1話 じつは出会ってました
じつは俺と晶が初めて出会ったのは再婚の場ではない。
あれは、四月に入って間もない頃だった。
俺が漫画の新刊を買いに行こうと本屋へ向かって歩いていると、三つの人影があった。
普通ならスルーするが、思わず目がいってしまったのは、女性二人が少年を逆ナンしていたからだ。
逆ナンって本当にあるんだ……
女性はそれぞれ髪の毛を金色と茶色に染めていて、カジュアルな服装からもどこかのギャル高校生だろう。
そして少年はダボっとしたパーカー姿で、フードを被っているのでよく見えないが、その背格好から中学生くらいだろうか。
それとなく俺はそばを通り過ぎようとした。
「ねぇ〜これから私たちと遊びに行かなぁ〜い?」
「いや……あの、僕…………」
「いいじゃ〜ん。アタイ君のこと気に入っちゃたからさ〜」
「えっと……その……」
ギャル二人の圧に押されているのか、ナンパされている少年は、借りてきた猫のように大人しい。
これ、困ってるやつだよな……
「あの……」
「ん? 誰? キミ」
「いやぁ、じつはコイツ俺のダチなんすよ。コミュニケーション取るの下手だから引いてくれませんかね?」
俺は初対面で悪いとは思ったが、信憑性を持たせるために少年の肩に手を回した。
「へ〜。じゃぁしょうがないか〜」
「それな〜」
「助かります」
「じゃあさ、キミが彼氏になってくれない? 結構カッコイイじゃん」
「えっ!?」
カッコイイなんて初めて言われたな。ちょっと嬉しかったが、ギャルはあんまり得意じゃないし、少年を助けるためなので、申し訳ないけど嘘をつくことにした。
「あー、すみません! 俺、彼女いるんですよ」
「ざんね〜ん。じゃあとりま別の子探そか〜」
「そだね〜」
そう言ってギャル二人は去って行った。
流石に女子だから、漫画で見るイカツイ系の男のナンパみたいにめんどくさくはならなかったな。良かった良かった。
「君、大丈夫?」
「あ、ありがとう……ございました」
少年はか細い声で頭を下げた。そして少年が頭をあげる際、被っていたフードが取れた。
その瞬間、俺は息を呑んだ──
まるで二次元から出てきたような美しく整った顔立ちがそこにあった。
長い
──彼は、同姓である俺でも見惚れてしまうほどの美少年だった。
確かに俺が女性だったら逆ナンしていたかもしれない。
「あの、なんですか……?」
ジロジロ見すぎていたのか、少年は
「あ、ああ……いや、なんでもない」
「そうですか。今回は助けていただきありがとうございました。では失礼します──」
「あ、ちょっと待った!」
「はい?」
俺が食い気味で引き止めたからか、今度は少し距離をとる。
慌てて俺は笑顔を作り、話しかける。
「それ……エンサム2の
少年の背負っていたカバンに付いていた『エンド・オブ・ザ・サムライ2』──通称『エンサム2』の男装の女剣士のキーホルダーに俺は目がいって声をかけてしまった。
「えっ……琴キュン知ってるんですか!?」
少年は先ほどとは打って変わり、目を輝かせながら食いついてくる。
「知ってるどころかずっとやってるぜ! でも、周りでやってる人が少なくてさ〜。全然話し相手がいないんだよな〜」
「分かります!」
「というか、琴キュンって言うんだな」
「ネットではそう呼ばれてますよ! じゃ、じゃあ、琴キュンの勝利時に言う言葉知ってます?」
「知ってる知ってる。せーので言おうぜ。せ〜の!」
「「自分より弱い者のところには嫁には行かぬ。欲しくば、打ち負かせ」」
「すご! 本当にエンサム好きなんですね! え〜っと……」
少年の言葉が止まる。そういえば……
「そういえば名乗ってなかったな。改めて、俺は真嶋涼太。高校二年生だ。えっと君は……」
「僕は
「えっと……姫野」
「僕のことは晶でいいですよ」
「そっか。じゃあ晶、これからよろしくな!」
「よろしくお願いします、涼太先輩」
こうして、俺と晶は知り合ったのだ。
*
それから俺と晶はカフェで『エンサム2』について語り合ったり、家で『エンサム2』で対戦したりして交流を深めた。
男同士ということもあって気を遣うこともなく楽しい時間を過ごしたので、いつの間にか本物の"兄弟”のように仲良くなっていた。
しかも、高校は同じ
晶はの母親が近く再婚をすることが決まったらしく、最近転入試験を受けて合格したとのこと。晶は人見知りのため、未だ友達は出来てないと言う。
俺的には晶の人脈を増やしてあげたいので、学校でも交流したいと思っているのだが、晶が何故か嫌がるので学校で関わることは半ば諦めていた。
そんな感じで放課後に遊ぶ程度の関係性であった俺と晶だったが、突如、俺と晶の関係が大きく変わることとなる出来事が次々と起こることを俺たちはまだ知らない────
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