最終話・前
あれから6年、僕は15歳になった。
この6年で変わったことと言えば、クラリスタ家の汚名が完全に晴れたこと、アリシアお姉さんとリーシアお姉さんが僕を『ユーリ君』と呼ぶようになったこと、そしてユキナお姉さんがウチによく遊びに来るようになったことかな?
いや、それだけじゃないか。
僕はソロ冒険者として活動を続けたことで、3年ぐらいでSSランク冒険者になったんだ。
またSSランク冒険者になったから当然、SSランクのクエストを受けたんだけど……その途中で魔族の青年を助けた。
思い返してみれば、この時の人間と魔族の戦争がこの物語の発端なんだよね。人間が一方的に魔族を根絶やしにしようとするんだ。
魔族は人間に何もしてないのに……。
っんで、この戦争には物語のラスボスである『女魔王』の弟が参戦してるんだ。その弟が戦死したことによって、その復讐として更に人間と魔族の戦争が激しくなっていった……。
あぁ勿論! 僕が助けたのは多分、一般兵かそこらの魔族だから、決して女魔王の弟は助けてないよ!
顔が美形で魔力がスゴかったけど……あれが魔族のデフォルトだから大丈夫! 物語に影響はない! だから僕は、主人公を覚醒させるのみだ!
では、早速……僕の最後の役目を果たそうかな……。
僕は今、主人公の幼馴染であり恋人のライカの腕を掴んでいる。
そんな僕を主人公のアイクは横から殺気を視線に込め睨みつけている。
それはそうだろう、自分の彼女がどこぞの馬の骨とも知らない男に腕を掴まれているのだから。
でもね…アイク…君の覚醒のために必要なことなんだ。
だから…許して。
僕はアイクに睨まれたまま、ライカを真っ直ぐに見つめる。
「ライカ! いっぱいオカしてあげるから! 僕のお部屋に来て一緒に遊ぼ!」
「おいっ! どういうことだよ! 人の彼女に手ぇ出してんじゃねーよっ!―――」
横でアイクが僕に怒鳴りつけているがフル無視しよう。よし! 言い切ったぞ!
後はこのまま僕の部屋に直行して夜通し遊び尽くせば僕の役目はほぼ完了だ!
僕はライカを部屋に連れていくために後ろを振り返り歩こうとしたが……。
あれ?進まない!? んぐっ! ん~ぐっ! だ、ダメだ! 全く動かない!
僕がどれだけ足を踏ん張って歩こうとしても、ライカが石像の如く足に重心を置いているため、連れて歩くことができずにいた。
ど、どうしよ!?
このままで物語の展開通りにならな―――。
瞬間、僕はライカに引っ張られ抱き締められた。
「へっ?」
「ら、ライカ!?」
僕は余りに突然な出来事で素っ頓狂な声を出し、アイクは目を見開きながらライカに向かって叫んだ。
しかし、次第に僕は冷静さを取り戻し状況を整理した。
うんうん。僕の胸に押しつけられている圧迫具合からして…ライカのおっぱい大きい!
…っじゃなくて! どういうことなの!? 何でライカは僕に抱き着いてるの!?
僕がライカの突如の奇行に心の中で文句を言っていると、耳元に熱を帯びた吐息がかかりこう囁いた。
「―――いいよ? た~くさん私を犯して、あなたの子を私に孕ませて…ね?」
「………」
「ライカ~~~~っ!!」
僕は無表情かつ虚ろな瞳でただ前を見つめ、アイクは膝から崩れ落ち泣き叫んだ。
だが、僕は表情にこそ現れていないが、心の中では滅茶苦茶焦っていた。
知らない知らない知らない知らない! こんな展開知らない!
えっ? だって…えっ? 僕の知っている展開だとライカは嫌がって泣き叫んでいたのに……。
しかも…泣き叫んでるのアイクだし…。
ってか! 何でライカは容認してるの!? 何で喜んでるの!? 拒絶してたでしょ君!? おかしいよ!?
こんな展開もライカも……僕は知らない……。
それじゃあ僕は……この世界での役目を果たすことができなかったってこと?
主人公であるアイクを覚醒させることができないってこと?
ということは―――この世界で一体誰が魔王を倒すの!?
