第6話 十六時四十四分
何とか日没までに神山駅までたどりついた。神山駅は神谷さんのご自宅がある駅だ。駅の由来の神山は神谷さんのご家系が代々受け継いでいるとマスターに聞いた。神山はパワースポットとして知られている。
疲れて眠ってしまった童子のような老婆を担いで、神谷の自宅のある神山を登る。老婆を担ぐ登山は少し体力を消耗する。四十路のおっさんには非常に重労働だ。
暫くすると神谷の家が見えた。立派な門に、立派な塀に囲まれた和風の邸宅。如何にも名家の豪邸である。木造特有の香りが漂い、落ち着く空間だ。
玄関の引き戸を開けようとすると、神谷が目を覚ました。
「お兄さん、ここまで連れてきてくれたの?」
「眠ってしまっていたからな。」
「ありがとう。もう遅いし泊まって。」
私は体に疲労が蓄積されたこともあり、言葉に甘えて泊まっていくことにした。神谷が良ければ、暫くここで過ごしたい。
「那岐子さん。暫く泊まってもいい?」
心の声が漏れ出てしまった。神谷は微笑みながら、うんうんと頷くのであった。そして神谷は夕食を手早く準備して、二人は何気ない会話を楽しみながら食事をし、眠りにつくのであった。
「おはよう。真太郎お兄さん。」
「那岐子さん、おはようございます。」
神谷が起こしに来た。急いで身支度をして朝食をとり、神谷の畑に向かう。朝焼けと思われるオレンジ色の空は、眠りへと誘う。朝早いのだろうか。頬を両手でパンパンと二度叩き目を覚させた。
那岐子の、いや神谷家の畑は、神山と太陽山の谷間に細長くある。広すぎず狭すぎずと言ったところだろうか。田舎によくある田畑の風景だ。畑仕事をしながら神谷は言った。
「夢、叶えてみない?」
「え?昨日も言いましたけど、無理ですよ!」
「昨日…?今日ですわよ。」
私は一瞬考え込む。まぁ、認知症だから仕方ないのかもしれない。日にち感覚がなくなることは良くあるだろうと深くは考えなかった。
「時間を止めたり、時間を巻き戻したり、そう言う方法があったらやりたいと思わないかしら?」
「夢のまた夢って感じですね…。そんな超能力あったらいいですけど。」
神谷はクスッと笑う。何がおかしいのだろうか。それにしても、日が上り切るのが遅くはないだろうか。感覚的には、一時間は経っている。そういえば、太陽の位置が全く変わっていない。慌てて時計に目をやると、十六時四十四分。昨日時計を見た時間から変わっていない。
「気付いてしまったのね。」
神谷は怪しげな笑みをこちらに向けて言ってくるが、恐怖や不安で私には言葉を音として発することはできなかった。
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