた強襲上陸艦隊を護衛し、島を囲む様に停泊し各戦艦が一斉砲撃を行なっていた。
その光景をモンタナの艦橋のデッキから少し中年の白人男性が双眼鏡で観ていた。
「暗くてよく分からないが、ジャップの被害が甚大だろう」
「しかし、ピッツ司令艦長、ペリリューの一件があります。油断は禁物です」
彼の隣で艦橋デッキにある固定式の双眼鏡で島を観る黒人男性が言うとピッツはフッと笑う。
「心配するなエド副艦長。明日は念入りな作戦会議が行われるから直ぐには上陸しない。まぁ、確かにペリリューのことを考えると三日以内の攻略は不可能だな」
そう言いながらピッツは艦橋に入る。
翌朝、南部の山岳の少し開けた山道から偵察用の為に連隊に四両が配備された内の一両である37mm戦車砲搭載型の九七式軽装甲車 テケの砲塔ハッチから双眼鏡で戦車長が沖合を見ていた。
「こりゃヤベ!まだ上陸の予兆はないが、急いで連隊長に報告しないと!」
そして連隊長は双眼鏡を目から外し、砲塔内に入る。
「おい!急いで連隊長の居る鉱山に向かってくれ!」
前に座る操縦士は顔だけを後ろに振り向く。
「分かりました」
操縦士はアクセルを深く踏み、テケを急発進させる。
鉱山の入り口まで着いたテケはそのまま鉱山内へと入る。坑道内では銃火器を手に持ちながら九八式鉄帽を被った兵士達が慌ただしく動き回っていた。
そしてテケは停止し、戦車長は砲塔ハッチから下車し駆け足で右の坑道に入り他の大隊長達と話し合いをしている正太郎の前に立ち、敬礼をする。
「連隊長!報告します!敵艦隊は島を囲む様に沖合に停泊!今の所は上陸の予兆はありませんが、明日にでも、また上陸の為に砲撃を行うかもしれません!」
話し合いを一旦、中断させ戦車長からの報告を聞いていた正太郎は頷く。
「分かった!報告、ご苦労だった。君は下がって休みたまえ!」
「ハッ!」
戦車長が敬礼すると正太郎も敬礼する。そして戦車長は振り返って、その場を去るのであった。
そして正太郎は再び椅子に座り、腕を組んで真剣な表情で顔を俯ける。
「いよいよだなぁ・・・」
そう呟くと正太郎は前を向き、キリッとした表情となる。
「各大隊隊長に告げる!迎え撃つ準備を午前中に終えよ!そして午後は全兵士達に休息を取らせるんだ!いいな!」
左右に座っている大隊隊長は武士の様な勇ましい表情で頷く。
「「「「了解であります!連隊長殿ッ‼」」」」
その夜、準備を終えた兵士達は夕食を取り、お湯で濡らしたタオルで体を隅々まで拭いて清潔な九八式軍衣袴に着替えた後は九八式鉄帽を被り銃火器を手に取る。
そして再び爆発音と揺れが起き始め、いよいよ上陸が迫っている事を察した正太郎は四五式軍帽を被り、机に置いてあるスタンド型のマイクのスイッチを入れる。
「諸君!いよいよ米軍が明日、この島に上陸する!しかし!忘れるな‼これは軍の勝利やましてや天皇の為ではない!これは祖国の未来の為!そして大切な家族と愛する人を守る為の戦いだ‼」
それを坑道内のスピーカーから兵士達や椅子に座って杖の様に柄と鞘が黒い愛刀の『
「我々は、この島で玉砕するであろう!しかし!我々の戦いと勇姿は決して無駄にはならないであろう‼皆!最後の一兵になるまで戦おう‼」
そして正太郎は右腕を大きく上に突き出す。
「えい!えい!おーーーーーーーっ‼」
一郎や兵士達も立ち上がり、同じ様に右腕を大きく上に突き出す。
「「「「「「「「えい!えい!おーーーーーーーっ‼えい!えい!おーーーーーーーっ‼えい!えい!おーーーーーーーっ‼えい!えい!おーーーーーーーっ‼」」」」」」」」
■
翌朝、艦砲射撃や艦上爆撃機の爆撃によってLCVPやLCM4、LVT、LST-1級戦車揚陸艦を使って島の南部に強襲上陸した第2海兵遠征軍の第1海兵上陸師団は南部を防衛する独立歩兵第14大隊と独立砲兵第15大隊からの激しい攻撃で多くの犠牲を出しながら大混乱となっていた。
