2話 じつは男友達を家に泊めることになりまして……

 仲も深まり学校でも皆が環境に慣れ始める五月下旬、俺は晶を家に招いていた。

 いつものように雑談をしたり、『エンサム2』をして遊んだり。

 だが、そんな"いつも"が崩れたのは唐突のことだった。


「う〜んいっぱいやった〜!」


「流石に連続でやりすぎてちょっと疲れたな」


 伸びをしながら二人で床に寝転がる。すると、ピコンと携帯が鳴った。


「ん? 光惺こうせいからだ」


 光惺とは、中学からの付き合いである友人だ。


『お前ん家の近くで刃物持った不審者が出たらしから気をつけろよ』


 とのことだった。

 この近くで不審者って珍しいな……


「晶どうする? まぁ、大丈夫だとは思うけど……家ちょっと遠いんだっけ?」


「う、うん……」


「じゃあ、今日はウチ、泊まってくか? 明日も休みだし」


「うんじゃあそうする…………ってえ? 今なんて言った?」


「ん? 普通に泊まってくか? って」


「え? …………えぇええええ──!?」


 晶は急に顔を真っ赤に染めて叫んだ。


「何驚いてんだよ? あっ、もしかして俺の親に会うのが嫌なのか? でも大丈夫だ。今日は親父も仕事で遅くなるらしいし、気遣わなくてもいいんだぞ?」


「お、おおおお、親御さんがいないって……そ、そそそそういうこと!?」


「そういうことって何だよ。夜を一緒に過ごすだけだぞ?」


「だ、だけって……ほ、本気?」


 多分、晶は友人との付き合いに慣れてないから困惑してるのだろう。


「ああ。()なら当たり前だと思うぞ?」


「()なら当たり前なの!?」


「ああ。でも無理をしろとは言わない……俺は晶と友達になれて良かったと思ってる」


「な、何だよいきなり……」


「だから強制はしたくないし、これからも素の晶でいて欲しいと思う」


「涼太……」


「なので嫌なら嫌と素直に言って欲しい! 大丈夫だ。俺は強い」


「いや、別に嫌とかじゃなくてね!? むしろ涼太と一緒にいるのは楽しいよ! ただ、着替えとかもないし……」


「着替えなら俺の貸すぞ?」


「…………ね、ねぇもしかして涼太ってさ……」


「ん? なんだ?」


「いや……何でもない……」


 晶は何か思いついたような顔をしたが、口を紡いだ。

 本人が何でもないと言うなら深追いはしないでおこう。


「分かった。じゃあお言葉に甘えて泊まってくね!」


          *


 それから俺たちは宅配ピザを頼んで、漫画やゲーム攻略勤いそしんだ。


「そろそろ風呂入る時間か」


「そうだね。僕たちかなり遊びまくってたみたい」


 時間は午後23時。まぁまぁ良い時間だ。


「晶は客だし、風呂先に入るか?」


「う、うん。じゃあお先にお借りします」

 

「シャンプーとかリンスとか、自由に使ってもらっていいから」


「ありがとう」


 そして晶は俺の貸した服を持って風呂場へと向かった。


「さて、俺は布団の準備でもしますか」


 そう呟いて布団を準備し始めたとき、ふと俺の手が止まった。


「入浴剤ってあったほうがいいのか……?」


 さっきはカッコつけて『泊まっていけよ』と言ったが、実は友達が泊まるのは初めてだ。長い仲の光惺でも泊まったことはない。だから内心結構浮かれていたりする。

 だから気が回らなかったが、最近は入浴剤を入れる人とかも多いって聞いたしな……


「一応聞いてみるか」


 俺は風呂場へと急ぐ。もう入ってるだろうな……


 ────トントン……


「晶、入浴剤って────」


「ちょ、ちょっとまっ────」


 もう風呂に入ってるであろうと思っていた俺は、晶の返事を待たずして、扉を開けてしまった。心のどこかで、だし平気だろうと思っていた。それが良くなかった。


 扉を開けて顔を出した俺は、一瞬にして固まった。

 なぜなら────パーカーを脱いで、スポブラをつけた状態の晶がいたからである。

 肌はとても白く、スポブラには2つの小さな膨らみがあった。


「き、きゃあああああああ!」


 晶は顔を真っ赤に染め、大きな声で叫んだ。


「ご、ごめん!」


 俺も晶も驚きで数秒固まっていたが、晶が悲鳴をあげて体を隠した瞬間、俺も我に帰り、扉を閉めた。だかもう遅い。


「涼太、い、いいいいい今見たよね!?」


「見てな……はい、見ました…………」


 申し訳なさと混乱が一気に押し寄せる。

 俺の頭の先から足の先まで、全身の血液の流れが分かるくらい、心臓の鼓動が速くなる。

 これは夢なんじゃないか、そう錯覚するくらいには動揺している。

 俺は勘違いをしていた。

 でも、落ち着いて思い起こしてみれば、晶が男子じゃないって気づくきっかけはいくらでもあったはずだ。

 晶と出会ったとき、俺は見惚れそうになったし、今日も泊まりの話を持ちかけたときも動揺していたし。

 俺、鈍感すぎないか……?

 とりあえず今はこの問題と向き合わなければならない。

 ────晶はだったのか…………?

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