第7話 煌びやかな夢の世界〜ヒメーヒ神殿へ〜
馬の足がぴたりと止まった。このネフェル神国の中心であり最も高貴な場所、ヒメーヒ・ネフェル神殿に到着した。この頃には山下は、いよいよ夢では無いことくらいは理解し始めてはいたが、理解したくは無いが故に自分がここにいることについて考えることを放棄していた。
ナギノに誘導され馬車を降りると、あまりにも素晴らしい景色にため息をついた。馬車が止まる先には石灰岩でできた石畳を拵え、天使カリプスの彫刻が両サイドに設置された豪華な橋が架かっており、その下には神都カリプスタルの美しい街並みが広がる。橋の先には弧を描くような扇型の大きな広場に、五メートルにも及ぶ女神ネフェルの石像と、それを囲む天使カリプスの石像のモニュメントが私たちを迎える。勿論その先には白い大理石であしらわれた神殿が聳え立っている。
「天使カリプスタルは女神ネフェルの力によって羽を授けられた。けれど、天使カリプスタルは妹のフェリーネルに騙されて、女神ネフェルを裏切った。」
「神話か?よくあるような展開だな。だからこそ信憑性があって、現実味を感じる。」
「本当の話ですからね。女神ネフェルはヒメーヒ神さまのご先祖さまなのですよ。」
「ふぅん。」
この世界についてのほんの少しばかりしか知らない故に、興味がそそられる感覚には至らなかった。しかし、それはすぐに覆された。
「私は天使カリプスタルの末裔なのです。」
「…そうか。」
「天使カリプスタルはその後、嘘の罪で翼を失い、女神ネフェルとその末裔の従者になる呪いを受けた。一族全てが従者になる呪いを…。」
呪いであると言うのにも関わらず、このような従者になるだけの呪いで良いのだろうか。少々不思議に思った。
「もう直ぐ着きますよ!ヒメーヒ神さまが来られたらしっかりとお辞儀してくださいね。」
しばらく歩くと大きな広間が現れた。神殿だ。周りにある見事な彫刻に加えて、神聖力が込められているであろう、青い光を放つ照明器具のようなものがあちらこちらにある。白い大理石の空間に金細工が所々アクセントとして散りばめられている。なんとも厳かな空間だ。この宮殿は広いが一体どのくらいの広さがあるのだろうか。
「ナギノ、ここは一体どのくらいの広さがあるんだ?」
「おおよそですけれど、この神殿153個分って聞いてますよ。」
「1…153個分…だと?」
「はい…。」
ナギノは不思議そうにこちらを覗いた。そうか、私の城も100個分くらいはある。だが生活する上では3分の一も使っていない。ましてや、ナギノは一応ではあるが名家出身だ。天使カリプスタルの末裔の名家フェリスタル家の彼女には、少しばかり大きいと言ったところだろう。
「おや、談笑しているのか。楽しそうでなによりだ。」
「ヒメーヒ神さま…!」
ナギノは咄嗟に跪き、私もナギノの腕によって跪かされていた。
喫茶レミニセント 牛若美衣 @ushiwakamaru-613
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