「ファック!上の奴らめ‼何が三日で攻略出来るだぁ!」
「くそ!くそ!くそーーーーーっ‼おい!早く砲撃支援を頼め!」
「さっきから無線で行っているが!全然!効果がない!」
「仕方ない!とにかくシャーマンを盾に進むしかない!行くぞぉーーーーーーっ‼」
P1941HBT一式を着こなし迷彩カバーを付けたM1ヘルメットを被ったアメリカ海兵達はM1ガーランドやM1カービン、M1A1トンプソン、M3A1グリスガン、M1918A2後期型、キャリングハンドルを付けたM1919A4、ウィンチェスターM1912を装備し山岳に向かって応戦していた。
M4A2シャーマンやM24チャーフィーも主砲や副武装の機関銃で応戦していたが、火砲類の砲撃で確実に次々と撃破されて行った。
一方の地下塹壕から至る所に作られた外が見える隙間から独立歩兵第14大隊は三八式歩兵銃、四四式騎兵銃、九九式短小銃、四式自動小銃、九七式または九九式狙撃銃、一〇〇式機関短銃二型、九六式または九九式軽機関銃、九二式重機関銃で上陸したアメリカ海兵隊を射撃していた。
「撃て!撃て!手を休めるなぁ‼」
「おい!弾だ!弾を持って来てくれ!」
「アメ公め!いい気になるなよ!」
「俺達が必ず国を守る!掛かって来い米兵‼」
独立砲兵第15大隊はコンクリートで作られたトーチカから五式野砲、機動九〇式野砲、九九式十糎山砲、機動九一式十糎榴弾砲、九六式十五糎榴弾砲、九九式小迫撃砲、九七式曲者歩兵砲、二式十二糎迫撃砲、九八式臼砲で砲撃をしていた。
「撃て‼︎奴らに思い知らせてやれ!」
「臼砲弾!準備よし!撃て!」
「次弾装填よし!撃てぇー‼︎」
「左へ10度修正!迫撃砲弾よーい!発射ぁーー‼︎」
さらに北部でも強襲上陸した第2海兵遠征軍の第2海兵上陸師団は北部を防衛する独立歩兵第16大隊と独立戦車第17大隊、さらに入江の洞窟の赤牟からの激しい攻撃で多くの犠牲を出しながら砂浜で大混乱となっていた。
「シィット!おい!敵の重巡洋艦が居るなんて聞いていないぞ!」
「くそ!俺達は上陸出来ても他の奴らは海上で殆どやられている!」
「おい!雷撃要請だ‼︎あの重巡洋艦を黙らせろ!」
「ダメです!大尉‼︎入江は一直線で雷撃機が次々と重巡洋艦の対空兵装に堕とされています!」
「ちくしょーーーーっ!とにかく黙らせるんだ‼︎」
一方の独立歩兵第16大隊は銃火器の他に地下陣地と繋がった外に作られた塹壕から八九式重擲弾筒や四式自動小銃に付けられた九一式擲弾器を使って応戦していた。
「この野郎!お前らの好きにはさせんぞ!」
「くらえ!アメ公ども!」
「ここから先は行かせないぞ!米国人ども!」
「さぁ来い!ここがお前達の墓場だ‼︎」
独立戦車第17大隊は鉱山の入口から主力のチヌ、チト、チリ、ホイで浜辺や向こう沖に向かって砲撃する。
「撃てぇーーーーっ‼︎何が何でも日本を守るんだ!」
「二時方向へ砲塔を回転!奴らに砲弾をお見舞いしてやれぇーーー!」
「アメ公戦車め!新型戦車の実力を思い知れ!」
「食いやがれぇー!どうだ、チトの恐ろしさを!」
洞窟内の赤牟は艦首に搭載された主砲、三年式二号20.3cm連装砲二基で浜辺や沖合を砲撃し、艦橋に装備された九六式25mm三連型機銃二基と艦首デッキに付けられた九三式13mm単連型機銃四基で向かって来る米雷撃機を撃ち落としていた。
「撃て!撃ち続けろぉ!」
「敵機を近づけるなぁ!叩き堕とせぇー‼︎」
「くっそーーーー!堕ちやがれぇーーーーー‼︎」
「おい!弾だ!弾を持って来たぞ!」
正太郎は連隊長司令部で椅子に座ってテーブルの地図を見て戦場の動きを予測していた。
するとテーブルに置かれた九二式野戦電話の受話器が鳴り、手に取る。
