最終話・後

 取り敢えず僕たちは、全く人のいない平野へと転移した。


「ごめんね? 突然、魔法を発動させちゃってさ……」


「いや、大丈夫だ。≪転移魔法≫も使えるのか……高度な≪回復魔法≫の他にも……流石、俺の重傷を完治させた魔法使いだ」


 俺の重傷を完治……もしかして……!


「君……マルゴ!!」


「あぁ、その通りだ!」


 そう言った彼は、フードを上げると側頭部に二本の角が生えてた、前に僕が助けた魔人族のマルゴだった。


「どうして君が王都にいたのさ……危険だよ?」


「はははっ……どうしても姉さんがお前に礼を言いたくてさ……それにほら、あの時の戦争で俺たち魔族と人間は互いに疲弊したことで、停戦条約を結んだだろ? だから、それを利用してよ……」


「いや、そうだとしても……」


 君とそのお姉さんに危害が無いとは言えないじゃないか……、と僕は溜息を吐いた。


「姉さん、ほら」


「あぁ、わかっている」


 マルゴがそう言うと、お姉さんはフードを上げるのだが……僕はこの顔を知っていた。


 だから思わず、目を見開いて呟いてしまった。


「魔王……マルシア……?」


「何だ、我のことを知っていたのか」


「う、うん……」


 まさか……マルゴのお姉さんが魔王だなんて……。


 ん? 待てよ……魔王マルシアが人類を滅ぼそうとしたのは、弟を人間に殺された復讐で……だけどその弟の命は助かっているから、魔王が僕たち人間を攻め込む理由は無くなった……?


 ということは―――。


 僕が結論を導き出そうとすると、マルゴが魔王マルシアの背中を押して、僕に近づけさせた。


「ま、マルゴ!」


「頑張れ姉さん!」


 なんのこっちゃら。僕が困惑していると、魔王マルシアはもじもじとほっぺを赤くして、人差し指と人差し指でツンツンと恥ずかしそうにしていた。


 魔王さんや……どうしたんだい?


「ま、まずはマルゴを助けてくれて……礼を言う……ありがとう」


「ううん、お安い御用だよ」


「そ、それでだな……私のたった一人の弟をた、助けてくれた恩返しとして……わ、我と!! 結婚をしてくれ!!」


「………ん?」


 今、結婚してくれとか聞こえたんだけど、聞き間違いだよね?


 そう思っていると、魔王マルシアは壊れた。


「あ、あのだな!! これは魔族と人間の友好の架け橋を作ることであって!! 決して見ず知らずの他人、ましてや敵対する魔族を助けた優しい所に惹かれた訳ではない!! か、勘違いするなよ!! わ、我がお前のことが好きではない!! わかったか!!」


「はぁ……姉さん、ツンデレキツイって……」


「ツンデレではなーい!!」


 頭を抱えるマルゴに、怒号を飛ばすその姉。


 確かに僕と魔王が結婚したら、そうなる可能性もあるよね。


 だけど僕には、将来を誓い合った恋人がいる!


 例えその道が、平和の道だろうと僕は……!


「ごめんなさい、魔王! 僕には恋人がいる! だから、その提案を受け入れることはできない!」


「「えっ……?」」


「それに魔王は僕のことが好きじゃないんだよね? なら、自己犠牲する本意でない結婚は止めなよ。ちゃんと君が大好きって思った人と結婚するんだ。ほら? その方が君も幸せだし、より豊かな人生になると―――」


「殺ぉおおおおおおおす!!!」


「姉さん!」


 僕がアドバイスをする途中、魔王マルシアが僕に襲い掛かり、マルゴがそんな姉を止めようと手を伸ばす。


 しかし、その止める手が届くよりも先に、僕の命が狩られると思った僕は―――。


「たすけてぇええええええええ!!!」


 そう叫ぶと案の定、エルザ、セリスお姉ちゃん、アリスお姉ちゃん、ミリスお姉ちゃん、エルメダ、アリシアお姉さん、リーシアお姉さん、そして最後にユキナお姉さんが現れた。


 ユキナお姉さんはアンクレットをプレゼントしたんだ! だから、召喚に応じることができるのだ!


 つまり僕は……最強の戦闘員たちを今! ここに集結させた……。


 ふっふっふ……これで僕の身の安全は確保―――。


「……あれ? 何で僕のことを捕えているのだい? セリスお姉ちゃん……僕、襲われそうになってるのに……」


 僕の身体をセリスお姉ちゃんが羽交い締めにして捕えており、魔王を見てみると普通にエルメダが止めていた。


「ほぇ~……スゴイや……」


「ユーリ……もう逃げるなよ……」


 セリスお姉ちゃんがそう言うと、みんなの鋭い視線が僕に向けられた。


「くっ……! 離せ……!」


「もしやお主も、ユーリに魅了された者の一人か……?」


「ち、違う! 魅了などされていない!」


「そうか……。セリス、どうやらこやつは部外者のようだ。さっさとユーリを連れて帰るぞ」


 エルメダが顔だけをこちらに向けそう言うと、セリスお姉ちゃんが頷いた。


「つ、連れて帰るって……勿論、僕のお部屋だよね……」


「あぁ……だがな―――監禁させてもらうがな」


 えっ……? セリスお姉ちゃん……監禁って言った……?


「ど、どうして……」


「ユーリ様が転移して逃げた後、全員で考えたのですよ……」


「このままユーリ君を野放しにさせておくのは危険だってね……」


「そこで出た案が……監禁……ってことよ……」


 エルザ、リーシアお姉さん、ミリスお姉ちゃんがそう言うと、みんなが不気味なくらーい顔で僕に近づいてくる。


「怖い!! 怖いよみんな!! というか僕、何にも悪いことしてないのに!! どうして監禁されなくちゃいけないのぉおおおおお!!!」


「「「それはユーリ(君)が勘違いさせるからでしょぉおおおお!!!」」」


 みんなが怖い顔で叫ぶ。


 それを一身に受けた僕は、情けない叫び声を上げながら、羽交い絞めを抜け出して逃げる。


「「「待てぇえええええええ!!!」」」


「ひぃぃぃいいいいいい!!!」


 すると、僕たちに続く者たちがいた。


「私たちも追うぞ、マルゴ!!」


「お、おう! よくわかれぇけど! 行こうぜ!」


 



 こうして僕が逃げ続けたことで、また新たな戦争の火種が生まれた。


 それは、人間側と魔族側のどちらかが僕を管理することだ。


 つまり、僕のせいで人間と魔族が争うことになった。


 こりゃ、困ったね。せっかく、僕がマルゴを助けたことで戦争を起こす必要が無くなったというのに……まぁ、理由は分からないけど自業自得ってことはわかった。 


 そしてこの戦争は後々、こう呼ばれるのだった……。




 ―――ユーリ争奪大戦……と。




 ~終~

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悪役寝取り貴族に転生した純粋無垢な8歳の少年~脳内に最低すぎる悪役セリフが流れてきますが、セリフの意味が理解できないので自己流に改変したら……激重ヤンデレハーレムを築きました~ 大豆あずき。 @4771098_1342

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