「あ、あの……ライカさん……。僕たち……初対面? だよね……。どうして……」
「ん~? だって、あなたの魂がとても透き通ってて透明だから……そんな綺麗なあなたに犯して欲しいの……ダメ?」
えっ!? ライカって人の魂が見えるの!? 何その裏設定!?
ってあれ? つまりライカが嫌がってたのって……ユーリの魂が汚いからで、今ライカが嫌がってないってことは……僕の魂がキレイだからってことになるね……。
なら納得~~。なるほど……そういうことだったか……。
「ふむふむ……」
「ねぇねぇ、早く私のこと犯して~~~」
ライカはそのおっきいおっぱいを更に僕へ擦りつけてくる。
うん。これは早く僕のお部屋に連れて、いっぱいオカしてあげたいとね。
「わかった! 僕、ライカのこといっぱいオカして―――」
「―――ユーリ様……何でメス豚なんかとくっついているのですか?」
背後から、メチャクチャ怖い……だけど、聞き覚えのある声が聞こえた。
こ、この声は……まさか……!!
おそるおそる振り返るとそこには……人を容易に凍り付かせるほど冷たい微笑をするエルザがいた。
あっ、ちなみにエルザは【王立スターリンク魔法学園】の二年生で僕の一個上の先輩であり、見事絶世の美女さんになって、おっぱいも素敵な美乳さんに成長したんだ!
うんうん! やっぱりおっぱいはゴツゴツおっぱいじゃなくて、ぷにぷにおっぱいがいいよね!
僕は毎日、エルザのおっぱいに顔を埋めさせてもらっている……最高!
だけどそれは、おっぱいが最高なだけであって、現在僕の状況は最悪の事態に陥っている。
これってもしかして……浮気に当たる……よね?
―――今すぐ弁明しないとっ!!
「あ、あのね!! エルザ!! どうして訳あって、この子のことオカさないといけないんだ!! 本当にそれだけ!! 浮気じゃないから!! 一晩中、オカすだけだから!! 僕が大好きなのはエルザだけだから!! ……あっでも、お姉ちゃんたち家族や使用人のみんなやお姉さんたちもやっぱり大好きだな僕~~~あははっ―――」
「―――そこは私だけを『愛してる』って言わなきゃダメでしょ!! 浮気バカユーリ様ぁあああああああッ!!!」
突如、鬼のような形相で滝のように涙を流し、剣を握りしめ僕に襲い掛かるエルザ。
その姿を見て、僕はこう思った。
あぁ……これが所謂『鬼の目にも涙』ってやつか……早く逃げよ。
僕はライカの脇腹をくすぐり、密着ホールドを抜け出す。
「きゃはははっ……!! くすぐったいよ~~」
「うぉおおおおおおおおッ!!」
そして僕は、全速力で逃げる!!
どうしようか……どこかひと気のいない裏路地に行って、そこから≪転移魔法≫を発動しようか……。
そう思った僕は、裏路地を目指して走るのだが……。
「ユーリ?」
「ど、どうしたの? そんなに必死に走って……」
「後ろのいるの……エルザ?」
「ん? なんじゃあの小娘……泣いておるぞ?」
「それも物凄く泣き腫らしていますね……」
「ユーリ君さては……泣かせたね?」
なんと、僕の姉たちにエルメダとアリシア、リーシアお姉さんたちに出くわしてしまった。
僕はみんなの前で太もも高速上げしながら、「えっと……それはその……」と返答に困っていると……。
「皆様、ユーリ様を捕まえてください!! 早速、女子生徒を魅了したのです!!」
「「「何ッ(じゃと)!!!」」」
「だから早くユーリ様を!!!」
エルザがそう言うと、一斉にみんなが牙を剥きだしにして僕に襲い掛かる。
「僕の話、聞いてってばぁあああああ!!!」
僕は思いっきりジャンプして、みんなの攻撃を回避してダッシュ!!
王都の中はダメだ……!! 外に出ないと!!
そうして、僕が王都を脱出しようとすると、遠くでフードを被った二人組のうち一人が大きく僕に向かって手を振っていた。
「おーい! ユーリ!」
「ん……? 一体、誰だろう……」
目を凝らして見るも、フードを深くかぶっているため顔が確認できなかった。
まっ、取り敢えず……話を聞こうかな? 僕のこと知ってるみたいだし。
という訳で―――。
「ユーリ! あの時は助けて―――」
「≪転移≫!」
二人の手を取って≪転移魔法≫を発動した。
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