「はい!ああ!分かった。南部は引き続き敵を出来る限り足止めしろいいな?」
受話器を電話に戻し赤鉛筆を手に取ると地図に現在の戦線を書く。その右では蛯子が椅子に座りテーブルに置かれた小さな石のアザトース、ヨグ=ソトース、ニャルラトホテプ、そしてイジュラの像に向かって手を合わせブツブツと祈っていた。
すると突然、蛯子がクワッとなり立ち上がるので作戦中の正太郎は驚く。
「お・・・おい!蛯子、どうした?」
「来る!」
「え?」
蛯子はそう言うと外へ向かって走り出すので正太郎は慌てて後を追うのであった。
「おい!蛯子、待て!どうしたんだ!」
外に出ると蛯子は笑顔で上を向きながら右の人差し指で天へと向ける。正太郎は蛯子が指差す方を見て驚愕する。
「なっ⁉・・・何だ!あれは⁉」
空にはこの世のものではない赤紫色の光を放ちながら渦を巻く黒雲が快晴だった空を覆っていた。
「お母様!お母様が来てくれたのよ正太郎!」
目を輝かせ大喜びする蛯子であったが、正太郎は今起きている事が理解出来ず、言葉を失っていた。
一方、戦場では両軍ともに突然、発生した黒雲と殺気を感じる強い風に戦闘が自然と停止する。
艦橋のデッキから戦場を見ていたピッツ艦長とエド副艦長は発生した黒雲に驚きを隠し切れずにいた。
「艦長!あの雲は何ですか?」
「分からない副艦長!だが、警戒は解くな!」
すると雲から海からグロテスクな巨大触手が無数に現れ、次々と島を囲むアメリカ艦船を次々と襲い始め、島の方では空から地の底から恐竜の様なグロテスクな生物が次々と現れ上陸したアメリカ海兵隊の兵士達を襲い始める。
「おい!何だありゃ!」
「シット!シット!こんなことがあってたまるかぁーーーーーーーー!」
「誰か!誰か助けてくれぇーーーーーーーーー!」
「撤退だ!総員撤退!大至急!浜辺まで戻れーーーーーーーーーー!」
撤退しようにも艦船は触手に次々と破壊され、その触手によって無残に潰されるか、グロテスクな生物に食い殺されるかのどちらかであった。
戦場に響き渡る肉と血が混ざった鈍い音、骨が砕かれる音、無数の恐怖と狂気に満ちた悲鳴が上がっていた。
数時間が経過したであろうか、何とか船に戻れたアメリカ海兵は数百人に満たず、また島の海域から逃れた艦船も二隻のビクトリー船とモンタナ、ホーエルのみであった。
モンタナでは副艦長のエドが完全に廃人化し、艦長のピッツは瘦せこけた様な有様で天を見上げていた。
「あぁーーっ神よ。どうか神の教えに反する我を許したまえ」
そう言うとピッツは艦橋のデッキから海に向かって身を投げるのであった。
一方の正太郎は突然、起きた事について蛯子に問う。
「おい蛯子、一体何が起きたんだ?」
天を見上げる蛯子は振り向き、笑顔で答える。
「お母様よ!私の母、イジュラ様よ!」
そして蛯子は両膝を地面に着け、目を閉じ合わせた両手を高々と上げる。
「お母様!ありがとうございます!私の願いを聞き入れて下さり本当にありがとうございます‼」
蛯子の姿と答えに正太郎は何故か不思議と理解するのであった。
■
イジュラの出現から一週間、第44連隊は無惨な状態となった米海兵隊の上陸部隊から使える武器と弾薬、さらには燃料や物資を回収していた。
未知の存在によって一帯は血の海と化した戦場跡に一人の若い兵士が嘔吐する。
「中国戦線でいくつも酷い戦場を見たけど、これはあまりにも酷い!」
すると燃料が入ったドラム缶を転がす一人の中年兵士が彼に駆け寄り、優しく背中を摩る。
「俺もだよ。こんな地獄絵図の様な光景は初めてだ。お前は休んでいろ。後は俺達がやるから」
若い兵士は申し訳ない表情で軽く頷く。
「はい、ありがとうございます。伍長」
若い兵士は近くにあった木箱に腰掛けて休憩する。
一方、正太郎は書類を整理しながら椅子に座って報告書を制作していた。
すると通信兵長が駆け足で現れる。
