第64話 決戦を前に

 ソーイチに全てを話した。


 やはりと言うべきか、ソーイチは悩んでいた。


「別に無理にというわけじゃない。断ってもらってもいい。だが、ソーイチの有無で、こちら側の勝率が変わるってことも知っておいて欲しい」


 少しズルい気がするが、まあ仕方ない。


『いや、そうじゃないよ』


「え?」


『そっちは全然悩んでないよ。問題は、どうやって苦しめるかだよね』


「……え?」


 俺が今まで接してきたソーイチとは別人のようだった。


『だって何もしてないのに襲ってきて、それを返り討ちにしたらまた襲ってくるってことでしょ?』


「……そういうことになるな」


『そんな理不尽なことってないよ。やるからには徹底的にやらなきゃ』


 優しさの塊だと思っていたソーイチが、ある種猟奇的な面を出してきた。

 ただ、思い当たる節はたしかにあった。

 ソーイチは不条理な、筋が通っていないことを嫌っている。

 今回はそれに触れたのだろう。


「ありがとう。助かるよ」





「おかえり。成果は?」


 ソーイチと連絡を取った後、俺は再びログインした。


「あったぞ」


 俺はニヤリとムカデの口角を上げる。


精霊エレメンタルだ」


精霊エレメンタル?」


「あぁ。ランダムを選択しないとなれない種族だな。なんでも、一切の物理攻撃を無効化するらしい」


「物理無効化……聞いたことがないし、少し強すぎはしない?」


「俺もそう思う。どうやってバランスを調整してるのかは知らんが……というか案外してないのかもしれん」


 俺がそこまで話すと、レナはなにかを思い出したかのように顔を上げた。


「そうそう。私も言っておかなくちゃいけないことがあるの」


「何かあったのか?」


「いや、レベルが40を超えたのよ」


 考えてみればそれはそうだろう。

 魔銀ミスリルを掘っていた俺たちは、それなりに経験値も得ている。

 かくいう俺も43レベルとなった。


「あぁ、なるほど。で、どんな職業を?」


「随分悩んだんだけど、良いのがあったわ」


「ほう?」


祓魔師エクソシスト


「エクソシスト……何だか聞いたことがあるような……?」


「魔を祓うと書いて祓魔。これがどういう意味かわかる?」


「そのままじゃないのか? 魔物に強い……とか」


「それもひとつの正解ね。ただ、私が見出した祓魔師エクソシストの強さは別のところにあるわ。いや、ある意味では同じなんだけど」


 レナの言っていることが見えない。


「つまりはなにが言いたいんだ?」


「『魔』ってのは、人にとっては当然魔物のこと。じゃあ魔物にとって、『魔』ってなんだと思う?」


「誰にとっても『魔』ってのは魔物のことを指すんじゃないのか」


 感覚的に、俺はそう思う。


「そうね。私もそう思う。ただ、どうやら違うみたいなの」


 まあ文脈からして、大体の効果は見えてきた。


「ここでいう『魔』は、ある意味で『敵』と同じ意味合いを持つわ。人間の敵は当然魔物。となると当然、魔物の敵は……」


「人間、だな」


「えぇ。効果を簡単に言えば、人間への特効性能ね」


「なるほど。たしかに今の状況にはうってつけだな」


「そういうこと」


 人間へのダメージが上がるとか、そういう類いだろう。


「ところで、あの時のEXスキルはどんな効果だったんだ? たしかヘクセ……なんとか」


「〈魔女の一撃ヘクセンシュス〉ね」


「そうそう、それ」


「『魔女の一撃』って、知らない?」


「……いや、知らないな」


「ま、要はギックリ腰のことよ。脊椎……中でも腰椎にヒビを作る魔法みたい。で、ギックリ腰と同じような症状を出すってわけ」


「なるほど。ギックリ腰って聞くとちょっとスケールが小さい気がするが……よくよく考えると、相当強いんじゃないか?」


「そうね。ギックリ腰って基本的には立つことすら厳しい状態な訳だから、戦闘においてはそれが致命傷になりかねないわ」


「タイマンなら最強のスキルかもしれんな」


「ただ、さっきも言った通り、あくまでも腰椎にヒビを入れる魔法だから、脊椎のない魔物……例えば、アリスには一切効かないわ」


「まあ道理だな」


「でも、私たちはラッキーね」


 レナの言っている意味がよくわからない。


「……? どういうことだ?」


「いや、人間には、脊椎があるでしょ?」


 これまでのものよりも、一層邪悪な笑みだった。





「で、今日もゴウは来ていないのか」


 羅刹天一行は今、シクスではなく、アルクチュアにいた。

 ストゥートゥの軍は当然ストゥートゥから出立し、アルクチュアで4ギルドと合流するという手筈であった。

 いよいよ明日に迫った開戦を前に、その準備をアルクチュアで整えているのだ。


「はい。〈伝言メッセージ〉も何度も飛ばしているのですが……応答はありません」


 The Second Lifeというゲームは、VRMMOにしては珍しく、プレイヤー間のチャット機能がない。

 連絡を取りたければ、魔法師マジックキャスターになって〈伝言メッセージ〉の魔法を取得するか、街にて安価で取り引きされている〈伝言メッセージ〉のスクロールを使用するかのどちらかだった。

 大抵のプレイヤーが用いる〈伝言メッセージ〉のスクロールは1度きりのもので、1度使えば効果は消える。

 そのため、相当資金に余裕があるプレイヤーでなければ、アイテムボックスの中にはいくつもの〈伝言メッセージ〉のスクロールを抱えることとなっている。


 ただ、当然羅刹天の面々は資金に余裕があるので、永続的に〈伝言メッセージ〉の魔法が使えるスクロールを使用している者が多かった。


「そうか……まあいい。1人欠けたところで、我々の勝利は揺るがない」


 自信ありげにレオンは言う。


「だが、放っておくわけにもいかないか……戦争の後の最優先事項はこれかもしれんな……」

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ムカデで始めるVRMMO〜どうやら俺、魔王って呼ばれてるらしい〜 ギンヌンガガプ @ginnungagapu

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