3話 じつは男友達だと思っていた女友達と付き合うことになりまして……

「絶対そうだと思ってた!」


 二人とも風呂に入り、俺の部屋で集まって今まで晶をだと勘違いしていたことや、脱衣所での件などについて説明した後、晶は俺に大声を浴びせた。


「だって涼太やたらと距離近いし、『泊まる? 大丈夫。親いないよ』とか言ってくるしさ」


「うっ……す、すまん……晶を傷つけてしまった」


「まあいいよ。僕も──この『僕』って言い方とか、服装もそうだし趣味とかも女の子っぽくないし。それに、泊まりの件は僕も了承したから……」


「あ、晶は何も悪くない! ここ一ヶ月くらいほぼ毎日一緒に遊んだりしてて気づかない方がおかしいから……」


「たしかに。涼太、ちょっとおかしい……? っていうか変わってるもんね。裸見られたのはビックリしたけど」


 どうせ涼太のことだから、『もうお風呂入っちゃったか!? 入浴剤って人の家ではみんな使ってるかもしれない』って気持ちが先行しちゃったんでしょ? と晶は笑う。

 だが、そこに嫌味は全く感じなかった。きっと俺のことを分かってくれているのだろう。

 絶対に嫌われたと思っていたが、晶のいつも通りな感じに少し安堵した。


「本当にごめんな、晶…………罪滅ぼしって訳ではないけど、俺にできることがあったら何でも言ってほしい」


「だったらさ、これからも今まで通りでいてよ!」


「今まで通りって……?」


「放課後に一緒にゲームをして、漫画を読んで。たまには帰り道に食べ合いっこしたり、家に泊まって話をしたり。普通の友達みたいな感じ?」


「そ、そんなことでいいのか……?」


「そんなことでって…… 涼太のことだから距離置いたりしそうだし。今だって、前よりも少し距離置いて座ってるよね? いつもだったらもっと近くに座ってる」


「そんなこと────」


 そんなことない。と言おうとしたが、言葉に詰まった。

 今は多様な時代。昔とは違って男性同士の恋愛もあるし、女性同士の恋愛もある。勿論、男女の友情だって成立するかもしれない。

 けれど、"男女"を無意識に分けていた俺は、晶のこの思いに反して、濁さずに言えば気を遣ってしまう。

 例えば、距離感を一定に保ったり、じゃれついたりしなかったり。気軽に家に呼んだり。


「──ごめん晶。今まで通りは難しいかもしれない。凄く気が合うし、一緒にいて楽しいとは思うけど、その……晶は可愛いし、女の子だから勝手に意識してしまうというか……」


 正直、男だと思ってたときですらふと可愛いなってドキッとしたことあったし。


「ならさ──」


 晶は先ほどのように頬を少し赤らめ、微笑んだ。


「──にしちゃえばいいんだよね?」


「そ、そういう関係って……?」


「こういう関係」


 晶がそう呟いた瞬間、目の前が真っ暗になった。

 何が起こったか気付いたのは、右頬に微かな温もりを感じたから。

 そして、その温もりが晶のそれだと理解したのは、目の前の晶が顔を真っ赤にしていたから。


「涼太、言ってくれたよね? 晶と友達になれて良かったって。何でも言ってくれって。それって本心じゃなかったの?」


「いや、本心だけど……」


「僕ね、嬉しかったんだ。涼太と出会えて楽しく毎日を過ごせて。僕と仲良くなろうとしてくれて。だからさ、涼太を僕の彼女にして?」


「そ、それは……」


「涼太……僕の裸見たよね? 責任、取ってくれるよね?」


 上目遣いで聞いてくる晶。

 ダメだ……女子だと理解してからより可愛く見えて仕方がない!

 でもここはハッキリと言わないと……


「俺は最近、晶と過ごせて楽しかった。これからも一緒にいたいと思うのも事実だ。だけど、お前はその……綺麗だし、俺とは違って好意を持ってくれる人がいっぱい出てくると思う。それに……『何でもいうこと聞く』っていう形で付き合うとはことできない……晶の気持ちにちゃんと答えたいんだ。正直まだ混乱してるところはあるし……」


「そ、そっか…………」


 そう言うと晶は哀しげな表情を浮かべる。

 そんな晶に向かって俺は言う────


「──だからさ、もう少しだけ待っててくれないか?」


 すると今度は驚いたような表情を浮かべる晶。

 そして悪戯っぽい笑みを浮かべ──


「分かった。良い返事、待ってるね! その代わり──」


 ──俺を押し倒し、腹の上に馬乗りになった。


「涼太にアプローチはさせてもらうね!」


「晶。俺、待っててって言ったよな?」


「でも涼太、何もしちゃいけないとは言ってないよね?」


 ごもっともです。


「ってことで、えーい!」


「おわっ! ちょっ! 晶、抱きつくな!」


「抱きつかれるの、嫌?」


「嫌じゃないが……こういうのには段階があってだな……」


「段階すっとばして僕の裸見た人が何言ってるのさ!」


「それは本当にすまんって!」


 完全に晶にペースを持っていかれてる俺。

 この日は、これ以上晶が何もしない代わりに一緒に寝ることで合意してくれた。

 以降、俺は晶に色々と振り回されることになる。

 いきなり手を繋いできたり、抱きついてきたり。

 そんな晶に、俺が『付き合おう』と返事をするのはそう遠くはなかった。


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5月27日(金)


 今日、涼太とたくさん話をした。

 なんと涼太は僕のことを男の子だと思っていたらしい。

 確かに女の子っぽくなかった僕も悪いけど、涼太には一人の女の子として見ていて欲しかったな……

 色々と涼太は気にしているみたいだった。

 だからかは分からないけど、涼太にこれまで通りにはできないって言われた。

 距離も前よりあった感じがしてちょっと悲しかったな……

 でも嫌われているわけではないみたいで安心。

 なら、僕から攻めるしかないよね!

 僕が攻めたら涼太照れてたし脈あるよね?

 こんな気持ちになったのは涼太が初めて。

 絶対に涼太をメロメロにしてみせるぞ!

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