第64話 決戦を前に①
ソーイチに全てを話した。
やはりと言うべきか、ソーイチは悩んでいた。
「別に無理にというわけじゃない。断ってもらってもいい。だが、ソーイチの有無で、こちら側の勝率が変わるってことも知っておいて欲しい」
少しズルい気がするが、まあ仕方ない。
『いや、そうじゃないよ』
「え?」
『そっちは全然悩んでないよ。問題は、どうやって苦しめるかだよね』
「……え?」
俺が今まで接してきたソーイチとは別人のようだった。
『だって何もしてないのに襲ってきて、それを返り討ちにしたらまた襲ってくるってことでしょ?』
「……そういうことになるな」
『そんな理不尽なことってないよ。やるからには徹底的にやらなきゃ』
優しさの塊だと思っていたソーイチが、ある種猟奇的な面を出してきた。
ただ、思い当たる節はたしかにあった。
ソーイチは不条理な、筋が通っていないことを嫌っている。
今回はそれに触れたのだろう。
「ありがとう。助かるよ」
*
「おかえり。成果は?」
ソーイチと連絡を取った後、俺は再びログインした。
「あったぞ」
俺はニヤリとムカデの口角を上げる。
「
「
「あぁ。ランダムを選択しないとなれない種族だな。なんでも、一切の物理攻撃を無効化するらしい」
「物理無効化……聞いたことがないし、少し強すぎはしない?」
「俺もそう思う。どうやってバランスを調整してるのかは知らんが……というか案外してないのかもしれん」
俺がそこまで話すと、レナはなにかを思い出したかのように顔を上げた。
「そうそう。私も言っておかなくちゃいけないことがあるの」
「何かあったのか?」
「いや、レベルが40を超えたのよ」
考えてみればそれはそうだろう。
かくいう俺も43レベルとなった。
「あぁ、なるほど。で、どんな職業を?」
「随分悩んだんだけど、良いのがあったわ」
「ほう?」
「
「エクソシスト……何だか聞いたことがあるような……?」
「魔を祓うと書いて祓魔。これがどういう意味かわかる?」
「そのままじゃないのか? 魔物に強い……とか」
「それもひとつの正解ね。ただ、私が見出した
レナの言っていることが見えない。
「つまりはなにが言いたいんだ?」
「『魔』ってのは、人にとっては当然魔物のこと。じゃあ魔物にとって、『魔』ってなんだと思う?」
「誰にとっても『魔』ってのは魔物のことを指すんじゃないのか」
感覚的に、俺はそう思う。
「そうね。私もそう思う。ただ、どうやら違うみたいなの」
まあ文脈からして、大体の効果は見えてきた。
「ここでいう『魔』は、ある意味で『敵』と同じ意味合いを持つわ。人間の敵は当然魔物。となると当然、魔物の敵は……」
「人間、だな」
「えぇ。効果を簡単に言えば、人間への特効性能ね」
「なるほど。たしかに今の状況にはうってつけだな」
「そういうこと」
人間へのダメージが上がるとか、そういう類いだろう。
「ところで、あの時のEXスキルはどんな効果だったんだ? たしかヘクセ……なんとか」
「〈
「そうそう、それ」
「『魔女の一撃』って、知らない?」
「……いや、知らないな」
「ま、要はギックリ腰のことよ。脊椎……中でも腰椎にヒビを作る魔法みたい。で、ギックリ腰と同じような症状を出すってわけ」
「なるほど。ギックリ腰って聞くとちょっとスケールが小さい気がするが……よくよく考えると、相当強いんじゃないか?」
「そうね。ギックリ腰って基本的には立つことすら厳しい状態な訳だから、戦闘においてはそれが致命傷になりかねないわ」
「タイマンなら最強のスキルかもしれんな」
「ただ、さっきも言った通り、あくまでも腰椎にヒビを入れる魔法だから、脊椎のない魔物……例えば、アリスには一切効かないわ」
「まあ道理だな」
「でも、私たちはラッキーね」
レナの言っている意味がよくわからない。
「……? どういうことだ?」
「いや、人間には、脊椎があるでしょ?」
これまでのものよりも、一層邪悪な笑みだった。
*
「で、今日もゴウは来ていないのか」
羅刹天一行は今、シクスではなく、アルクチュアにいた。
ストゥートゥの軍は当然ストゥートゥから出立し、アルクチュアで4ギルドと合流するという手筈であった。
いよいよ明日に迫った開戦を前に、その準備をアルクチュアで整えているのだ。
「はい。〈
The Second Lifeというゲームは、VRMMOにしては珍しく、プレイヤー間のチャット機能がない。
連絡を取りたければ、
大抵のプレイヤーが用いる〈
そのため、相当資金に余裕があるプレイヤーでなければ、アイテムボックスの中にはいくつもの〈
ただ、当然羅刹天の面々は資金に余裕があるので、永続的に〈
「そうか……まあいい。1人欠けたところで、我々の勝利は揺るがない」
自信ありげにレオンは言う。
「だが、放っておくわけにもいかないか……戦争の後の最優先事項はこれかもしれんな……」
ムカデで始めるVRMMO〜どうやら俺、魔王って呼ばれてるらしい〜 ギンヌンガガプ @ginnungagapu
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