エピローグ じつは彼女と義兄妹になることになりまして……

 晶と付き合い始めてから一ヶ月程が経った七月に入って間もないころ。

 俺と親父がいつものように遅めの夕食をとっていると、「そういえば」と親父が思い出したように口を開いた。


「父さんさ、再婚したいんだけど……良いかな?」


「うん良いんじゃね〜…………ってはっ!?」


 親父と食事をとりながら話すときは九割九分くらいの確率でどうでも良い話ばかりなので、今日もそうかなと思った矢先、いきなり爆弾が投下された。


「さ、再婚!? 再婚って……再び結婚すると書くあの再婚!?」


「はははは、俺が見たかった反応をしてくれるなぁ」


「これでこれ以外の反応しないやつそうそういないだろ!?」


「それで、いいかな?」


 それでの使い方絶対違うだろ……

 その前にご飯を食べながら話すような軽い内容じゃない。


「親父、ちゃんと説明してくれ。再婚するって本気?」


「ああ。本気だ。相手ももういる」


「テッテレー! じつはドッキリでした! とかではないよな?」


「父さん、お前に嘘ついたことがあったか?」


「ドッキリはいっぱいされたぞ」


「あれはサプライズってやつだ」


「いやいや親父ってやること全部胡散臭いんだよ……まぁいいや。それで? もう意思は固いんだろ? 相手は?」


美由貴みゆきさんって言う、フリーランスのメイクさんだ」


「顔合わせは?」


「来週の土曜日だ」


「それまた急だな!?」


「それともう一つお前に朗報がある」


「もったいなぶらずに全部言ってくれ」


 すると親父は、セルフドラムを叩き──


「お前にができるんだ」


「きょ……!?」


「歳はお前の一つ下らしいぞ?」


「ナイスすぎるぜ親父!」


 一つ下だと晶と同じだな。でもまさかこの歳になってができるなんて嬉しすぎるぜ!


「てことで再婚、良いよな?」


「勿論だ! いや〜楽しみだなぁー!」


          *


「こういうのって親同伴で行くんじゃないのかよ……」


 親父に急用が入り、仕事場から直接待ち合わせのお店に向かうことになったので、仕方なく俺は一人で指定場所に向かっていた。

 不満たらたらで歩いていると、前に見覚えのある姿を見つけた。


「おっ!? 晶じゃん! どうした?」


 それは、スマホを片手にうろうろとしていた晶だった。


「涼太!」


 晶は俺の姿を見た途端、花のような笑顔を見せてくれた。


「じつはさ、母さんがこの店に来いって言ってるんだけど道がわからなくて……」


「奇遇だな。これ、俺が今から行く店だぜ! 一緒に行くか?」


「うん!」


 二人で手を繋ぎながら、他愛のない話をして店へと向かう。


「じゃあ、僕は母さん待つから。またね!」


「じゃあ先入るぜ。またな」


 予想外で晶と出会え、気分が良くなった俺は、上機嫌にドアベルを鳴らす。

 洒落た店内を見渡すと、奥のテーブルで年甲斐もなく手を振っている親父を見つけた。

 どこか緊張している親父を見て俺も緊張しながら相手を待っていると────



「えっ!?」


 後ろから親父の声の次くらいに聞いたであろう声が聞こえた。

 親父は後ろを見ると、軽く手を振って立ち上がった。

 俺も親父にならい、席を立って後ろを振り返る。

 するとそこには──


「──あっ、晶!?」


 若々しく上品な感じの女性と、俺の彼女が立っていた。


「お待たせ、太一たいちさん」


「いやいや俺たちも今来たところで。なぁ、涼太?」


「う、うん……」


「あなたが涼太くんね? 初めまして。お父さんとお付き合いさせてもらってる美由貴です。で、こっちは娘の──」


「あ、晶です」


「てことは……俺のって……」


「僕のお兄ちゃんって……」


「晶なのか!?」

「涼太なの!?」


 まさかの出来事に、俺と晶は二人で大声をあげる。

 というか、じゃなくてじゃねぇか! 親父ちゃんと言ってくれよ!


「あら? 二人とも、知り合い?」


 すると俺と晶の反応に思うことがあったのか、美由貴さんが聞いてくる。


「い、いやぁ凄く可愛い妹だなぁと思って」

「い、いやぁ凄くかっこいい兄だなぁと思って」


「良かった良かった。これなら仲良く出来そうだな」


 いやいや良くねぇよ親父! 俺たち一応、カップルなんだけど?


「あのー、ちょっとトイレに……」


「ぼ、僕も……」


 そう言って俺と晶は席を立つ。

 お店のトイレの前に来た途端、晶は俺に詰め寄ってきた。


「涼太どういうこと!?」


「すまん晶、俺もまだ理解が追いついてない」


「とりあえず、涼太と僕が家族になるってことでいいんだよね?」


「そういうこと……だな……」


「ど、どうする? 僕と涼太の関係って言った方がいいのかな……?」


「どうなんだ……分からないが、もしかしたら気を遣って再婚しないってパターンもありえるよな……」


「でも、母さんには幸せになって欲しいんだ、僕」


「あぁ。俺もだ」


「じゃあ、とりあえずカレカノの関係は隠すってことで!」


「だな。じゃあ晶……俺のこと、兄貴って呼んでくれないか?」


「別に良いけど……何で?」


「そう呼ばれるのに憧れてたんだ」


「変なの」


 そう言って晶は笑う。


「じゃあ、改めてよろしくな。晶」


「よろしくね、


 そんなこんなでこれから始まる俺たちのとしての生活。

 その後の俺たちの生活は波乱万丈だったのだが、それはまた別のお話。


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7月2日(土)


 母さんにお兄ちゃんができるって言われてたけど、その相手がまさかの涼太だった!

 まさか涼太と兄妹になるなんて思っても見なかった!

 涼太と話し合って、一応関係は隠すことになったんだけど……涼太は兄貴って呼んで欲しいみたい。ちょっと変だよね。でもそういうところも好き。

 というか、これからはずっと涼太の近くにいれるってことだよね!? 嬉しすぎない?

 これから涼太いや──兄貴との生活楽しみだなぁ!


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「緊張……するな」


「緊張……するね」


 俺と晶は、に、『好きな男の子を連れてくるから待ってて』と言われたので、二人で待っていた。


「ママ〜パパ〜!」


 二人で談笑していると、玄関の方から千晶の声がした。

 リビングのドアが開くとそこには、ショートヘアの娘と、昔の俺によく似た男の子が立っていた。


「お、お邪魔します! 俺、男友達が全然いなくて友達の家にお邪魔するのが初めてで緊張しているのですが……」


「えっ……ちょ、ちょっとまって……先輩、僕のこと男の子だと思ってたんですか!?」


「えっあっ、あの……つ、つつ、つかぬことをお聞きしますが千晶のお父様、お母様。千晶って……もしかして────」


「娘……女の子だよ…………?」


「えぇぇぇぇぇ!?」


「嘘!? 僕の性別、ずっと知らなかったの!?」


 目の前で言い合いを始めた二人を見て、俺と晶はクスッと笑い合う。


「なんか────」


「そうだね────」


「「昔の俺(僕)たちを見てるみたい」」


 じつは涼太と晶は結婚しました。


                 〈了〉

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【優秀賞受賞】じつは義妹じゃなくて彼女でした。 ハンくん @Hankun_Ikirido

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