「大佐殿!本土より打電がありました!」
それを聞いた正太郎は驚き立ち上がる。
「本土から?内容は」
「ハッ!こちらです!」
通信兵長から渡された打電書を受け取った正太郎は唖然とした。
「まさか・・・」
「どうしたんですか?大佐」
一緒に書類を整理していた副連隊長の問いに正太郎は答える。
「ああ、本土からの打電だ。『二日後ノ早朝、いんすますガ尉樹羅島ニ到着セリ。島ノ守備隊デアル独立混成第四四連隊ハ、タダチニ撤収ノ準備ヲ行エ。二個大隊ヲいんすますへ、残リノ二個大隊ヲ赤牟ニ乗船セヨ。マタ戦車ヤ火器類オヨビ物資ヤ弾薬ヲ二隻ノ第一〇一型輸送艦マタハいんすます、赤牟ニ積ミ込ミセヨ。』っだそうだ」
撤収命令を聞いた副連隊長も驚く。
「撤収ですと!それは本当ですか?」
「ああ、そうだ。生き残った俺達を本土決戦用の戦力として戻したいんだろう。それに続きがあって、『マタ本土ニ戻リ次第、四四連隊ハ千葉房総半島、
正太郎は少し呆れた表情をする一方で副連隊長は守備地を聞いて嫌な顔をする。
「ええぇ!?
すると正太郎は笑顔で右手で彼の肩を優しくポンポンとする。
「そんな顔をするな中佐。なーに、
正太郎からの命令に副連隊長は深呼吸をしてキリッとする。
「了解しました大佐、ただちに」
副連隊長は正太郎から打電書を受け取ると敬礼をし、正太郎も敬礼をする。
■
二日後の朝、全ての武器や物資、兵員を赤牟や二隻の第101型輸送艦、そして撤収の為に到着した、いんすますに積み込み出航の準備を整えていた。
一方の正太郎は蛯子と一郎、そして副連隊、二十人の歩兵を連れて尉樹羅古墳の前に居た。そして四五式軍帽を被った正太郎はキリッとした姿勢で古墳に向かって二歩前に出る。
「尉樹羅様!我々は貴女に感謝しています!先の戦いで現れたのが貴女だったのか分かりませんが、しかし!それでも我々がこうして生きて本土に帰れるのは貴女様のお陰です!このご恩は一生、忘れません!全兵士を代表して感謝を申し上げます!ありがとうございました!」
深々と頭を下げた正太郎は次ぐに左の腰に提げている兼定を抜き陸軍礼式を行う、そして刀を目の前で掲げると軍旗を持つ副連隊が大声で号令をする。
「捧げぇーーーーーーーーー!
兵士達は一糸乱れぬ動作で持っている三十年式銃剣を付けた三八式歩兵銃、四四式騎兵銃、九九式短小銃、四式自動小銃、九七式または九九式狙撃銃、一〇〇式機関短銃二型を掲げ、蛯子は敬礼を一郎も同じく虎徹を掲げる。
捧げ銃を終えると一郎は正太郎に近づく。
「正太郎、そろそろ就航の時間が近くなっているぞ」
それを聞いた正太郎は頷き、クルっと後ろへと振り向く。
「これより!本土へ撤収・・・いや!日本へ帰るぞ!」
それを聞いた兵士達は笑顔で返事をし、再び副連隊は号令をする。
「右向けーー!右!」
兵士達は号令に従い右を向く。
「前ーーーーーーーーーっ!進め‼」
兵士達は少し大回りする様に駆け足で石階段を降り軍歌『雪の進軍』を歌いながら赤牟へと向かい、正太郎達も古墳を後にするのであった。
そして赤牟を中心に左右に第101型輸送艦と後ろに、いんすますが本土に向かって航行する。
赤牟の艦尾甲板から島が離れる様子を正太郎と蛯子は寄り添う様に見ていた。
「ねぇ正太郎、産まれた私達の子には何て名付ける?」
笑顔で問う蛯子に正太郎も笑顔で答える。
「そうだなぁ。男の子だったら『
「どんな名前なの」
正太郎は蛯子のお腹を優しく触りながら笑顔で答える。
「
完
あとがき
本作は現在、執筆中の作品『異世界に転生した考古学者の俺は
また本作は特撮作品の『ウルトラマンティガ』のアナザー小説である『
前日談の為、伏線回収があるので楽しみにしていて下さい。
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